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母乳性黄疸(Breast milk jaundice)

「赤ちゃんの皮膚や白目の部分が黄色い」という経験をした親御さんもいるかと思います。
私の子供がビリルビンの値が高く、緊急入院となった経験から、母乳性黄疸について調べてみました。
治療方針について担当医とディスカッションできるレベルの基本的な内容を備忘録として記載しておきます。
母乳育児をされている方は、ぜひ頭の片隅に入れておいてください。

母乳性黄疸とは

黄疸とは、ビリルビンという物質による皮膚の黄染である。
母乳性黄疸とは、後期新生児期に母乳のみを摂取している子どもに起こる遷延性黄疸で、黄疸以外の症状や黄疸の原因となる他の疾患が認められないものを指す(除外診断)。
ビリルビンをグルクロン酸抱合して胆汁に排泄する役割をもつビリルビンUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT1A1)の活性が低い新生児期に、母乳中の物質がUGT1A1 の活性を阻害することによって起こると考えられている。

ビリルビンは悪なのか

通常の状態において、生体内に存在するビリルビンのほとんどは水に溶けにくい形態で存在し、アルブミンと結合している。異常に血中ビリルビン濃度
が上昇した時など、遊離アルブミン濃度が上昇し、脳血管関門を通過し基底核を中心に脳障害を来すことがあり、これがいわゆるビリルビン脳症という病態である。一定以上の病態となると脳障害は不可逆となる。
このビリルビン脳症は日本の正期産児において、2000年~2013年の14年間で2例とほとんど発生していない。

ビリルビンを下げるために積極的に治療を行うべきなのだろうか?

超低出生体重児1,974例において積極的に光療法を行う群とと従来の基準で
光療法を行う群と分けて検討がなされた(Morris BH, et al.: N Engl J Med. 2008;359:1885-1896)。
結果、血清ビリルビンを低値に保った群で出生体重501 〜750gの児において有意に死亡率が増加した。
つまり、新生児黄疸は何らかの必要性を持って生理的に存在すると考えられる。
Stocker らはビリルビンの抗酸化作用について言及している(Stocker R, et
al.: Science 1987;235:1043-1046)。つまり、活性酸素障害を受けやすいとされる超低出生体重児、特に出生体重が少ないほど抗酸化作用のあるビリルビンの存在が必要な可能性がある。
そのため、抗酸化作用と毒性のバランスを考慮した治療が重要である。

血清中濃度のおけるビリルビン機能の 概念図(Onishi S, 1997)

母乳性黄疸の診断

母乳性黄疸は除外診断を行う。除外すべき主な疾患は以下の通り

新生児・乳児早期に黄疸をきたす疾患(渡井有:新生児肝炎(NH).日本新生児成育医学会 編:新生児学テキスト,メディカ出版,大阪,pp410– 412,2018)


家庭で注意すべきポイント(黒川大輔 他:黄疸.周産期医学46:7–9, 2016)

特に胆道閉鎖症は新生児胆汁うっ滞症の35~41%である。この場合、手術適応となるが、早期発見・早期治療により予後は良好。
便色に注意する(下図)。
血液検査では、直接型ビリルビン値、γ-GTP、ALP、総胆汁酸が早期から高値となる。

母子健康手帳に添付されている便色カード

早期新生児期に母乳摂取量が足りないために起こる黄疸もある。この場合、哺乳量が増えて胎便や便が排出されることにより改善する。哺乳量不足による体重増加不良などの合併症状がみられることがある。

母乳性黄疸の治療

ビリルビン脳症の発症を予防するために治療が行われることがある。

Morioka I. Hyperbilirubinemia in preterm infants in Japan: New treatment criteria. Pediatr Int 2018; 60: 684-690.

光照射は必要最小限にとどめる必要があり、ビリルビンの血中濃度のモニタリングを行い、光療法の中止を検討する。

片山, 日本新生児成育医学会雑誌 第32 巻 第2 号 2 ~ 8 頁(2020 年)

治療を受ける際の大切なポイント

母乳性黄疸は、母乳中の物質が代謝酵素を阻害することで発生すると考えられるが、可能な限り母子同室で制限なく直接授乳が行える環境で、子の空腹のサインに応じた直接授乳が継続されることが望ましい(山口, 周産期医学 vol.51 増刊号 2021)。
理由は、母乳が腸管運動を促すことで便からのビリルビン排泄が促されるから。
排泄障害による滞留がある状態で光治療を継続すると、ブロンズBabyの病態を呈するので注意が必要である。

補足:光治療について

ビリルビンの構造は親水基が分子内水素結合により分子内に閉じ込められ、分子表面には疎水基しか露出せず、水に不溶の立体構造を示している。一般に基本となる「ビリルビン」といわれる分子は(Z, Z)-ビリルビンと表記される (図参照)。
光エネルギーにより、これらの二重結合においてZ体からE体への立体異性化が生じ、(ZE)-ビリルビンの光立体異性体が生成される。さらに、環形成
した光立体兼構造異性体である(ZE)-サイクロビリルビンが生成される。
このサイクロビリルビンが水溶性であり、胆汁および尿中に排泄され、これらの異性体は重合し黒色物質となり腸肝循環することなく体外へ排泄される(実際に真っ黒なうんちが排出されます)。

【私見】
光療法において、450nm付近のブルーライトを用いるか、510nm付近のグリーンライトを用いるかは議論が分かれるところではありますが、実臨床ではブルーライトを用いることがほとんどだと思います。
グリーンライトも用いた方が、細胞毒性を抑えつつ、かつ効率よくサイクロビリルビンへの反応を誘導できるのではないかと思います。
波長選択性の高いLEDライトがAmazonなどでも安く手に入るので、活用できるかもしれません。
※実施は自己責任でお願いします。

ブルー&グリーンライト

【編集後記】

私の娘が母乳性黄疸で緊急入院することになり、大変でした。
母乳性黄疸のことをもっとよく知っておけば、ビリルビン値が異常値になる前に対応ができたと思います。
これから出産される方は、この辺りの知識を頭に入れておくことをお勧めします。

入院してからも、病院の方針とぶつかって大変でした。
母乳を継続したかったのですが、無理やり人工ミルクに変えられてしまい、もれなく便秘となりました。
数値が下がっても、なぜか人口ミルクを与えられたり、光治療を継続されたり…
かなり病院の方針とぶつかってしまいましたが、エビデンスに基づいて患者が適切な治療を選択できる医療(shared decision making)の実現のために少しだけ頑張りました。
最新のエビデンスを頭に入れた上で、患者側がしっかりと意思をもって治療選択を行うことが肝要なのではないか…と思いました。

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