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繭【全6話】

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ボスニア・ヘルツェゴヴィナを旅する高橋春彦。そこで出会った女性、真結は社会人学生でジェノサイドを研究しているという。 何気なく旅しに来た春彦だったが、真結からボスニア・ヘルツェゴ…
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#オリジナル小説

【連載旅小説】繭 #1

GWに、有給を付けて少し長めの休みが取れることになったので、僕は旧ユーゴスラビアの国々を周る旅をすることにした。 海外で生活したことのある義兄の遼太郎さんでさえ「お土産の想像もつかないな」と言った。 僕も特に深い意味はなく、なんとなく決めた行き先だった。 * * * クロアチアのドブロヴニクからバスでボスニア・ヘルツェゴビナのモスタルという街に入った。 モスタルはスターリ・モストという橋が有名。事前に調べたところによると、負の世界遺産となっている。 1990年代、ユ

【連載旅小説】繭 #5

「真結さんがそこまで言い切れるのは、なにか理由があるの? そういう思いにさせてる根本には何があるの?」 真結さんは一度目を背け、のどかな山の稜線に目をやった。 鳥が数羽、ちょうど羽ばたいていった。 「私はあぁいった映像や資料を見ても、あまり強いダメージを受けません。事実として冷静に受け止めています。あぁいったものや戦争遺跡や遺品、あるいはアウシュヴィッツのような強制収容所を見学して、ショックやダメージを受ける、という話をよく聞きますが、私は言うほどダメージを受けません。冷