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環境、行為、そして意味〜行為の意味は環境から引き出されるということ〜

「私たちは環境から様々な"支え"を受け取り、そこに意味を見出している」

アメリカの知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソンが提唱した「アフォーダンス(affordance)」という概念。これは「与える、提供する」などを意味するアフォードから派生した造語ですが、環境が私たちに提供している「行為の資源」です。

私たちは環境に内在している性質を見出し、その性質を適切に利用しながら様々な行動・行為を実現している。逆に言えば、行動(および、その意味)を観察することで環境が持つ有用な(活きた)性質を見出すことができる、ということでもあります。

たとえば、地面との接地時に生じる「摩擦」に注目してみます。日常生活の中で歩いたり、走ったりする際には適切な摩擦が存在するからこそ前に進むことができます。逆に摩擦が少なければ滑ってしまい歩くことは難しい。一方、スキーやスノーボードなど「滑る」ことそのものが目的である場合には
摩擦が適度に少ないことが望ましく、「雪」は滑る行為をアフォードしていると言えるかもしれません。

環境は何も(物質的な)自然環境にかぎらないと思います。(ギブソンが想定している範囲を逸脱しているかもしれませんが…)人間を含む生物も環境に含めることができるのかもしれません。たとえば、対人コミュニケーションにおいて、相手の表情や声のトーンは「会話」という行為をアフォードしているかもしれません。日頃から上機嫌でニコッとしている人には「声をかけやすい」とすれば、表情が会話をアフォードしていると言えるのではないでしょうか。

「アフォーダンス」という概念は、無意識的に自然と受け取っている環境に埋め込まれた有用な性質、意味を探す手掛かりになる。行為の意味を探る時に、その行為の主体だけに着目していては、環境との関係性、その関係性の中に存在する活きた意味を見落としてしまう。また一つ、自分の中で何かがほどけたような気がします。

英語の動詞アフォード(afford)は「与える、提供する」などを意味する。ギブソンの造語アフォーダンス(affordance)は、「環境が動物に提供するもの、用意したり備えたりするもの」であり、それはぼくらを取り囲んでいるところに潜んでいる意味である。ぼくら動物の行為の「リソース(資源)」になることである。動物の行為はアフォーダンスを利用することで可能になり、アフォーダンスを利用することで進化してきた。

佐々木正人『アフォーダンス入門 知性はどこに生まれるか』

たとえばギブソンはこんなふうにいう。
「陸地の表面がほぼ水平で、平坦で、十分な広がりをもっていて、その材質が堅いならば、その表面は(動物の身体を)支えることをアフォードする」、「我々は、それを土台、地面、あるいは床とよぶ。それは、その上に立つことができるものであり四足動物や二足動物に直立姿勢をゆるす」。つまりぼくらが地面とよぶところにあるのは「土」や「岩」という名前がつけられているが、それらは動物にとっては身体を「支持する」、その上を「移動する」などのアフォーダンスであるというわけだ。

佐々木正人『アフォーダンス入門 知性はどこに生まれるか』

水は、ぼくらに対して呼吸作用をアフォードすることはない。水は飲むことをアフォードする。水には流動性があるので、容器に注ぎ入れることをアフォードし、溶解力があるので洗濯や入浴をアフォードする。水流の表面は密度の高い大きな動物に対する支えをアフォードすることはない。水は、ぼくらにとっては「喉の渇きをいやす」、「容れ物で運搬する」、「汚れを落とす」、道具なしにはその上を「移動しない」、あるいは動物を利用してその上を「移動する」などのアフォーダンスの集合である。

佐々木正人『アフォーダンス入門 知性はどこに生まれるか』

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