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【ヘルスケア】行動経済学の枠組み②:ダイエットが始められないのはなぜか

前回に引き続き,今回の記事はこちらの書籍を基に書いています。

過去のヘルスケア関連の記事はこちら↓

今回は現在バイアス先延ばし行動を避けるためのコミットメント手段の利用についてまとめます。

② 現在バイアス

例えば,多くの人は,肥満になると将来の健康が悪化する可能性が高まることを知っていますが,それにもかかわらず,肥満はなかなか無くなりません。

伝統的な経済学では『太った人は合理的な意思決定の結果太っている』と考えます。

つまり,食事をする際に,『もう一口食べると食欲が満たされる嬉しさ』『それによって将来太るという損失』天秤にかけて,前者が後者を上回る限り食べ続け,ちょうどバランスするところで食事をやめると考えるので,合理的な判断の上で食べ続ければ太ることはわかっているし,後悔はしないはずなのです。

しかし,実際には,太りたくないと思っていてもカロリー摂取を抑えることができなかったり,ダイエットを始めようとしても食欲を優先し明日から頑張ろうと思ってしまいます。

計画はできるのに,それを実行する時になると,現在の楽しみを優先し,始めるのを先延ばししてしまう特性は,行動経済学では『現在バイアス』という概念で理解することが一般的です。

以下の質問から現在バイアスを実感することができます。

問 1
A)今 1 万円もらう。
B)1 週間後に1 万 100 円もらう。

問 2
C)1 年後に 1 万円もらう。
D)1 年と 1 週間後に 1 万 100 円もらう。

→ 問 1 では A を,問 2 では D を選ぶ人が多くなります。

問 1 では 1 週間待てば 1% 金額が増えるので金融商品として考えると非常に高い金利だということになりますが,多くの人はその金利を犠牲にして低い金額であっても現在時点でお金を受け取ることを選びます

一方で,1 週間における金利が 1% というのは同じであっても,それが 1 年後であれば,1% の金利に満足して 1 週間遅い受け取りを選ぶことができます

つまり,遠い将来であれば,忍耐強い選択ができるが,直近のことになるとせっかちになり,低い金利であっても現在手にすることを選ぶのです

この例のように,遠い将来にダイエットを始めるのであれば,ダイエットを始めることによって得られる将来の健康の価値は大きく感じられます

しかし,今からダイエットを始めるということになれば,将来の健康の価値よりも,今の食事を楽しむ価値の方が大きくなってしまうのです。

これは現在バイアスから生じる先延ばし行動と解釈することができます。

このように,時間が経過すること以外に,他の環境の変化がないにもかかわらず,選択が変化してしまうことを時間非整合な意思決定と呼びます。

● コミットメント手段の利用

このような現在バイアスの傾向はほとんどの人に見られますが,そのすべての人が先延ばし行動をとっているわけではありません。

先延ばししないように,自分の将来の行動にあらかじめ制約をかけるようなコミットメント手段を利用している人が多いからです。

例えば,『老後の貯金を計画的にする場合,給与天引き型にする』,『記念やダイエットの目標を周囲に宣言する』,『タバコやスナック菓子の買い置きをしない』などです。

コミットメント手段の利用は,自分自身に現在バイアスがあり,将来,先延ばし行動をとってしまうことを知っている場合に,有効な選択肢となります。

行動経済学では,自分に現在バイアスがあるということを自覚しており,コミットメント手段を利用して,それを防いでいる人のことを『賢明な人』と呼びます。

これに対して,現在バイアスがあるにもかかわらず,自分には現在バイアスがないと思っている人を『単純な人』と呼びます。

単純な人の場合,先延ばし行動をとってしまい,忍耐強い計画を立てることはできても,計画を実行する時点になるとその計画を反故にしたり,先延ばししたりして,結果的には近視眼的な行動を取ってしまいます。

本日はここまで。次回に続きます。

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