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数字に引きずられていないだろうか?

今日はダニエル・カーネマン(心理学者、行動経済学者)による書籍『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』より「調整プロセスとしてのアンカリング」という一節を読みました。一部を引用してみたいと思います。

この現象は、「アンカリング効果(anchoring effect)」または「係留効果」という。ある未知の数値を見積もる前に何らかの特定の数値を示されると、この効果が起きる。これは、実験心理学の分野ではきわめて信頼度と頑健性の高い結果で、あなたの見積もりはその特定の数値の近くにとどまったまま、どうしても離れることができない。これが、アンカー(錨)と名付けられた所以である。
住宅を買うときも、最初の提示価格に影響される。同じ住宅でも、提示価格が低いときより高いときのほうが、立派な家に見えてしまう。相手の言い値には惑わされないぞ、と心に決めていても無駄だ。
またニック・エプリーとトーマス・ギロビッチは、調整が意識的な試みであることを示す証拠を発見した。彼らの実験では、アンカーとなる数字を聞いたときに、あたかも拒否するように首を振ることを支持された被験者は、アンカーから離れた数字を見積もった。逆に肯定するように頷くことを指示された被験者は、強いアンカリング効果を示した。
エプリーとギロビッチは、調整が努力を要する作業であることも発見している。数字を覚えていなければならないなど記憶に負荷がかかっているとか、少々アルコールが入っているなど認知資源が消耗しているときには、調整幅が小さくなる(すなわち、アンカーに近いままになる)。不十分な調整は、怠け者のシステム2が働かなかったことを意味する。

最近読んでいた『医療現場の行動経済学』の中で取り上げられていた書籍がこの『ファスト&スロー』でした。行動経済学の背景にある心理学の理論が豊富に取り上げられています。

アンカリング効果とは「何かを予測や評価をしようとするとき、事前に提示されたり、見聞きして知っている数字に予測や評価の結果が引きずられる(アンカリングされる)こと」です。

住宅の例を引用しましたが、住宅の品質は必ずしも売値とは関係ないはず(高いのに品質が悪い、あるいは安くても品質がよい場合もあるはず)ですが、提示価格が高いと「品質も良いはずだ」と思い込んでしまうのです。

カーネマンが心理学的実験を行い、その結果をサイエンス誌で発表したことで認知度が高まったようですが、実際にはそれ以前からアンカリング効果の存在が示されていたと述べられています。

数字に引きずられるとは、「その数字から離れようとしても離れられない」ことを意味します。本当の数字(や評価)が乖離している場合は、その数字から離れなければなりません。

その数字から離れようとする意思・行動をカーネマンは「調整プロセス」と呼んでおり、本当の数字が分からない、不確実である場合は、離れることの不安から「十分な調整がきかない」としています。

高級や贅沢は謳うのではなく「自然と香る」もの

ふと「高級とは何だろう?」「贅沢とは何だろう?」という問いが浮かんできました。

たとえば、プロの音楽家によるクラシックコンサートを例に考えてみると、大きなコンサートホールで開催するもあれば、小さなイベントスペースなどで開催されるケースもあります。時間も料金も本当に様々です。

思うのは、時間や料金に関係なく「素敵な演奏だったな」「あの曲の、あのフレーズが印象的だったな」など感じられたのであれば、どのような演奏も「私にとっては」最高の贅沢だということです。

そして「高級や贅沢は価格の高さによらない」と思うと同時に、言葉や数字で謳うものではなく「自然と香る」もの、という気がします。

数字に引きずられないように、数字を鵜呑みにしないために、最低限の知識をつけること。事実に基づいて考えること(FACTFULNESS)。そして自分の感性を磨くこと。

日頃の仕草を再考する

「肯定するように頷くとアンカリング効果が強まり、拒否するように首を振るとアンカリング効果が弱まる」と「認知資源が消耗しているときは数字の調整幅が小さい」という話も興味深かったです。

会話をしているときに比較的頷いてしまう人は、データや価格などの数字について話をするときは頷きをおさえて淡々としていることで、アンカリング効果から逃れやすくなる(客観的に評価しやすくなる)のかもしれません。

仕草と評価とシチュエーション。

この関係性は意識していませんでしたが、日常生活の中に深く根を張っていそうです。

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