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おやすみプンプン

やめろよ。

丹念に飾り付け、ショーケースに整然と並べた「綺麗事」が、粉々に砕けて地面に散らばる音。


浅野いにお『おやすみプンプン』全13巻を読み終えて。

「所詮この世は綺麗事だから。」と世を儚むなんて、どこぞの中学生が通る青い道だと思っていた。今更、鬱漫画を読んで感傷に浸るつもりもなかったし、世界をわかったような気になるつもりもない。人間がみんな自分勝手なのはわかっているし、汚いのも承知。でも、そんなところを含めて人間が好きだし。愛は美しいし。つまらないのであれば自分がつまらないのであって、世界を面白くするのは自分だし、明日は希望に満ち溢れていて、人生は素晴らしい。エトセトラ。デスノートのリュークだって人殺しをしている月を見て言ってた「人間って面白っ」って。


それらが全部、自分にとって都合がいい綺麗事だって。突きつけられるだけならまだ良かった。

大事に大事に仕舞ったショーケースごとバッドで滅多打ち。めためたに破壊される。

やめろよプンプン。

いや、やめてください。

「所詮この世は綺麗事だから。」と世を儚むなんて、それは元々薄っぺらい。今更なんて言いながらも、読んで感傷に浸ることを通り越して“鬱漫画“という評価を下せないくらい刺さってる。世界をわかったような気になるつもりはないのに、わかったようなことを言いやがる。人間がみんな自分勝手、と言う自分も大概自分勝手。いや一番自分勝手かも。あと人間は汚い。人間の汚さは「桜の木の下には死体が埋まっている」みたいな、汚い中にも儚い美しさがあるとかではなくて、駅前の吐瀉物とか便所のしみとか、そんな感じ。分泌物っていうか排泄物っていうか。生きてるうちに出てしまうもの。ていうか汚いって言えるほど手前は綺麗に生きてるの?否。でも、そんなところを含めて人間が好き?ほんとに?ちっぽけなプライドが邪魔して嫌いって言えないだけじゃないの?愛は美しいの?世界を面白いと思い込むのは自分であって、実際はなんだってつまらないのでは?明日は希望に……人生は素晴ら………

全部が全部、麻痺してんじゃないのか?

なにもかもくだらないんだよ。

「人間って面白っ」

人間じゃない奴の台詞です。


途中まで読んだ高校生時代。悟ったようなことを考えていなかったからか、浅野いにおの描く鋭い"人間"に、「すごい漫画だ!刺さる!」と素直に感嘆していた。だが、26歳。高校生時代より、それなりに理不尽な目に遭い、それなりに理解不能な人間にも出会い、それでも楽しく充実した毎日を送るために、論理やら道理やら哲学やら処世術やら愛だの心の在り方だの本当の幸せとは何かだの、ごちゃごちゃと飾り付けて並べた「綺麗事」。それがある今の方がよっぽど刺さってる。立派に育てた「綺麗事」を滅茶苦茶にぶっ壊されて、破片が刺さっている。たくさんあった分、綺麗に作り上げた分、刺さる破片が多くて鋭くて、痛い痛い。

「すごい漫画だ!刺さる!」

高校時代の自分に今なら言える。いや、お前それ刺さってねぇよ、と。


死にたいと思ったことがない、んじゃなくて

単に死ねなかっただけなんじゃないのか。


…などと、10巻くらいまではそんなことを考えながら、読み進めていた。もう10巻までいくと高校時代に読んでいなかった部分に突入している。

最終巻でようやく現世に引き戻された。

綺麗事?

汚い?

くだらない?

うるせぇ、そんなことみんな知ってやってんだよ。美しく潔く死ねないなら、汚く醜く生きてみやがれ、と。

あぁ、人間って結局こんなんで

しょうもないけど

嫌いじゃないな。


あー 読まなきゃよかった。読んでよかった。

おやすみ。

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