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Berlin, a girl, pretty savage

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遼太郎の娘、野島梨沙。HSS/HSE型HSPを持つ多感な彼女が日本で、ベルリンで、様々なことを感じながら過ごす日々。自分の抱いている思いが許されないことだと知り、もがく日々。 幼…
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#弓道

【連載小説】あなたに出逢いたかった #34

遼太郎の実家のある県は日本海に面しており、数年に一度は豪雪となることもある。 年末に寒波がやって来るという予報通り、駅に降り立った時は既に視界は白く煙り、風がごぅっと鳴っていた。 移動は乗り換え乗り換え、ドア・ツー・ドアで4時間近くかけて陸路で来た。電車の好きな蓮のためだ。飛行機なら1時間半ほどだから空路と陸路と分かれて移動の案も出たが、結局全員揃って移動することにした。 長い道中、梨沙はドイツにいる陽菜から届いていたメッセージにまとめて返信した。数日前からドイツ旅行中の

【連載小説】あなたに出逢いたかった #31

遼太郎は立ち止まり、大きなユリノキを見上げて言った。 「ここにしよう」 公園の南端にある広場で、視界の先には東京湾に注ぐ大きな川が緩やかに流れ、空港を飛び立った飛行機が頭上を横切っていく。 胡座をかく遼太郎のすぐそばに梨沙も腰を下ろした。遼太郎はトートバッグからゴム弓を取り出す。 「弓を持つ手…左手のことを弓手、弦を引く右手のことを馬手という。弓を引く時、弓手は弓を握るのではなく、押すんだ。こんな風に」 遼太郎は実践して見せる。「やってごらん」 梨沙も真似してみる

【連載小説】あなたに出逢いたかった #9

家に戻り荷物をまとめた。 弓道部のアルバムと、そこに川嶋桜子からの年賀状も忍ばせてあることを確認し、カバンにしまった。 「お祖父ちゃんに挨拶した方がいいですか?」 自室に籠もってなかなか姿を見せない祖父に黙って帰っていいのかわからず梨沙は訊いたが、祖母は「別にいいわよ、寛いでいるから」と言った。 やはり自分はあまり歓迎もされていないし、気に入られていないのだと思った。たぶん、女の子だから。 別にどうでもいい、そんなこと。 「次はパパや蓮も一緒に来るようにします」