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ショーロク!! 6月前半ー7

7.その夜の出来事

 結局、その後クリは(もう『ちゃん』なんてつけてやらん!)オレの背後をだいぶ距離をとってついてきた。
 文句を言う気力も起こらないまま公園に戻ると、メンバーはさらに3人ほど増えていた。

 クリがチクった話をすると、皆オレに同情してくれたが、どうも本心は『横っちがどれ位しばかれるか楽しみだ』という感じだった。友達なんてそんなもんだ。くそ。

 「まあ、元気出せよ、横っち!」
 と、なれなれしく肩を組んできたのは、新たに加わっていたメンバー、現2組でサトチンと同じクラスのモリこと森園幸一(もりぞのこういち)だった。

 6年になってからサトチンとよくつるんでいるのは知っていた。
 確か小1の頃同じクラスになっていたと思う。
 小柄で大人しい、あまりパッとしないキャラだったのに、今では学年イチのどスケベ野郎になっており、オレたちのエロネタは出所をたどると全部がモリ発信とさえ言われていた。

 そんなモリがこう言ったのだ。
 「もし、入院とかすることになったらエロ本でも差し入れするから」
 その一言で、皆の興味はオレの安否より、俄然モリのエロ本へと移っていった。

 「エロ本って拾ったやつか?」
 「いや、ちゃんと新品やで」
 「ほ、ホンマにおっぱいとか見えるヤツか?」
 「うん、皆がエロ本と思ってるんはただのグラビア雑誌っていうねん」
 「お、オメコ、大人のオメコが見れるん?」
 「いや、それは無理やねん。それだけが残念やけどな」
 「ちょっと、もう!皆、やめてよ!そんな下品な話!」

 最後にキレたのが清川だというのは明言するまでもないだろう。
 あとのセリフは誰であってもどうでもいい。
 モリは質問に答え切ってからきっぱりと
 「まあ、とりあえず横っちには1冊見せたるわ」
 と、言ったので、皆が『いいなあ』というようにオレをジトっと見つめた。
 
 正直オレは最近そこまでエロいキャラを前面に押し出していなかったので、それほど興味がないという振りを装ったが、内心ガッツポーズをとっていた。
 エロ本が見れる。そう思うと夜の制裁を忘れることができたのだから、人間なんて単純なもんである。

 そのあとは日が落ちるまで皆で遊びまくって、全員すっかり疲れて家に帰って行った。
 遊んでいるとすっかり忘れていたのだが、一人になると急に不安になってしまう。
 今から絶対に殴られることが分かっているのに家に帰らないといけないわけだ。
 子供はつらいよ・・・

 「ただいまーっ!」
 意を決して、あえて空元気いっぱいで大声を出して鍵の壊れた扉を開けた。
 穴の開いた部分はパテか何かで補強されていた。
 めったに自分で外に出ない親父が買いに行ったんだろうか、と思いを馳せた瞬間、頬にものすごい衝撃が走った。

 びんただ!
 と思った刹那オレの頬に全痛覚が集中した。「いてえ!」踏ん張るつもりが体を強張らせることができず、オレはあっけなく吹っ飛ばされた。
 いつもなら、踏ん張れる強さだったかも知れないが、いきなりすぎたのだ。虚を突かれるとはこういうことなんだろうな。
 などと思っていると、今度は右の額に「ガツン!」と衝撃が走った。

 あれ?
 と思ったのは、痛みではなく熱が急に打った場所に集まってきたからだ。
 あっという間もなく、オレの額から熱湯のようなものがほとばしったのが分かった。

 「うわああ、お前、踏ん張れよ!ドアホ!」

 うろたえているのは親父の方だった。
 ひょっとして・・・と思ったオレは右の額に手を伸ばした。
 ドロリとした感触。目で確かめると・・・血だった!

 これは・・・

 大流血だ!!

 オレは歓喜した。
 自分が流血している!

 これは・・・!!

 めっちゃ嬉しい!

 普通なら泣くのか、痛がるのかするのかも知れないが、オレは低学年からの筋金入りのプロレスファンだ。

 何度もテレビで見ていた、あの流血!鉄柱攻撃、凶器攻撃によって初めて起こる試合のクライマックス!
 それをオレが今体験しているのだ。
 興奮が痛みも衝撃も全てかき消していた。オレは叫んだ。

 「お父さん!写真、写真撮って!早く!」

 「アホぬかせぇ!お前は!ホンマに!!」
 親父はあたふたと奥の居間へ走り去り、バスタオルと救急箱を持ってきた。

 「ちょ、ちょっと!手当てなんかいいから、写真!!」
 と喚いたが、後頭部を軽くはたかれて、頭をバスタオルでぐるぐる巻きにされた。
 すると痛みがよみがえってきた。
 だがそれはびんたによる頬の痛みで不思議と流血した頭は痛くなかった。

 親父はバスタオルをはがすと、赤チンをオレの頭からぶっかけた。

 「目えつぶれ!開けんなよ!絶対!」
 と、叫んでいる。

 自分で攻撃したくせにどれだけ取り乱すんだ、ちょっと面白いぞ、親父。
 言われた通り目を閉じると、血の赤さなのか赤チンの赤さなのか分からないけど、まぶたの裏が真っ赤に染まった。夏の太陽を目を閉じて見上げたときのようだった。

 「何で写真撮ってくれへんかったん!」
 目を閉じたままオレは親父に抗議した。

 「お前なあ・・・」
 と呆れた声を出した親父だったが、すぐに何がツボに入ったのか、がはは!と笑い出した。
 オレもつられて笑い出した。理由は分からなかったが、何となく爽快だった。

 この流血事件のおかげで、親父はオレを怒ることをすっかり忘れてしまい、何となくその日は優しかった。
 オレは、写真を撮ってもらえなかったことを除いては、おおむね満足して一日を終えて、布団にもぐりこんだ。

 余談だが、その後2週間ほどして『脱がしあい』の件だけは思いだしたように怒られた。絶対に女子に手をあげてないな?という確認を何度もされ、男が女に手を出したら、死んで詫びなアカンねんぞ!と真顔ですごまれたことは付け加えておく。

 さてその明くる朝である。流血箇所がめちゃくちゃ痛かったうえに、親父の救急措置の赤チンのせいで顔面の半分が真っ赤に染まった状態で、オレは登校せざるをえなかった。
 オレとしては名誉の流血をしたことを学校で自慢するつもりだったのだが、この半分赤色顔面のせいでサトチンをはじめ、ほとんどの友達に笑われた。キシモト(忘れてる?オレたちの担任だ)まで笑いやがった。大人のくせにこの野郎。

 「流血したのに救急病院にも行ってないの!?」
 と、清川だけが驚いたような呆れたような複雑な顔をして、心配そうにしてくれていた。

 まあ、結果オーライである!
 ・・・オーライなのか?

 次のお楽しみはモリのエロ本だ!わくわく。


いつか投稿がたまったら電子書籍化したいなあ。どなたかにイラストか題字など提供していただけたら、めちゃくちゃ嬉しいな。note始めてよかったって思いたい!!