そして、、、跳んだ
(約1,900文字)
雨が降り出したのは、年越しキャンプ初日の夜からだった。
結局、翌日昼まで降り、午後には止んだ。
中1日経って撤収日前日、
実はテントの下が、水でぐっしょり濡れていることが発覚した。
スノコサイトに銀シートを敷き、その上にデカテントを張ったのだが、シートとテントの間に雨水が回っていたのだ。
撤収日である翌日は、10時から雨予報。
(いつものことです、、、)
早朝に起き出して、降り出す前にテントとフライシートを畳む!
という訳で、なんとしても前日のうちに銀シートとテントを「干さなければ」ならなくなった。
昼食後、早々にテントから全ての荷物を出し始める。
テント内のグランドシートをめくると、水滴がびっしりと、、、普通に雨水が染み込んで濡れていた。
上にエアマットを置いていたので、気が付かなかっただけで、結構ヤバイ状況に改めて焦った。
とにかく日のあるうちに干さないと!
一応太陽は出ていた。
ただ、前日の午後から吹き荒れていた強風は、まだまだ健在だった。
自分たちのサイトは、衣類の入ったバッグ、ガジェット類、防寒用の物品ですぐに溢れかえってしまった。
今回利用したスノコサイトは、地面から膝ほどの高さで、囲いはない。
90cmほど間隔があいた隣のスノコサイトは我が家の滞在中、ずっと空いたまま、、、。
夫は、これ幸いにとエアマット、シュラフを並べた。
そして、彼はトイレに行ってしまった。
私は、その間、テント内で水に濡れた床面をふき取っていた。
家でもこんなにお掃除しないのに、とにかく必死だ。
まだ1年しか使っていないテント。
絶対に、カビさせるわけにはいかない。
そのうちガヤガヤと賑やかになってきた。
テントから顔を出すと、アジアからとおぼしき男女10人ほどの若人が、お隣のスノコサイト、向こう側に集結していた。
管理人さんから、いろいろ説明を受けているようだった。
あ、隣のサイトにチェックインするんだ!
彼らは、既に置かれている我が家の広がったシュラフ3つとエアマット3セットを不思議そうに見ている。
私は慌てて
ごめんなさーい。すぐ、どかしまーす!
と、管理人さんと若者たちに向かって、声を張り上げた。
人懐っこそうな笑顔で、彼らは頷いてくれた。
夫は、まだ戻らない。
我が家の荷物があるために、大所帯の彼らのテント設営が遅れてしまう。
すぐにテントから這い出たが、ワークマンの防寒ブーツを履く手間ももどかしかった。
一刻も早く隣のスノコサイトへ移動し、こちら側へ諸々ぶん投げなければ!
とにかく焦っていた。
早く!早く!
ひとまず隣のスノコへ飛び移ろう!
そして
私は、
跳んだ。
そして、、、
落ちた。
たったの90cm、、、
失敗。
あれだけ楽しそうだった若者たちが、一瞬にして沈黙。
その日私は、愛用のワークマン防寒パンツを履いていた。
それだけだったら、何の問題もなく何メートルだって飛べただろう。
(気持ちだけは、、、)
しかし、その上から風除けを兼ね、「ロングスカート」も履いていたのを、うっかり忘れていた。
思いっきり足を広げて飛んだつもりが、スカートの裾に妨げられ、中途半端な歩幅に、、、
その勢いのまま隙間に沈んだのだった。
草地に落下した私は、スノコの端に痛打した腿のことよりも、結構な人数に目撃され、流石に恥ずかしさでカァーッとなってしまった。
(これまでは、単独か、ほとんど身内にしか披露していません)
、、、しかし、、、私は立ち上がらなければならない、、、
やらなければ、ならないことがあるのだ!
スックと草地に立つと、すっごく心配そうな顔をしている若者たちに向かって、
大丈夫〜
と、ニッカリ笑って手を振った。
(大和魂〜)
固唾を飲んで見守っていた一同は、その瞬間、ホッとしたのかニッカリ笑って、手を振り返してくれた。
頑張れ〜というように、、、
時間にしたら10秒足らずの出来事だったろうか。
すぐに彼らは賑やかさを取り戻し、荷物を運び始めた。
私も、スカートの端をたくし上げると、ひらりと隣のスノコに飛び乗る。
(実際はよいしょっと、よじ登りました)
そして、えいやっとばかりにシュラフ、エアマットを次々とぶん投げていった。
(実際はよっこらしょと、運びました)
腿の激痛に、、、
いや、ハンパない心の痛みに耐えながら、、、
ようやく、全てを戻し終えた頃、夫が帰還した。
お隣の様子を見つつ、ゼェハァ〜、ボロボロになっている妻の姿に、
一人で運んだの?
と驚いている。
いや、気遣って欲しいのはそこじゃないんだけど、、、
じゃ、どこ?と聞かれても、実に言いづらい出来事であった。
了
※キャンプ場では、木の根っこ、切り株、濡れ落ち葉など他にもトラップがいろいろあります。どんな時も落ち着いて、くれぐれも足元には、ご注意ください。
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