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石井聰亙監督『逆噴射家族』(1984年)

カエル「京都みなみ会館が閉館するって聞いちゃった」
リス「えっ! 京都にあるカルト的な人気を博したミニシアター系映画館だね」
カエル「2019年に移転新装開館したんだけど、コロナ禍が響いたって」
リス「立地もちょっと悪かったもんね。京都駅の少し南って、ちょっと辺鄙だ」
カエル「東寺の近くをそんなふうに言うと、京都人に呪われるよ」
リス「くわばら、くわばら」
カエル「私がオタマジャクシの頃は、ああいう映画館って京都ではみなみ会館だけだったんだけど、そのあと京都シネマができて。最近数年のうちに出町座とアップリンク京都もできたから」
リス「思えば、ぼくも最近は出町座、アップリンク京都、京都シネマに行くことが多かったなあ。昔はみなみ会館の会員証も持ってたのに」
カエル「そんなわけで、きょうも死にたくなっちゃった」
リス「そんなきみに、石井聰亙作品を勧めておこう」
カエル「なんで石井聰亙?」
リス「2020年に、石井岳龍が石井聰亙から改名して10周年ということで、みなみ会館では『狂い咲きサンダーロード』『​​爆裂都市バースト・シティ』『逆噴射家族』と、聰亙時代作品のオールナイト上映があったんだよ」
カエル「へえ、それは知らなかった。いま、その三作品をぜんぶ観るってこと?」
リス「今回は『逆噴射家族』(1984年)なんてどうかな」
カエル「どんな作品? よく考えたら石井聰亙って、観たことなかった」
リス「1982年に新進の映画監督がディレクターズ・カンパニーっていう映画制作会社を作ったんだ。そこで生まれた作品のひとつ」
カエル「へえ。ディレカンの作品か」
リス「ディレカンって略語、よく知ってるね。監督の石井聰亙もこの会社の一員だったのさ」
カエル「それはとっくに知ってたけど、解説してくれてありがとう」
リス「『逆噴射家族』って変わったタイトルと思わない?」
カエル「1982年に日本航空の飛行機が羽田空港沖に墜落した事件があって。機長がエンジンのスロットルを逆噴射させた。「逆噴射」が流行語になって、こんな映画もできたってわけ」
リス「きみ、何年生まれなの?」
カエル「オタマジャクシ時代が長かったから。機長は統合失調症だったのよね。当時の名称だと精神分裂病」
リス「とりあえず観てみてよ」
カエル「うん」
(106分経過)
カエル「ちょっと時代を感じさせる映画だったね」
リス「どのあたりが?」
カエル「画面の雰囲気もすっごく80年代って感じだったし」
リス「ぼくは「いま見ても古びてない」っていう評価をよく耳にするけどなあ」
カエル「それはその人たちがおじさんで、若い頃に作られた作品を美化してるからよ」
リス「なるほど」
カエル「脚本にマンガ家のよしりんが参加してるのね。納得だわ」
リス「小林よしのりかあ。あの人は『ゴーマニズム宣言』とかで、あんまりイメージが良くないなあ。ネトウヨの生みの親というイメージ」
カエル「80年代は、よしりんまだそんな感じじゃなかった。あとよしりんには、反ネトウヨという面もあるよ。それはさておき、『東大一直線』とか『おぼっちゃまくん』とかのスラップスティックなノリが、この映画には良く出てるって思った」
リス「たしかに実写でマンガっぽいことをやってる感じは、はっきりあるね」
カエル「プロデューサーに長谷川和彦が入っているのは、いい感じね」
リス「『太陽を盗んだ男』の監督だね」
カエル「ディレカンのリーダーでもあった人」
リス「ところで映画にノイローゼって言葉が何度も出てきたけど、よくわかんなかったんだよな」
カエル「さっきの航空事故のとき、機長に関する報道でよく出てたみたい。この頃の人って、精神が消耗した状態を「ノイローゼ」って言ってたから」
リス「そうなのか。内容はどうだった? 父、母、男の子、女の子、祖父が殺しあいをする内容」
カエル「暴力表現がそんなにキツくなくて、その点は安心できたわ」
リス「当時中学生くらいだった工藤夕貴がかわいいんだよな」
カエル「中森明菜の「禁区」とか小泉今日子の「艶姿ナミダ娘」を歌う場面は、一緒に口ずさんじゃった」


『逆噴射家族』より


リス「きみは何歳なの? それはともかく、あの子がレオタード姿で縛られているところに興奮したよ」
カエル「変態!」
リス「家の床が掘られたり、ガスが引火して爆発したり、最後に家は倒壊したりで、家がかわいそうになる」
カエル「やりすぎな感じで、そこはいかにも80年代っていう悪ノリが感じられたわね。静かできれいな場面もあちこちに挟まれてるけど」
リス「最後はすがすがしい生活風景に変貌するんだよね。あんなにすっきりした場所で暮らしてみたい」
カエル「ふうん、変わってるね」
リス「どう、死にたくなくなった?」
カエル「そうね。たまにはレトロなドタバタ映画もいいなって思った」
リス「そうだろう」
カエル「ついでに観終わったあと、ひさしぶりに工藤夕貴の曲をいくつか聴いたわ。「微笑むあなたに会いたい」とか「幸福」とか」
リス「『愛少女ポリアンナ物語』の主題歌だっけ?」
カエル「ああいう昭和レトロな悲しい曲を聴いていると、さらに死にたい気持ちが弱まったかもしれない」
リス「そうなんだ。それなら良かった」


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