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日本で最後の瞽女、小林ハルを映画化、瀧澤正治監督『瞽女GOZE』

日本で最後の瞽女(ごぜ)と呼ばれた女性、小林ハルの人生の物語『瞽女GOZE』という映画が公開された。

かつて北陸地方を中心に、瞽女と呼ばれる盲目の女性が三味線を片手に巡業して村を訪れ、歌を披露する旅芸人がいた。

ハルが生まれたのは1900年のこと。生後3ヶ月にして疾病のため視力を失ってしまうハルの両親は、悲嘆に暮れるも、暖かく見守りながら育ていくことを決意するが、その矢先、ハルの父は急逝してしまう。残された母とハルの祖父母の3人でハルを育てることになる。母は占い師の手引きでハルを瞽女として育てることを決意。ハルが6歳になると、母は心を鬼にして、徹底的に厳しいしつけを娘に施すようになる。裁縫の糸通し、家事全般、全てを徹底的に自分でやるようにしつけ、できないと食事を抜きする罰を与える。やがて瞽女の師匠に弟子入りして、一人前になるため修行の日々へ。寒風吹きすさぶ猛烈な吹雪の中、素足で発声能力を鍛えるため大声を歌うなど、今なら虐待に等しい行為が次々とハルに強要されるが、これも生きていくために必要なスキルを身につける苦しい修行なのだ。

その後も、母の死、やさしい師匠に交代するも、その師匠が病に倒れ、手引き役の女性から暴行されて子供を産めない体になるなど、容赦なく苦難がハルを襲う。それでも、ひたむきに自分の運命を呪うことなく、試練を淡々と受け入れ、意欲的に生きるハルの姿に、激しく心を打たれた。

驚くべきことに、ハルは105歳までの天寿を全うし、2005年まで存命していたのだ。つい十数年前まで、小林ハルという壮絶な人生を生き抜いたすばらしい女性が日本にいたこと、そして、瞽女という生き方がこの日本にあったことを不勉強にして初めて学ばせてもらった。

「神様、次の世は虫に生まれ変わっても、明るい目を授けてください」と懇願するハルの言葉は、あまりにも哀しく、胸に突き刺さる。目が見えるという、一見当たり前のようなことが、実は途方もなくすばらしい奇跡なのだ。人生には思いもかけぬ、試練ともいえる苦しみが降りかかってくる時期がある。だが、その試練がどんなに苦しくてギブアップしそうでも、ハルの経験した苦難に比べれば、実にちっぽけなものではないか。苦しくても、不平、不満を言わず、明るく前向きに生きていけば、必ずトンネルの出口は見えてくるものなのだ。

興味深いのは、この映画の年代が奇しくも『鬼滅の刃』の大正時代とほぼ重なっている点だ。ハルの強靱な精神力は、鬼になっても人間としての理性を失わない禰豆子を想起させる。『瞽女GOZE』を『鬼滅の刃』の大ヒットの陰に埋もれてさせてはいけないのだ。

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