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お金は自立性と利己性を強化する

今日はダニエル・カーネマン(心理学者、行動経済学者)による書籍『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』より「プライムが私たちを誘導する」という一節を読みました。一部を引用してみたいと思います。

お金を想起させるものは、いささか好ましくない効果をもたらす。ある実験の被験者はいくつかの単語のリストを見せられ、それを使ってお金に関わる表現をつくるよう支持された(たとえば「高い/デスク/額/サラリー)から「高額のサラリー」)。
すると、お金のプライムを受けた被験者は、受けなかったときより自立性が強まったのである。彼らは、難問を解くのにいつもの二倍もの時間粘り強く取り組んだ末に、ようやくヒントを求めた。これは、自立性が強まった顕著な証拠と言える。しかしその一方で、利己心も強まった。彼らは、他の学生(じつはサクラで、与えられた課題がよくわからなかったふりをしている)の手助けをする時間を惜しんだ。
これらの発見から総じて言えるのは、お金という観念が個人主義のプライムになるということである。すなわち、他人と関わったり、他人に依存したり、他人の要求を受け入れたりするのをいやがる。
とはいえ、プライミング効果をまったく信じないという選択肢がないことは、ここで強調しておきたい。実験結果はでっちあげではないし、統計学的に見て偶然でもない。これらの研究が到達した結論は正しい、ということは受け入れるほかないのである。

私たちの連想、選択、行動などはプライム(先行刺激)に左右されていることが種々の実験から明らかになっています。プライムとはたとえば、何かの言葉や概念に触れたり、ある表情や行動を取ることなどが挙げられます。

「お金が自立性と利己性を強化する」つまり「お金という観念が個人主義のプライムになる」という示唆は、他者との関係性、日常生活、社会のあり方を考える上でとても重要だと感じました。

魚を獲り尽くしてしまった日の記憶

この話を聞いたとき、以前受講したワークショップで「漁獲ゲーム」というグループワークに取り組んだことを思い出しました。

漁獲ゲームのルールはとてもシンプルです。

・毎年、各チームが海(漁場)に船を出して漁をする。
・船を出すには費用がかかる。(船を出さなければ費用がかからない)
・捕まえた魚は市場で売ることができる。
・市場での価格は全チームの漁獲量の合計によって決まる。
・漁場の魚の数は自然と回復する。(回復量は魚の数によって決まる)
・各チームは情報交換してよい。(今年漁に出る、出ないなど)
・10年後に利益(売上 - 費用)が最大のチームが勝利する。

ゲームの結果起きたのは「最終的に魚が獲れなくなった」ということです。各チームが自己の利益を最大化しようとした結果、全チームが魚の回復量を上回るペースで漁獲し続け、魚が海域から姿を消してしまったのです。

ゲームではありますが、何とも後味の悪い結果になったのを覚えています。

私のチームも他のチームも、必死に他のチームの出方をうかがい、市場価格が値崩れしそうならば漁を控えるなど、戦略を練っていました。

本当は全チームで協力して「魚を獲りすぎないような漁獲量」を取り決め、ルールを守りながら漁獲を続ければ、永続的に自然資源を享受できます。

詳細な数値は忘れましたが、主催者の方いわく、それまでに実施したワークショップの中で最初から協調した例は「数%」とおっしゃっていました。

過剰な利己心を抑制しながらお金を扱うには...?

あらためて「お金という観念が個人主義のプライムになる」という示唆は、個人だけでなくチームや組織にもあてはまるように思いました。と同時に「自立しながらも過剰な利己心を抑えるためにどうすればよいのだろう?」という問いが浮かんできました。

「お金」は交換を円滑にする意味で非常に有用ですが、一方で人を利己的にするという「副作用」があるということを認識したうえで「お金」の扱い方を再考する必要があるのかもしれません。

経済的な動機から何かを行うことを否定するつもりはありません。ただ、日々の生活をていねいにするために「利己的になりすぎていないだろうか」「お金に動かされていないだろうか?」と自問することは必要なように思いました。「お金に換えることのできないもの」は、たしかに存在します。

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