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柴犬とアタッチメント

我が家に柴犬が家族入りしました。
とても大人しく気立ての良い子で、ブリーダーさんから、「コンテストを狙えるタイプだし、赤ちゃんを産ませないのは勿体無い…」と言われていたのでかなり悩みましたが、どんな子が何匹産まれるかわからないのに責任持てないなと、避妊手術をすることにしました。赤ちゃんを産ませないのであれば、女性生殖器系の腫瘍のリスクが高まるという話を聞いたので、病気を予防するためにと。
 
普段の予防接種もおとなしいのですが、術前検査もやはり全く泣かず、とてもお利口さんに終了。
ところが手術当日。異常に痛がるので術中に麻酔を追加したということで、ぼーっとした状態で帰宅。麻酔が切れた翌朝から、痛がること半端なく鎮痛剤を飲ませるも半日経つと泣きだす状態。病院が休みだったので、24時間家族が誰か付き添いながら、キャンキャン泣きだすと背中をさすって過ごしました。飲水すらできずぐったりした状態。まさか尿管損傷か?!とドキドキしつつ、術後2日目に再診しました。
バイタルサイン、採血異常なく、点滴で排泄はあり、一日入院して経過をみてもらった上で、結果的についた診断は「精神的ストレスによるもの」。
獣医さん曰く「柴犬はこだわりが強いから、こういう子もいるんですよ。育てにくいと感じて手放す飼い主さんもいらっしゃいます。この子は術前大人しかったから予想外でしたが…今後も環境の変化には弱いかもしれません」と、精神安定剤を処方されました。
 
術後3日間、飲まず食わずで、ぐったりしているので、毎日点滴通い。念のため採血もして、やはり異常はありません。4日目になってようやく少しずつ食事をとりだしたものの、抱っこを求めて膝に座ってきて、とにかく元気がないし、薬が切れる時間になるとキャンキャン泣きだすのも数日続き、ぶるぶる震えながらじっと座って元気がない状態。大好きなお散歩にも行こうとしません。まさに抑うつ状態です。診断するなら「急性ストレス障害」でしょうか。
 
出産させないなら避妊手術をした方がよい、とどの本を見ても書いてあるので当たり前のように選択したのですが、まさかこんなことがあるとは思いもよりませんでした。
マッサージすると落ち着く感じがするので、ひたすら抱っことマッサージ。「犬が落ち着く」というタイトルのYoutube番組を流したり、アロマの香りを試してみたり…そうこうしながら、少しずつ元気さを取り戻していきました。
 
 
振り返ると、この子は、ブリーダーさんのところにいた時から、不安が強いタイプで、いつも母犬にベッタリだったそうです。生後6ヶ月で我が家に来て、1ヶ月ほどは食欲が減って痩せてしまいました。ブリーダーさんに相談しながら、お湯をかけてみたり、缶詰を混ぜてみたりしましたがうまくいかず。「手作り犬ご飯」の本を読みながら、あれこれ試していると、自分が産んだ子どもたちの離乳食時と同じだなーと懐かしい気持ちに。食べない時、手にドッグフードを乗せてみると食べる、なんていうこともありました。まるで、子どもに「あーん」と言いながら食べさせるみたいに。
最終的に、いりこをミルで粉砕したものと鰹節にお湯をかけたお出汁(まさに離乳食時によく作っていたものです)を、ささ身を混ぜたドッグフードにかけると、ご飯を食べるようになりました。
 
我が家に慣れるまでの1ヶ月間は、母子分離による心的外傷で、抑うつ的になっていたのでしょう。
赤ちゃんが泣き止まない時に、あーでもないこーでもないと試行錯誤するのと同じで、「ご飯を食べない」という症状を呈するその子に、あーでもないこーでもないと試行錯誤しているうちに食べるようになりました。そして、安心してきたのでしょうか。我が家に来て3ヶ月経つ頃から、色々と自己主張をするようになってきました。

まだまだ子犬のこの子。ブリーダーさん宅で、親や兄弟と一緒に過ごしていた時は、毎日犬同士で楽しく遊んでいました。ところが私たちのところに来てから、子どもたちが楽しく遊んでいるのを横目で見ることの方が多く、寂しい気持ちを抱えているのかもしれません。
いつも私が夕食を食べ終わる頃にクンクン鳴くのです。そろそろ構ってよ、と言わんばかりに。
そして、構ってくれない時は、ドッグハウスをひっくり返します。マットの上に犬用のシーツを敷いているのですが、このシーツを引きはがして、下のマットをかじるのも、何か言いたいことがある時の行動です。

親が思う子どもの「問題行動」も、子どもの側からすると「問題提起行動」なのですが、言葉で訴えることのできない犬はなおのこと。飼い主の感じる困った行動は、困らせないとわかってくれないから、そうしているのだという飼い主側の視点が必要だと思います。
 
今回、術後にこの子の隣で夜眠ったり、休日にずっと付き添ったりしながら、この子はこうして私を独り占めにする時間を必要としていたのかもしれない、と感じました。
 
 
精神分析家であるウィニコット先生は、playingの前にbeing、と仰いました。つまり、「(安心してここに)いること」ができて初めて、「遊ぶこと」ができるのです。それは犬も同じ。安心していられるようになって、散歩や遊び、食べる楽しみを享受できるようになるのですね。
母犬と離れた悲しみや、手術のストレスで不安な気持ちが一杯の時には、安心してここにいられないから、ご飯も食べられないし、外に出て散歩なんてとても怖くてできないわけです。
 
とある柴犬を多頭飼いされているオーナーさんは「一般的に柴犬はツンデレ気質で、甘えたり、無視したり、on offがはっきりしています。独立心が強く、また独占欲も強く、犬の中では感情が人間的です。いじけたり、しけたりして自分を可愛がって欲しいとアピールします。時に詐病もあります。撫でられて愛情を感じると機嫌が治ることもあります。他の犬に嫉妬して拗ねることもあります」と仰っていました。
獣医さんが言われた「育てにくい柴犬」というのは、他の犬種以上に飼い主に対して愛情を強く求める犬であるために、愛着障害に至ってしまった状態なのではないかなと感じます。
 
もしかすると、母犬と引き離されたトラウマを抱えたまま、新しい飼い主に迎え入れられ、安心感を得るためにその子にとっての「いつも通り」を求める行動が、「こだわり」と捉えられてしまうのかもしれません。
犬の飼育書には、最初のヒートが来る前に避妊手術を…と書かれてあるため、避妊手術・去勢手術を選択する多くの飼い主さんは、飼ってすぐに手術をとなることが多いと思います。
ですが犬によっては、このタイミングだと、母犬と引き離された分離のストレスに手術のストレスが加わってしまうことで、人間への警戒心を高めてしまうかもしれません。
我が家の愛犬のように、その子の個性も加味して、手術の選択を考える必要があると思います。
 
 
犬にとって、自分の好きなタイミングで自由に外を走り回れるわけでもなく、静かに落ち着いて過ごせるわけでもない我が家では、この子にとって最適な環境を、私たちは提供できていません。それでも、できるだけ安心安全に、食う寝る遊ぶができるよう試行錯誤することが、母犬との分離による悲しみを抱えた環境の変化に弱い我が家の柴犬への一番の処方箋かなと考えています。
 
犬の住居環境が変化する現代。数十年後は、犬のメンタルサポートのために、Child Life SpecialistならぬDogs Life Specialistが流行っているかもしれない、なんて空想しております。その頃に、「柴犬心理研究家」と名乗れるかしらと思いながら、今日も柴犬飼育に試行錯誤しています。

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