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2023年、動画で紹介した本を振り返る動画


2023年も1月から一ヶ月で2冊ずつ、合計23冊(12月は1冊のみ)の今読むべき新書や学術書を、作文教室ゆうの藤本研一さんと一緒に紹介してきた。動画で本を紹介するきっかけは、あまりにも読みたい本や読むべき本が多すぎて、でも一人だけでなく一緒に読む人がいるとなお楽しいし、どうせなら単に読むだけでなく、動画で感想を公開したらいいのでは、というアイデアが出た。それ以上に、一種の「強制圧力」のようなプレッシャーをかけることで、ムリヤリ読書量を増やそうという魂胆である。

そんなわけで、藤本さんのYouTubeチャンネルにお邪魔させていただき、月二回動画を撮影することを続けて、はや二年以上。「名著を読み解く」と題して、かれこれ、50冊以上は紹介してきた計算になる。このnoteでも何度か単体の記事で紹介してきたことがあり、可能ならば更新するたびにこのnoteでも紹介しようとしたが,更新するのは思った以上にしんどいため(汗)、すっかり追いつくことができないままでいる。こうなったら開き直るしかない。

「名著を読み解く」の傾向

そんなわけで、年末の番外編として、今年どんな本を紹介してきたのかを振り返るという企画を行った。長くなったので、前編と後編で二つにわけている。とはいえ、藤本さんの饒舌な喋りと比べて、情けないほど自分の口下手さも思い知ってしまった。

動画を撮り始めた当時は、自分たちが読んでみたい、面白そうな本ばかり好き勝手に選んできたわけだが、選書にも傾向があることに後から気がついた。それは、今後の資本主義社会をどうするか、というテーマが実に多いのだ。元々最初に紹介したのが斎藤幸平『人新世の資本論』だから、ある意味、今後の傾向を象徴していたのかもしれない。

新刊が出ると、採り上げることが多いのは、斎藤幸平、千葉雅也、國分功一郎、東畑開人、大澤真幸といったメンバーである。他にも個人的に好きな柄谷行人、西垣通、落合陽一、磯野真穂、宇野重規樹、與那覇潤といったメンツも本も紹介している。紹介した本の本文や注釈で、過去に紹介した本や作者が言及されることもよくあるので、いろいろと繋がっているのも、やっていて面白く感じるポイントだ。好みの研究者や知識人ばかり選ぶことができるのも、自由にやれるYouTubeならではの楽しさだ。

今年も斎藤幸平の『ゼロからの資本論』や大澤真幸と斎藤幸平の共著『未来のための終末論』、ナンシー・フレイザー『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』など、果てしない人間の欲望によって資本主義の行き過ぎが加速し、自然破壊の悪化、石油などの資源枯渇、水質汚染など、様々な問題が起こるメカニズム、そしてどうやって現在の惨状から脱却するか、そのヒントとなる本を何冊か採り上げた。この思想は未来に対する現在の責任を説いた戸谷洋志『未来倫理』とも通底している。意図せず「資本主義」がテーマになっているのは、少しでも「コモン」や「資本主義」の問題を多くの人に知ってもらって考えて欲しい、という思いが自分の心の奥底にあるからかもしれない。

誰も紹介しない本だからこそ動画で紹介する

「名著を読み解く」の動画を始めてから、これまで以上に本のアンテナを張るようになった。アンテナを張るために一番いいのは、書店を隈なくチェックすることである。選書で心がけているのは、発売から半年から一年以内、ビジネスハウツー物は避ける(そういった本は他のユーチューバーが紹介しているので、あえて我々がやる必要はない)、良識ある知識人を選ぶ、新書や学術書がメインetcといった基準を設けている。SNSも選書に大変有効だが、実際に手に取ってみないと良書か判断が付かないという経験は何回もある。

ジャンルも、現代思想、政治思想、経済学、文化人類学、哲学、社会心理学など、自分の専門分野を遙かに超えており、あまりにも無謀極まりないというか、敵の本丸に丸腰で侵入するような気持ちで、専門家から見れば「一体どうしてオマエごとき素人が!」という批判を免れないわけだが、そもそも、紹介する人がほとんどいない本ばかり採り上げているので、誰もやっていないからこそ、そこに価値を見出して、なんとかやっている。動画を見た人が少しでも興味を持って、手に取ってくれる人がいれば幸いである。

2023年面白かった一冊

そんなわけで、今年、(ひそかに)面白かったのは西垣通『超デジタル社会』(岩波新書)である。ソサエティ5.0とかメタバースといった用語が飛び交い、スマホのようなデジタル機器がいくら浸透しても、日本のデジタル社会は世界に遅れて、ちっともうまく機能しない原因を、官僚システムや社会構造から独自に解き明かした、現代日本論としても極めて優れた論考である。こういう(隠れた?)名著がもっと読まれる社会になって欲しいと思う。

今年は大江健三郎先生が亡くなるという、大きな喪失を伴う年であった。その悲しみを乗り越えて、大江先生も生涯ずっと心に抱いていた民主主義、核や憲法の問題についても考えていかねればならない。

2024年も、動画再生数を度外視して、名著を読み解くを続けていきたい。そして、いつもながら、酔狂な(?)企画を一緒についてきてくださる藤本さんにも心から感謝!

来年も、面白い良書との出会いが、たくさんありますように!

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