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ザ・クリエイター ネタバレ感想

AI物、ギャレス監督作品、ということで気になっていたこちらも視聴。
総評としては、AIが人間すぎるので、ロボを機械と認識してる自分のような人だと監督が伝えたい野とは別の、余計なノイズが混ざってしまうな…という感じでした。
映像美がすごいので、AI物やSFとして見るより、
迫力ある戦争映画として見た方が楽しめるかなという印象です。
治安の悪さとハイテクレトロな感じは第9地区っぽい。

この作品を見て「AIの関わり方が〜」という話をするのは難しいことだけお伝えしておきます。


親AI派withロボ vs 反AIwithNOMAD

この映画はAIvs人間、という構図ではなく、どちらにも人間が居るのが結構珍しい設定だなと思って見てました。
なので、正直反AI派の勝ち目がかなり薄く、勝ったところで…みたいな感じの戦争だったので、そういう残念さを楽しむ映画な気がします。

事の発端は、「AIが誤作動し、核爆弾を作動させた」という事なのですが、
それでは冒頭にあったダイジェストからこの世界における「AI」を紐解いていきましょう。

どういう「AI」か?

「AI」という単語は辞書を引くのもバカらしくなるぐらい多様な意味を持つ単語になってしまいました。
「Artificial」と「Intelligence」の範囲に個人差が大きいので掛け合わせて無限の意味を持つ単語として現代創作では使用されています。
ここをちゃんと切り分けないと、間違った前提のまま話を理解しようとしてバグが発生してしまいます。

さて、この世界のAIの発端は1人の天才、「ニルマータ」が作り出したようで、AIたちからは創造主として崇められているそうです。まだ白黒テレビの時代にそれはすごい進歩です。おそらく我々と技術体系そのものが大きく異なるでしょう。

この時点で、この世界のAIは「Artificial」な側面は削がれて、「Interlligence」がかなり強いAI、新しい知的生命体に近い存在のAIになっていることがわかります。
職業&趣味柄、Artificialな面を掘り下げようとしてしまいますが、この作品においてはその行為はナンセンスな結果に終わりました。。

「人を手助けする」ようには作られたようで、人類の進歩を支え続けていた、ちょうど我々でいう電子計算機に近い立ち位置だったのではないかと思われます。
ロボの語源である、robota(労働)の具現化に近いようです。

そんな信頼できる労働力が、100万人を巻き込む大事故、事件を起こしたのがことの発端というわけです。

言いたいことはわかりますよ?「セキュリティどうなってんだ」でしょ?
この世界は全体的に、安全意識や危機管理といった概念はあまり浸透していないようなので、そのようなツッコミは野暮だということが見ていくとわかってきます。

そして本編の時間軸、AIは人間の顔を持ち、人間のように喜怒哀楽を表現し、涙まで当たり前に流し、非常に衝動的に行動を行います。
後頭部こそ機会ですが、機能的な必然性というより、アイコンに近い要素のようですね。こうなってくると、「AIは機械じゃない」という話は、キャラクターの心情というより、この世界の設定のように聞こえます。

なんと、夜も寝ます。みんな同じ時間に。労働要素0。
ちなみにガンガン人も殴ります。三原則とかは無い世界。ある意味リアル。

つまり、この世界の「AI」は以下のような特徴を持っているようですね。

  • 1人の天才によって作られた

  • 信仰の概念を持つ

  • 喜怒哀楽を人間並に持つ

  • 「人の役に立とうとする」が、自己保全が優先

よく働くいい人」ですね。非常にポジションがはっきりした作品です。

妻を追う男と、創造主を追う反AI派と、救世主を探すAI派

前置きが死ぬほど長くなりましたが、本筋は作戦中妻を失い無気力になった男が、妻が生きてる可能性を軍に示唆され、その過程で見つけた少女AIの創造主・戦争集結につながることから、両勢力を巻き込んだ大逃走劇に発展する、というものです。

徐々に物事を学習し、絆を育んでいく過程はロードムービー的で非常に丁寧に描かれ、主人公の視点を中心に描かれるため感情移入しやすい作りになっています。
そしてラストはそれらの集大成となるようなカタルシスが用意されており、構成としてはかなりまとまった話に見えます。
「天国」を象徴的に描写しており、軍属で人を殺めた主人公と、AIである少女アルフィーというどちらも天国には行けない2人を軸に進むため非常に情緒的で、血の通ったAIの強みが生かされています。

キーとなる少女アルフィーは感情表現こそ乏しいですが、主人公への信頼が全面的に出ており、驚異的な能力とのギャップが大きく庇護欲をくすぐられ、主人公と観客が連動してアルフィーに愛着を持てるようになっているように感じました。

しかし、前述のAIに代表されるような、「現実世界とのズレ」が随所にあるため、そこに引っ掛かれば引っ掛かった分だけ、感情移入に失敗し評価を下げるタイプの作品に見えます。
特にリアリティとか合理性を是とする人にとってはなかなか辛い時間になるかもしれません。主人公を逃すための大いなる力が働いている世界、という前提が苦手な方はご注意ください。

莫大な予算で「癖」を出す

ハイテク軍事基地、ノマド

反AI派の主力かつ決戦兵器が、空を浮かぶ巨大戦艦、ノマドです。
下界の動向をスキャニングしつつ、指定された座標にとんでもないサイズのミサイルを打ち込みます。

飛行高度が画面からだと一定では無いように見えますが、演出的なものかも?
ギリギリ重力が働く程度の高さを飛んでいるようです。
余談ですが、船もホバー移動してたのでコスパの良い推進剤があるようです。

白で統一されたカラーリングは、いかにも潔癖な感じで反AI派を主張していて非常に好きなデザインです。
一機しかないので、これが破壊された負け、という潔さもいいですね。遊戯王の先行制圧みたいな感じ。

青い壁のように見えるレーザー光で地上をスキャンし、基地などを索敵、標準も担っているようです。
真下にしか標準できないなら不便だなと思ってましたが、終盤複数地点同時ロックしてたので、標準用の子機が居るのかも?
高さが色々に見えたのは索敵子機かもしれません。

ハイテク+ローテク

この作品で印象的なのは、ハイテクなロボたちが着物や農業(クワ持ってる)など、非常にアンバランスなカットが多く登場することです。
おそらく監督の趣味かなとは思いますが、邦画と桁が3つほど違いそうな予算でその癖を繰り出されると、なかなかの破壊力を見せます。

個人的に好きなカットは、ノマドの到来を石山の頂上から佇む、着物を着た頭部が旧式のロボです。
Horizonシリーズのような、失われた文明を感じさせる、本編の意図とは全く違うカットですが綺麗な色彩に混じるハイテク機器が、よいですね…

面白アジアパッチワーク「ニューアジア」

また、監督はアジアが好きな様子で、それを遺憾なく発揮できる設定が「ニューアジア」です。
これは親AI派諸国を一まとめにした、大雑把なアジアで、描写も非常に大雑把です。
AIは親AI国家で作られるためアジア系の顔立ちが多く、それぞれ顔の元になったであろう人種の母国語を話し、共通語として英語を話すという形です。
一見奇妙な光景ですが、ChatGPT蔓延る現代、基礎プロンプトによっては頻発する事象なので図らずも非常に現代的な描写になっているのが嬉しい誤算です。

街並みの色々なアジアをつまみ食いといった感じで、隠れ住んでる親AI派は多くを農村で過ごし、田植えとかをしてます。
一方で都会に行くと、みんな大好きネオンまみれのサイバーパンクな世界が広がっています。カタカナ看板や漢字も随所にあり、面白アジアを存分に堪能できます。

また、印象的だったのはスタッフロールに筆字でのカタカナが併記されていることです。色々映画を見ましたが、カタカナで名前が読める洋画は他に知らないかも…渡辺謙さんはちゃんと漢字でした。

ヒャッハー!この世は地獄だぜ!リスト

  • え!?1人でAIを!?

    • 大天才すぎ。なぜか世襲制。そしてなぜ狙われてるかもわからん
      死ぬと全AI止まるのかと思ったけど、そういうこともなかった

  • (推定)100年以上使用していた技術(AI)をいきなり禁止に!?

    • 思い切り良すぎでしょ!?みんな今から電子計算機使用禁止にできる?!
      時代は白黒テレビ(1940年代)から見積り

  • AIがやらかしたか〜…危険なのでAI狩します!!!!

    • 野蛮がすぎる…そんなん戦争になるやん…なったわ…
      三原則とか実装してればロビタ(火の鳥)みたいにスムーズだったかも

  • 軍隊なのに全然命令守らんじゃん。CoDか?

    • ノマド対策兵器があるから破壊して→
      A「敵に囲まれた!助けて!!」→B「わかった!CDは残れ!」→
      C「くそ!あいつが帰って来ねえ!行くぜ!ドア開いても入るなよ!」→
      D「お、ドア開いたな。開いたし、入るか…」

    • 撃墜ギリギリまで味方を待ったり、爆弾引っ付いた味方をヘリに乗せたり、
      うっかりポイントが多い。反AI派だから人情に厚いのか…?

  • 人権って、まだ無いのかな…

    • 基本的にミサイルバカスカ撃たれる

    • ロボは電源落とされずにスクラップ

    • 人間は死後も脳波スキャンしてロボに入れて情報抜かれる(最怖シーン)

  • (親AI派の)制空権は俺(反AI派)のものだ!!!

    • 自陣のはずなのにどんどんヘリが降下してくる

    • 対空装備とか、飛行兵器とか無いっぽい。反AIの方が生産力がある…?

    • AI製造に部品持ってかれてる説はある。その部品は反AIが回収すると…

  • 手を挙げたぞ!撃つな!不意打ち対策?ハハッそんな卑怯なことするわけが…

    • この後機能停止したし車も銃も取られた

  • ミサイルは無警告で撃ち込むぞ。

    • そういうルールでやらしてもらってるんで

  • 監視?動くなってちゃんと言ったよ?

    • 言ったのに脱走するとかありえる?!

  • 監視?夜は寝る時間だろ?

    • 寝てる時間に脱走するとかありえる?!

  • 逃げたぞ!!……水に飛び込んだし、ええか…

    • 周り水しかないけど、まさか船の下にはおらんやろ…

  • こいつ追跡されてる!村まで連れてけ!

    • 村は燃えました。

  • 離陸禁止命令は大事なので口頭で伝える

    • 口頭で伝えた瞬間離陸する1便

  • 奥さんかわいそすぎ問題

    • 夫に裏切られるし爆撃受けるし子供失うし植物状態だしAIは電源落としてくれないし…

    • 救いっぽい雰囲気出してたけど、あれ同一性の観点から見るとどうなの…?

まとめ

全体として、話の構成や落とし所、人間の残念さ周りは非常にわかりやすく描かれていて、アルフィーも可愛げがある良いキャラクターでした。
映像も非常に凝ったカットがいくつもあり、戦争シーンもひたすら爆発が派手で容赦無く、兵器のスケールもさすがSFといった感じで画面に映える作品でした。

反面、ストーリーや設定、世界観の整合性や考証はあまり触れておらず、画面の情報から裏側を見ようとすると途端に破綻した世界になるため、そういう意味で人を選ぶ作品だなと思いました。

とはいえ、評価コメントを見る限り、この作品のAI観を違和感なく受け止める人も結構多く、疑問を抱く方が少数派のようでした。わざわざコメントを書かない層も含めると、おそらく世間的にはAIは「こういうもの」な可能性は高いので、
GPT系統などを広めるためには、我々もそういう認識に寄り添った形で世に出していく必要があるなという意味で、AIについて非常に考えさせられる作品でした。

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