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ショーロク!! 6月後半ー6


6.エロエロボックスの内容㊙

 それからオレたちは、ギャーギャー騒ぎながらオレの家に戻って、親父に「うるさい!」と怒られた。
 サトチンの家には少し遅くなると連絡をしてもらい、オレの部屋で一息つくと、いよいよオレたちは禁断の箱に手を伸ばした。

 「おい!おっちゃん、降りて来えへんやろな?」
 サトチンはオレの親父がいる階上を気にしている。
 ちなみに婆ちゃんは基本的に長年住んだアパートを離れられず、時々こちらの家に泊まりに来る程度なので、オレは一人で一階を独占している状態だったのだ。

 「大丈夫やって。お前がおる間はあれでも気ぃつかって降りて来んわ」
 オレはそう言いながら箱のフタを開いた。

 「どうする?一気に出すか?一つずつ出していくか?」
 さすがに自分の判断だけでは決めかねて、オレはサトチンに意見を求めた。

 「う~ん、悩むところやのう・・・」
 サトチンは腕組みをし、真剣に考え込んだように頭を垂れて、首をひねっていたが、10秒ほどたつと
 「グ~グ~グ~」とボケてみせた。

 「いや、寝てるんか~い」仕方なく突っ込むオレ。
 まあ、これは本当にしょうもないノリである。オレたちはこういう小学生らしからぬベタなやり取りが好きなので、気があったりするのだろう。
 このノリはクラスでは寒くなるので、本当に二人きりのときしかやらない。字で書くとなおさらつまらない。書かなきゃよかった。

 「まあ、一個ずついこうや」
 「そやな」

 オレはサトチンに同意して、ドキドキしながら箱の中に手を突っ込んだ。

 その瞬間手のひらに固い質感、手の甲に柔らかい何かの質感、さらに指先に小さくて一番固い質感が広がった。
 内容はとても豊富そうである。

 オレは固いものを本だと判断し、一気に取り出そうとしたが、瞬間的に気を変え、柔らかい何かをつかむと、そちらを一気に取り出した。
 「おりゃああ・・・・何じゃこりゃあ!!」

 それは何と女物のパンツ、つまりパンティなどと呼ばれるものだった。
 色はオレンジ、やや透けてしまうような生地だった。
 
 「これ、パンツか?」
 「・・・そやな、どないすんねん、これ」
 「オレに聞くなや!訳分からんわ」
 などと言いながらオレたちはパンツを投げ合ってしばらく遊んでいたが、エロとは大きくかけ離れているような気がして、空しくなって、次の品物を取り出すことにした。

 ただ、その前にジャンケンをして負けた方が頭からパンツを被ることにしたので、オレはオレンジのパンツを被ったまま、箱に手を入れる羽目になっていたのだが・・・

「今度はちゃんとしたヤツ出してくれよ」
 サトチンが両手を組んで、懇願するようにオレを見つめる。

 オレは先ほど取り出すのをためらった、おそらくはメインになるであろう、やや太めの本を手に取り取り出した。
 これは大人が読む小説の単行本のようなサイズだ。エロ本にしてはページ数が多くて太くないだろうか?何だこれは?

 そんなことを考えながら、サトチンと二人で表紙を覗き込んだ。
 「・・・ん?『ナンノやっちゃい隊』・・・」

 表紙に書かれていたタイトルである。
 その下に異様なほどリアルに描かれた当時のトップアイドル南野陽子(みなみのようこ、通称ナンノ)が、太陽の下で三角木馬にまたがって最高の笑顔を見せる絵が描かれていた。

 「・・・ちょっとキモイな」
 そう言いながらページをめくったサトチンが固まってしまった。
 もちろん、横で見ていたオレもである。

 なぜなら、その本は・・・
 本当に小説だったからだ。

 視覚を満たしてもらうことばかり考えていたオレたちの落胆ぶりときたら、買ったばかりのソフトクリームのアイス部分を全部落としたときのごとくだった。それもトリプルクラスの・・・

 さらにひどいことに、その小説はどぎついSM小説で、書かれている内容の半分も理解できなかった。
 余談だが、オレとサトチンが中学に上がり、漢字が強いと先生に言われることになったのは、ここで身に付けた漢字の知識が後々役だったからではないだろうか。縛る、詰る、虐めるなどなど・・・

 とにかく、またしてもハズレである。

 「・・・ま、まだあるやろ!?今度はオレが出すわ!」
 サトチンが箱をひっつかんで、乱暴に手を入れた。

 「これは固いぞ!!おりゃっ!・・・あ、あれ?」
 サトチンが取り出したのは、むき出しのカセットテープだった。

 さらに途方に暮れるオレたち。こんなはずはない。という言葉が脳内を高速で駆け巡る。

 「何じゃこれ・・・」
 オレがやっと声を絞り出し、カセットを奪ってデッキに入れようとした。

 「待て、何か書いてるわ」
 そのときサトチンがカセットにマジックで書かれたコメントに気づいた。

 そこには「富山のラブホテルで録音、女は42歳程度、男は甘えん坊タイプ」と書かれていた・・・

 「・・・甘えん坊タイプ」
 しばらくの沈黙の後、サトチンがボソッと言ったその言葉がオレたちの笑いのツボを刺激した。

 「ギャハハハハ、何やねん、甘えん坊って」
 「ヒーヒー、女おばはん過ぎるやろ、」

 笑わないとやってられなかったのかも知れない。
 その後テープを回してみると、9割方雑音で、一瞬だけ「あ、そこ」と確かに甘えたような感じの男の声がはっきり聞こえただけだった。

 もちろん、その瞬間オレとサトチンは腹を抱えて爆笑した。

 それにしても2000円という大金を注ぎ込んだ結果が、苦し紛れの大笑いでしかなかったというのは、泣いても泣ききれなかったが、オレもサトチンも何だかスッキリした気分で別れた。
 その時点で二人とも『ごうか4点セット』の箱に3つしか品物がなかったことはもはやどうでもよくなっていた。

 どうでもいいエロエロボックスはオレの部屋の机の大きな引き出しの奥にしまわれることになった。
 さらに余談だが、この日以来、その引き出しがオレとサトチンの共通のエログッズの隠し場所となり、オレたちは高校卒業まで「銀行」と呼んで重宝することになった。
 「ちょっと銀行から引き出すわ」イコール『引き出しからエロ本借りる』なのである。本当にどうでもいい。

 もう一つだけ余談だが(しつこいね)、これ以降しばらくオレとサトチンは「甘えん坊タイプ」というだけで爆笑できて、二人のヒットワードとして学校でも多用した。
 傍目に楽しそうだったらしく、他の仲間たちも訳の分からないまま真似をし始めたので、ナカショー(中尾中小学校)では学年を問わずその言葉が大流行するという異常事態が起こってしまったのだった。

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