「必要以上に捕食しない」から多様になる

今日は大石正道さん(理学博士)が書かれた『「生物」のことがまるごと一冊わかる』から「細胞が集まって組織になる - 動物と植物の組織の違い」を読みました。一部を引用してみたいと思います。

自然界では、生物は単独では生活できません。
同じ種類の生物どうしの協力関係や敵対関係に始まり、他の生物との関係(<食う - 食われる>関係や、共生関係、寄生関係など)、さらには、生物を取り巻く多様な地球環境との関係など、さまざまな関係をもっています。このように、生物群集(動物群集や植物群集)およびそれを取り巻く自然環境の環境要因をすべてまとめて生態系(エコシステム)といいます。
毛虫が大繁殖したら殺虫剤を撒けばいいのではないかと考える方が多いでしょう。ところが、その毛虫を食べる益虫まで殺してしまったとしたら、次の年には、もっと毛虫が増えるかもしれないのです。生態学を理解するというのは、私たちが自然に対してどのように接すれば、安定した地球環境を維持できるかを知る手がかりにもなるのです。

昨今「ビジネスエコシステム」という言葉がよく聞かれるようになりました。Wikipediaを参照すると、以下のように書かれています。

本来は生態系を指す英語「ecosystem」を比喩的に用い、主に情報通信産業において、動植物の食物連鎖や物質循環といった生物群の循環系という元の意味から転化して、経済的な依存関係や協調関係、または強者を頂点とする新たな成長分野でのピラミッド型の産業構造といった、新規な産業体系を構成しつつある発展途上の分野での企業間の連携関係全体を表すのに用いられる用語である。

経済環境に存在する企業が、個体として競争しながらも、協調して「群れ」として生き残りを図る。その「群れ」を「ビジネスエコシステム」と称するようになったと理解しています。

ビジネスエコシステムという言葉について、生態学における「エコシステム(生態系)」を参照しながらもう少し考えてみたくなりました。

「毛虫が大繁殖したら殺虫剤を撒けばいいのではないかと考える方が多いでしょう。ところが、その毛虫を食べる益虫まで殺してしまったとしたら、次の年には、もっと毛虫が増えるかもしれないのです」という言葉に正直ハッとしました。

<食う - 食われる>関係などでつながっているからこそ、ある種の個体数が急に増えたり減ったりしてしまうと、その影響が増幅・抑制されながら、他の種の個体数にも影響を及ぼします。特に<食う - 食われる>という関係において捕食者(食べる側)は必要以上の殺生はしません。

一般に、生物の個体数は「自然環境」の変化によって増減します。その環境変化は受け入れざるをえず、進化・適応することで生き延びようとします。そして、生き延びた生物同士の間で新たなつながり、生態系が生まれます。

一方、人間の経済環境は法律や慣習などで「人為的に作られたもの」です。人間が自らつくり変えることのできるものです。

ある企業が「自らが有利になるように働きかける」というのは、短期的に見て「競争に勝つ」という意味では得をするのかもしれません。一方、やがて独占状態が生まれてしまうならば、排除されてしまった企業同士、その中にいる人同士のつながりが失われ、生態系としての多様性が失われてしまう。

「必要以上に捕食しない」という思想が経済活動に組み込まれてはじめて、「ビジネスエコシステム」という言葉は生態系におけるエコシステムに肉薄していくのではないだろうか。

そのようなことを思いました。

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