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1st Batchと2nd Batchの間に考えること

コルシカコーヒーの人気企画にTHE FIRST BATCHというものがあります。
 どんな企画かというと、サンプルロースターを持たない当店が新しいオリジンの最初のバッチをぶっつけ本番で焙煎し、テストローストの意味合いもあるので少しサービスした価格で提供するというもの。
 まず重要なのは豆のキャラクターを正確に引き出すため、極端に攻めたアプローチをしないということ。これによって2nd以降の焙煎の方向性を定めていくのですが、場合によってはそこで理想的な焙煎に仕上がることもあり、それ以降は修正どころか1stバッチのときの焙煎を目指していくこともあります(もちろん届かないこともあります)。
 今回のイベントで使用するオリジンは私、吉村が愛してやまないケニアのコーヒー。前のオリジンがブンゴマというウガンダ寄りに位置したエリアのものだったので、ちょっと変わったケニアという印象だったので今回はこれぞケニア、というキャラクターのオリジンが欲しかったのですが、送られてきたサンプル焙煎豆がちょっと残念なクオリティでした。
 生豆の質が低いというわけではなく、5つのサンプルの焙煎度合いがばらばらだしかなりローストが進んでいるものもあったりで、正確なジャッジができるようなものではなかったのです。
 ちょっとテンションが下がりつつも、自分が焙煎したらどうなるかを想像しつつカッピングして、これならいけそう、と選んだのがこのキアワムルルというニエリのコーヒーでした。
ということでさっそく1stバッチを焙煎。プロファイルは下記参照。

 このところの当店の平均焙煎時間はだいたい8分ジャストぐらいで、ちょっと大粒な(AAとABの間ぐらい)豆だったのでアンダーになって酸が強く残るのを避けて少し長めに55秒ぐらいDTを取りました(11.2%)。手ごたえとしてはまあこんなもんかなあという感じ。そもそもサンプルの印象があまりよくないので過度な期待をしてません(笑)。
 
 実際のカップを取ってみたところ長めのDTのおかげで酸は比較的クリーンに出ているもののフレーバーが少し弱く、甘さも気持ち柔らかすぎてニエリの特徴であるジューシーなトマトやピーチを感じるようなコーヒーにはなっていませんでした。
 
普通においしいコーヒーではありましたが、ケニアを看板として激推ししているコルシカコーヒーとしてはこれでは納得いきません。
 
ということで2ndバッチは思い切ってフレーバーを前面に出せるように考えました。こういうとき私が取る方法はいたってシンプルで、焙煎スピードを上げます。1stでは1stクラックが7分6秒かかったので今回は最低でも7分ジャスト、またはちょっと切るぐらいでもいいという気持ちで終始、火力を強めに保って焙煎しました。プロファイルは下記の通り。
 

 まあ狙い通り、っていうかさらに早く進行してしまって少し焦りましたが、途中で火力を緩めるのを我慢してDTは前回と同じく55秒(11.9%)ですが、前回の55秒とは少し意味合いが違います。本来ケニアはDT50秒ぐらいでドロップするのですが、進行があまりにも早かったのでアンダーデベロップになるおそれがあったので5秒引き延ばしました。このへんは焙煎中の感覚でしかないので言葉で説明するのはちょっと難しいのですが、簡単に言うと香りのピークがまだ来てなかったからちょっと延ばしたって感じです。
 結果から言うと大成功でした。アロマによりハーバル感が出てトマトや甘いグレープフルーツのフレーバーや酸がきれいに出ました。質感もとてもシロッピーで甘さも持続します。コルシカコーヒーがおすすめしたいケニアのコーヒーにかなり近づいたのではないかと思います。  このように焙煎時間が極端に短くなったことで一見、ちょっと失敗したように感じてもこういういいカップに仕上がるとローストプロファイルの見直しにつながったりするのも面白いですね。 

 最後におまけとして1stと2ndの中間で焙煎したエスプレッソローストのプロファイルもご覧ください。 

 フィルターのときより一回り火力を落とし、1stクラックまでの時間を長くして、さらにDTも2分10秒(21.3%)としっかりとって甘さを引き出します。DT中の火力はかなり弱めで焦げないように気を付けています。ドロップの温度は208℃とフィルターよりも5℃高いので焙煎度合いとしては若干深めですが、これは当店のエスプレッソ設備に合わせるための苦肉の策です(笑)いいエスプレッソマシンとグラインダーを導入できればもっと浅く仕上げると思います。
 
 ということで焙煎についていろいろと語ったのですが、私が一番重要視しているのはキアワムルル・ケニアというオリジンをいかにMt.Kenyaというコルシカコーヒーのプロダクトにできるか、という点です。

 
 私たちロースターはスペシャルティコーヒーという素晴らしい素材を扱っているのですが、その素材のどの部分を輝かせるか、というのはロースターによって様々です。
 それは人によっては明るい酸であり、華やかな香りであり、クリーンカップであり、私のように果実の甘味であったりするのですが、オリジンからその魅力を見つけ出し、最大限引き出すことがロースターの仕事です。そうすることオリジンは生産者がつくった素材から自分のコーヒーという商品に変わっていくと私は思います。
 
 すべての人にとっての理想のコーヒーというものはありません。
 ロースター(バリスタもですが)はあくまで自分にとっての理想のコーヒーを表現し、提供するのですから、それを押し付けるのではなく理解していただき、共感していただく努力を怠らないようにしなければいけないと思っています。
 このMt.Kenyaというプロダクトはそんな私の理想のコーヒーを表現するためにもっとも重要なプロダクトです。これを飲んだ人が誰しも「ああこれはコルシカコーヒーのコーヒーだね」と気づく。それぐらい特徴的で魅力的なプロダクトになってほしいと思っています。

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