見出し画像

暴言を吐いてしまったとき

──今回は畑中麻紀さんのリクエストに応えていただきましょう。「仮にどうしようもなく怒りが爆発してしまって暴言を抑えられないような時、周囲の人にはどのように対応してもらいたいですか?」

横道 これは「怒りを解消するには」(https://note.com/makotoyokomichi/n/n95aeac68869a)に関連しての質問ですね。

──その回では怒りを処理する方法が考察されていましたが、どうしても怒りが爆発してしまうことだってありますね。

横道 その際には「私は怒っているぞ」と表明するための言葉を、別の言葉へと「じょうずに逸らす」のが良いです。

──どういうことですか。

横道 たとえば家族のじぶんに対する態度が非常に腹立たしいものだったとします。あなたはどうしますか。

──そうですね。子どもの頃に見ていた特撮番組『時空戦士スピルバン』の最終回で、主人公は敵にトドメを刺したときに「おれの怒りは、いま爆発!」と叫びました。それを相手に言ってやりたいです。

横道 それをできれば、最終回までの各回で言っていたセリフに「逸らして」みてはどうでしょうか。

──それはたしか「おれの怒りは、爆発寸前!」だったと記憶しています。

横道 「いま爆発!」を「爆発寸前」と逸らすことで、表現が柔らかくなり、優しい印象が生まれるわけです。

──でも「おれの怒りは、爆発寸前!」とわめきながら怒っている人だって、まあまあ怖い気がします。

横道 ではさらに逸らしてみましょう。「おれの怒りは、爆発まであと7分20秒です!」

──だいぶユーモラスになりましたね。爆発に至る時間をあらかじめ予告してくれるのは、親切だと思いました。
 でも、7分20秒後がやはり怖いという事実には、変わりないと感じます。

横道 じゃあこう言ってみてはどうですか。「おれの怒りは爆発まで、あと7分20秒です! なお、いわゆる「世界終末時計」はアメリカが1952年、ソ連が1953年にあいついで初の水爆実験に成功したのを受けて、終末まで残り2分と表示されたわけですが、その年から現在までに世界は終末を迎えることなく70年が経過しています」

──これはすごく親切だと思いました! 「おれの怒りは爆発寸前まで、あと7分20秒です!」と予告しても、その「7分20秒」が半永久的に経過しない可能性だってあるんだよ、と仄めかしてくれているということですよね。

横道 はい。怒りをぶつけられるほうも安心して警告を受けとめられるし、そのように予告した側も、あとになってから「あんなことを言うんじゃなかった」と自己嫌悪に陥らなくてすむと思います。

──しかしリクエストでは「暴言を抑えられないような時」という条件でした。横道さんがいま提案してくれたようなものは、暴言を抑えられてるからヒントにならないんじゃないですか。暴言を抑えられず、実際にきつい一言を口走ってしまったあとはどうするんですか。

横道 いちばん簡単なのは肉筆で手紙を書くことではないでしょうか。

──なぜ肉筆なんですか。

横道 スマートフォンで送信したりすると、ふだんのコミュニケーション様式と一緒になってしまって、後悔していることが伝わりづらいからです。「暴言を吐いてしまった」と後悔しているんなら、誠意をもって思いを伝えたほうが良いと思います。

──たとえば横道さんがお父さんやお母さんからそんな手紙が送られてきたら、両親のかつての暴言を許そうと思いますか。

横道 思いませんね。でも、それは関係がこじれきっている場合でしょう。そこまで行っていないケースでは、肉筆の手紙は試してみる価値があると思います。

──関係はこじれきっていないとしても、肉筆の手紙が効果を発揮しない、という場合だってありますよね。

横道 人間関係のもつれを解決する基本は、第三者に介入してもらうことではないでしょうか。国際紛争でもそうだし、一般的な人間関係でもそうだと思うんです。

──たとえばどういう第三者ですか。

横道 両者にとってなるべく中立的な人だと思います。

──私にはこの人ならちょうどいいな、という人が思いあたりません。

横道 それでは、私がやっている自助グループに参加してみてはどうでしょうか。いろんな自助グループをやっていますが、なんでも相談できるタイプもふたつあります。京都でやっている「宇宙生活」という当事者研究の会、オンラインでやっている「ゆくゆく!」というオープンダイアローグ的対話実践の会。詳細を教えていただいて、何人かであれこれ語りあっていると、良い知恵が出てくるものです。

──横道さんが何か助言してくれるわけですか。

横道 気のきいたことを言う人は、私の場合もあるし、スタッフの場合もあるし、ほかの外部からの参加者の場合もあります。

──ところでリクエストの正確な内容は「暴言を抑えられないような時、周囲の人にはどのように対応してもらいたいですか?」だったんです。周囲の人に対する要望がほんとうのテーマなんです。

横道 私が怒って暴言を吐いてしまったときは、直接的ではない仕方でたしなめてもらうのが、ありがたいですね。「マコトさん、きょうは疲れているみたいですから、心配です」のように。そのような言い方から優しさが伝わります。

──横道さんは自閉スペクトラム症者なのに、遠回しな表現が理解できるんですね。

横道 もともとは理解できませんでしたが、文学作品をたくさん読んで、人間心理に対する考察を重ねましたからね。「人がよくわからないことを言っているとき、その裏には特定の意図があることが多い(ただし、必ずそうだというわけではない)」ということは知っています。具体的にどういう表現のときに、どういう隠れたメッセージがあるかも、だいたいは推測できるようになりました。

──よく訓練された自閉スペクトラム症者というわけですね。

横道 私自身はより直接的なコミュニケーションを好みますが、「隠れたメッセージ」が「優しさ」や「心配」だと判断できるならば、すなおに感謝します。私自身が、だいぶ無理をしてですが、そういうメッセージの発し方を試みることもあります。

──ほかにはどんな対応をしてもらいたいですか。

横道 当たり前のことですが、権力や暴力で応答するのはやめてほしいですね。一口に「暴言」と言っても、まずは正当な批判のつもりで出てくるものは多いはずです。そのような批判に対しては、冷静に対応するのが筋というものです。痛いところを突かれたからといって、「強権発動!」と権力や暴力で反撃してくるのは卑怯だと思います。

──しかし犯罪級と判断されても仕方のない暴言、つまり名誉毀損や誹謗中傷のたぐいはありますよね。

横道 犯罪級の暴言を吐いた場合は、相手の法的な対応に応答する必要が出てきますね。暴言に対して激昂した相手がいれば、直接的に相手をコントロールして、なんとかすることは困難です。ヘタをすれば、なおさらこじれると思います。やはり第三者に相談するのが良いでしょう。

──参考にしてみます。畑中さん、これでまだ納得できなければ、さらにリクエストをお願いします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?