見出し画像

【読書】セーラームーン世代の社会論

以前受講した『開発学講座』の先生がセーラームーンのことを好きということで,開発学講座を受講したサロンメンバー界隈ではセーラームーンが話題になっており,この度,先生から課題図書として指定された『セーラームーン世代の社会論』を読んでみたので内容をここにまとめます。

本当は書籍全体をまとめたかったのですが,あまりにも長くなりそうなので第2章の内容までをまとめました。
# 第2章までをまとめるだけでも5900文字を超えています
# 西野さん的に言うと,僕に許された読んでもらえる文字数は間違いなく超えています
# 本当にすみません

もし私の稚拙な文章でも続き内容が知りたいと思われた方がおりましたが,ぜひ AMAZON のリンクページから購入してみてください。

(作品紹介より)
アラサー女子は,なぜこれほどまでに,欲張りで,自由奔放で,ワガママなのか?それは,言わずと知れた不朽の名作『美少女戦士セーラームーン』に隠されていたー。

ちなみに AMAZON の Kindle Unlimited に加入されている方は無料で読むことができます。 

読後,最初に思い浮かんだ感想は『セーラームーンってこんなに深いお話しだったの?』(建前)です。
# 本音は『セーラームーンのストーリーを知らないからこの本の面白さの半分以上を理解できていない気がする』です。

▶︎ はじめに

まずは『セーラームーン世代』の定義から。

『美少女戦士セーラームーン(1992〜97年)』シリーズを少女期に観て,熱狂した女性たちのこと。
視聴時期を仮に4〜10歳程度とすれば,『セーラームーン世代』の生まれ年は,1982〜93年といったところ。

この定義を受けて,これまで『プレッシャー世代(1982〜87年)』や『ゆとり世代(1987〜2004年)』と呼ばれていた女性の一部は,晴れて『セーラームーン世代』を名乗る権利を手に入れたのです。おめでとうございます。
# 女性の皆さんは熱狂していましたよね?
# 私は熱狂していないから違うなんてことないですよね?

『いきなりそんなこと言われても…』と思っていても仕方がなく,セーラームーンがこの世代の女性たちの人格・人生観・倫理観の形成や異性観,美的感性の決定に大きく影響したのは間違いないのです。
# いきなり話のスケールが大きすぎて僕もついていけていない

本書曰く,【『セーラームーン』は彼女たちに乳を与えて育て,正しき女子のふるまいの手本となり,ある共通の価値観を植え付けた。古来より結婚相手の素行調査でもっとも大切なのは,当事者の学歴でも交際歴でもなく,血筋だった。子を知るにはその親を見ればよい。娘の器量は母親が決定する。彼女たちの母親たる『美少女戦士セーラームーン』という作品を腑分けすることで,セーラームーン世代の内奥に迫って行こう。】とのこと。

まさかセーラームーン世代の女性を理解するためには彼女たちの実の母ではなく,『彼女たちを形成した母親たるセーラームーンを理解すべきなのだ』と言われてもすぐに納得できるわけがないのは十分に理解できるのですが,ここまで話についてこれていない方も安心です。
本書にはご丁寧にも『本書をあますことなく読むためのチュートリアル』がついているので,このチュートリアルを読みさえすれば『セーラームーン世代』を紐解く準備は整ったと言っても過言ではありません。
# 筆者も我々がついてこれていないことは想定内だったようです

それでは本章の内容に入っていきましょう。

第1章 「セーラームーン世代」とは何か

セーラームーン世代とは,前述の定義に従うと,書籍発売時点(2015年)において22〜33歳の女性を指す訳ですが,現代の社会においてまさに中核に位置している存在なのです。
職場のセーラームーン世代はそろそろ中堅に差し掛かり,後輩に指導する局面が増え,プロジェクトリーダーやマネージャー職など,責任あるポジションにつき始める方もいるでしょうし,キャリアアップを目指して転職や資格取得を目指している方もいると思います。
また,セーラームーン世代は,結婚や出産といった大きなライフイベントに直面し,仕事との折り合いを中心とした多くの決断を迫られているのです。
加えて彼女たちは『働く女性のワーク・ライフ・バランス』『結婚は無理ゲー』『こじらせ女子』といったテーマで議論が行われるときには,何かにつけて一括りにされ,各方面からご機嫌を窺われたり,揶揄されたりしがちです。
現代日本において,セーラームーン世代はまさに『渦中の人』なのです。

ここで,そもそも美少女戦士セーラームーンとは一体どのような作品だったのでしょう。

美少女戦士セーラームーンは,『ごく普通の14歳の女の子・月野うさぎがセーラームーンに変身して,世界を守るために悪を倒す話』なわけですが,『真剣すぎないコメディタッチ』で『普通の女の子』の物語が描かれているところに視聴者の女児たちは魅了されたわけです。

しかも,この何の変哲もないごく普通の女の子の物語には,実は特筆すべき2つの革新性が盛り込まれていたのです。

1つは『女子だけのチーム戦隊もの』という新しいジャンルを,日本のアニメ界に定着させたこと。
それまでにもアニメにおける戦う美少女というモチーフは存在していました。
しかし,『女子だけ』で構成された『チーム』による戦闘ものという全くの新しいカテゴリはセーラームーンが開拓したものでした。

2つ目は『広範なメディアミックス展開』です。
セーラームーンは人気を得たマンガ原作をアニメ化した作品ではなく,テレビアニメ放送とマンガの連載が同時にスタートしたメディアミックス作品なのです。
セーラームーンの影響はそれにとどまらず,その人気は男性や10代後半の女性にも飛び火して社会現象ともいえるブームを巻き起こし,関連グッズ(コスチュームや玩具など)の売り上げは膨大な金額にのぼりました。
いわば,セーラームーンがマンガ・アニメのマーチャンダイジング成功例として語られる『新世紀エヴァンゲリオン』『ポケットモンスター』『妖怪ウォッチ』の先行モデルであったことは言うまでもないのです。

第2章 セーラームーン世代とは何と戦っているのか

『敵』とは,その物語が提唱する『正義』が打ちのめしたい悪の価値観そのものであり,世情や想定視聴者の気質が多分に影響されます。
敵の主張の『逆』がすなわち,その物語が視聴者に同意を求めたい正義の主張なのです。
それゆえ,セーラームーン世代の価値観を紐解いていく上ですべきなのは,セーラームーンたちが誰(どんな価値観)と戦ってきたのかの整理と検証なのです。

この章においては,『著者の語り口』と『社会背景と結論の結びつき』が面白いのでぜひ書籍を手にとってもらいたいのですが,端的に各シリーズの『敵に位置付けられる価値観』が何だったのかをまとめておきます。
# 『端的に』と言いつつ,全然端的にまとめられていません
# すみません

(1)シリーズ一作目:イケメンに注意(ただし真の愛を除く)

このシリーズにおける敵に位置づけられる価値観は,『カッコいい男はたいてい悪』という,小学生女児に対する判で押したような教育的配慮,清く正しい貞操観念です。
一方で,シーズン途中からは単に『地球を救うために女の子たちが戦う』話ではなく,年端もいかない女の子たちが,相反する価値観の持ち主(=悪)に改心させる,もしくは宗教替えも促すプロセスを描くシリーズであることを強く方向付けています。

『自己を犠牲にして貫く愛は,絵空事でも幻想でもなく,現実に存在する。』
これは美少女戦士セーラームーンシリーズ全体を通じて石碑に刻んで飾っておく級のメインテーマであり,セーラームーン世界の根幹をなす絶対的信条(クレド)なのです。

(2)シリーズ『R』:自己中心的な恋愛感の否定,ジュリア世代を嗤う

どうやらセーラームーンは『R』の前半あたりから社会現象化していき,初めて視聴率が15%を超えたのも『R』の中盤とのこと。ゆえに,高視聴率で安定していた『R』と『S』で設定されている敵の価値観こそが,セーラームーン世代が幼い頃にもっとも強く刷り込まれた〈忌避すべき価値観〉と考えて良さそうです。

恋愛における敵の価値観自己中心的な恋愛感。女性は愛されてこそ意味がある。愛するとか信じ合うなんてことにそれほど意味はない。冷たくされても愛し続けるなんて惨めなことをしてはいけない。
→ この価値観はセーラーマーズによる『あなたのは自分への愛だわ』というわずか14歳の女子が20代の歳上女性にはなった究極の一言によって一蹴されることになります。

仕事における敵の価値観結果がすべて。一生懸命頑張ったとしても,負けたら意味がない。弁解するのは負け犬の屁理屈だと言ってはばからない。
→ これはものすごく勉強ができ結果を出してきた亜美によって否定されることになります。これまでの人生で結果を出してきた亜美ですが,頑なで融通が効かず,人に心を開かなかった過去があり,『結果がすべてではない』と言う言葉には確固たる説得力がありました。過去の自分を乗り越えた強さがそこにはあったのです。

また,『R』では,敵組織『ブラックムーン』という超絶ブラック企業やバブル崩壊直後に大流行した『ジュリアナ系ギャル』も明確に『敵』として設定されていました。
ブラック企業は言わずもがなですが,セーラームーン世代にとっては『ジュリアナ系ギャル』は憧れの対象ではなく,旧世代的な価値の具現,大人の醜悪なドンチャン騒ぎの燃えカスなのです。
# ひどい言いようですね

(3)シリーズ『S』:女性職場の陰湿な先輩後輩関係

『S』では『ウィッチーズ5』と呼ばれる白衣を着た女性研究員5人グループが敵役として登場しますが,このグループが象徴する『悪』は,女性職場における陰湿な先輩後輩関係そのものです。
先輩の前では猫撫で声で甘えるが,陰では先輩の悪口を流布する。あえて前時代的な言い方で表現すると『一般職OLの給湯室風』です。誰もが他者の失敗を望み,互いに足を引っ張り合うのです。誰もが功を成すことを望み,他者の失敗を祈り,ときには実力行使で邪魔をするのです。
功績を競い合う現在のバリキャリ女子の身もふたもない上昇志向と,それが醸し出すギスギス感に,近からずとも遠からず,な構図を体現しているのです。
# 僕が女性社会に持っているイメージではなく,あくまで書籍中での説明です。あしからず。

(4)シリーズ『Super S』:憐むべき弱者たち,少女性のダメなところ,老いを恐れる魔女

『Super S』前半では敵役として『アマゾン・トリオ』と呼ばれる男性3人チームが登場しますが,彼らは見た目は人間ではあるものの,3人とも実は人間ではなく,人間に本来備わっているべき大切なもの【美しい夢】を持っていない悲しい憐れな存在として描かれています(ボスの力によって人間の姿に変えられた動物であり,本人たちは自分が人間だと思い込んでいる)。
あるとき,アマゾントリオの一人が自分たち自身が美しい夢を持っていないことに気付いてしまい,悩み,落胆し,絶望する姿が描かれています。
『人間として生まれたなら,美しい夢を持つべき』ー ゆとり世代特有の青臭さの一端は,もしかしたらこんなところにあるのかもしれません。

『Super S』ではアマゾン・トリオの次に『アマゾネス・カルテット』というサーカス団の少女たち4人組が敵役として登場します。
この少女たちは『Super S』時点で15歳の少女であるうさぎたちよりも,さらに幼い少女として設定されています。ここでの敵の価値観は『後輩における悪』,つまり『少女性のダメなところ』です。
アマゾネス・カルテットは『大人になるってことは,いま持っている夢を捨てることじゃないの?』と主張し,『大人になりたくない』と,成熟や成長を拒みます。
自分たちがバカにしている当の大人たちに用意されたモラトリアムの中で,若さ(少女性)を絶対的正義と信じ,刹那の享楽に生きているのです。
そんなモラトリアムの中で自ら成長を止め,成熟した大人の自分を理屈で小バカにし,(失敗するかもしれない)夢へのチャレンジを回避し続けて生きる彼女たちに『そんなことはない!』と教育的指導を行うのが,セーラームーンたちだったのです。

『Super S』において最後に現れるのが,大ボス・ネヘレニアです(見た目は妙齢で『アラフォーの美魔女』といったところ)。
ネヘレニアが体現する『悪』はわかりやすく『老いに対する恐怖』です。
彼女はあるとき美貌が永遠ではないと知り,自分顔いることを恐れるあまりにセーラームーンたちを攻撃しました。
そんな『若さ』『永遠の美』に固執する敵に対して,セーラームーンたちはどう対応するかというと,面白いことに攻撃や断罪ではなく『憐み』を向けたのです。
15歳の少女セーラームーンたちがアラフォー美女のネヘレニアに向けた憐みは,あまりにも残酷であり,永遠の美に固執することがいかに間違っているか,いかに惨めかということを当時の女児たちは胸に刻んで学んだのです。

▶︎ 所感

以上,『セーラームーン世代の社会論』を第2章までまとめてみました。
なお,以降は『第3章 セーラーチームの女性観とチーム力』『第4章 つきのうさぎという1990年代女児のロールモデル』『第5章 セーラームーンの時代』『第6章 セーラームーン世代とセックスとジェンダー』と続いていきます。

セーラームーンを全く見てこなかった30代男子にはなかなか共感しづらいポイントも多くありましたが,一つのアニメをここまで掘り下げ,さらには社会情勢と結びつける筆者の想像力と洞察力には感服しました。

本書の内容に納得感があるかどうかは,性別,年齢,セーラームーンを見ていたかどうか,セーラームーンから影響をどれだけ受けたかどうか,などなど様々な要因に左右されてしまうとは思いますが,『40代アラフォー男子が超人気少女アニメを深く分析し,面白い語り口で真面目に説明する』という点においては楽しめる内容になっていると思います。

そして,セーラームーンに限らず,私たちは幼少期に見ていたアニメ,読んでいたマンガから多大なる影響を受けて成長し,価値観を築き上げてきたことを改めて認識させられる一冊でした。

というわけで,今回は『セーラームーン世代の社会論』についてまとめさせていただきました。
今回も私の拙い文章に最後まで付き合っていただきありがとうございました。
少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?