【Book Review:1】「弱いけど強い」という雑草の逆説。”雑”という言葉の奥行きを知る。
1. はじめに
目に留めて下さりありがとうございます。
突然ですが、皆さんは本を読まれますか?
本を読んでいる時は、集中して、その本の世界に没入されておられるのでしょうか?
私の場合、なんと言えばよいのか、本を読んでいる時は集中しているようで集中していない、集中していないようで集中しているような、意識がフローしている感覚です。
意識が本と自分の間にあるような、そんな感覚。
そんな感覚でいると、ふと「あれ、この話って全く関係ないように見える●●と関係性があるのでは?」と思ったり、頭の中では全く関係ない映像が思い浮かんだりすることがあります。
いつしか、私がある本と出会って感じたこと、自分の思い込みが壊れた瞬間など、について綴ってみたいと思うようになりました。
時に脱線しつつ、徒然なるままに。
お付き合い頂けたら幸いです。
2. 今回取り上げる本
【雑草はなぜそこに生えているのか - 弱さからの戦略 -(著:稲垣栄洋)】
<目次>
・雑草とは何か?
・雑草は強くない
・撒いても芽が出ない(雑草の発芽戦略)
・雑草は変化する(雑草の変異)
・雑草の花の秘密(雑草の生殖生理)
・タネの旅立ち(雑草の繁殖戦略)
・雑草を防除する方法
・理想的な雑草?
・本当の雑草魂
目次に目を通してみて、何か思い浮かんできましたか?
目次から本の内容を想像してみたり、思い浮かんできた何かについてほんの少しだけでも自分の時間と心を配ってみるのも、本の楽しみ方の1つだと思っています。
3. なぜこの本を手に取ったのか?
道端に生えている雑草。
私も含め、多くの人が普段気に留めることのない存在だろうと思います。
雑草にも様々な種類、名前があり、個性がある。
にもかかわらず「雑」と一括りにされてしまった雑草という存在。
時に厄介者扱いされて、根こそぎ刈り取られてしまう。
1本1本は弱い存在かもしれないけれど、気付いた時にはしたたかに再生している。
「弱いけど強い」
この逆説的な雑草の存在に心惹かれたのです。
4. 感じたこと
①「雑」という言葉って?(思い込み:雑=ネガティブなもの?)
『雑草は「雑」な「草」と書く。それでは、雑とは、どのような意味があるだろうか?一旦、本を閉じて、「雑」とつく言葉を思いつくだけ、挙げてみることにしよう。』
このようなフレーズで始まる第1章。
皆さんはどのような言葉を思い浮かべましたか?
私も考えてみました。雑菌、雑念、雑然、粗雑、雑味などなど。
どことなく嫌な感じ、というか粘っこい印象が付きまとう言葉が並びます。
その中で気になった言葉があります。それは「雑味」です。
「雑味」という言葉は不思議なものです。
えぐみ、苦味、渋み、などなど...。
「味がぼやけるので、雑味は取り除いたほうがいい。」と余計なものと捉えられることもある一方で、「このちょっとした雑味が、味の奥行きや広がりにつながる」と欠かせないものに感じることもあります。
「味の奥行き」=「味の複雑さ」=「複数」の「雑味」
無数の要素が絡み合っていて、言葉で全てを語り尽くせない豊かな世界。
実際に広辞苑を引いてみると、「①種々のものの入りまじること。主要でないこと。②あらくて念入りでないこと。」とあります。
「雑」と聞くと衝動的にネガティブな印象を抱いてしまうのですが、これはどちらかというと②に当てはまりますね。
ふと立ち止まって具体例を掘り下げてみると、印象の枠を抜け出して、言葉が持つ他の意味や奥深さに触れることが出来るのだなと感じました。
②弱いけど強い:雑草中の雑草になるは大変だ
「弱いけど強い」という雑草の逆説。
その逆説を説明するために、この本では、イギリスの生態学者であるジョン・フィリップ・グライム氏が提唱した「CSR三角形理論」という理論が紹介されていますので、少々引用したいと思います。
植物の強さは、①Competitiveness(競合型:競争に対する強さ)、②Stress Tolerance(ストレス耐性型:ジッと耐える強さ)、③Ruderal(撹乱依存型:臨機応変に変化を乗り越える強さ)の3つで構成されているとする理論で、雑草は特に③の「臨機応変に変化を乗り越える強さ」が強いとされています。
それでは、臨機応変に変化を乗り越える強さとは具体的に何なのでしょう?
雑草になることができる性質を「雑草性」というのですが(全ての草が雑草になれるわけではない...厳しい世界なんですね)、雑草学者のベーカー氏が提唱した理想的な雑草の条件が紹介されていますので、引用してみます。
<理想的な雑草の12の条件>
1. 種子に休眠性を持ち、発芽に必要な環境要求が多要因で複雑である
2. 発芽が不斉一で、埋土種子の寿命が長い
3. 栄養成長が早く、速やかに開花に到ることが出来る
4. 生育可能な限り、長期にわたって種子生産する
5. 自家和合性であるが、絶対的な自殖性やアポミクティックではない
6. 他家受粉の場合、風媒かあるいは虫媒であっても昆虫を特定しない
7. 好適環境下においては種子を多産する
8. 不良環境下でも幾らかの種子を生産することができる
9. 近距離、遠距離への巧妙な種子散布機構をもつ
10. 多年生である場合、切断された栄養器官からの強勢な繁殖力と再生力を持つ
11. 多年生である場合、人間の撹乱より深い土中に休眠芽をもつ
12. 種間競争を有利にするための特有の仕組みをもつ
その数、じつに12個。
意味がパッと分からない単語もあるかもしれませんが、それでも「弱いけど強い」という逆説の根源を垣間見た気がしませんか?
一言で表すとすれば「種を残すために何でもする」ということでしょうか。
とにかく種子を作る、撒く、隙あらば素早く芽を出す。
もしこれら12個の条件を全て満たす「雑草の中の雑草」が存在するとしたら、いつか人間の心が折れてしまうのでは、という気すらします。
私が特に惹かれるのは「休眠性」という性質。
来たる時が来るまですぐには芽を出さない、ということ。
人間社会の文脈で考えてみると、昨今は「それって何の意味あるの?どんな結果につながるの?」と実用性や即効性を求められることが多いように思うのです。
だからこそ「今すぐ何の役に立つかは分からないけど、何だか無性に心惹かれるんだ。」というものを大切にしたい。
いつか来たる時が訪れた時に芽吹くかもしれないと思いながら。
みなさんも、日々の生活に雑草の知恵をどれか1つでも取り入れてみるというのはいかがでしょう?
③まずは観察してみるということ。踏まれたら立ち上がらないのが本当の雑草魂(思い込み:雑草は踏まれたら立ち上がる)
『「雑草は踏まれても踏まれても□」と言われる。この四角い空欄には何が入るだろうか。』
もちろん「立ち上がる」が入るものと思っていました。
文章は次のように続き、その思い込みは見事に打ち砕かれるのです。
『雑草を観察していると、雑草は踏まれても立ち上がるというのは、正しくないことが分かる。雑草は、踏まれたら立ち上がらない。よく踏まれているところに生えている雑草を見ると、踏まれてもダメージが小さいように、みんな地面に横たわるようにして生えている。「踏まれたら、立ち上がらない」というのが、本当の雑草魂なのだ。』
なんということでしょうか。
踏まれたら立ち上がらないのが本当の雑草魂。
普段何気なく信じていることは、案外裏付けがないもありますよね。
注意深く観察してみると、「じつは全然違った...」なんていうことも。
「じっくり観察してみる」を日頃の生活に取り入れみると、違う世界が見えてくるのかもしれません。
5. お礼、次回取り上げる本(日本語はなぜ美しいのか)
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
今回は「雑」という言葉について思うことを綴りました。
雑という言葉に「何となくネガティブな印象を持ってしまうのはなぜだろう?」と考えてみると「発音に関係しているのではないか?」ということに気がつきました。
「ざ」と「つ」。
「Z」の音は、発音した瞬間に何だか心に引っ掛かりを残してゆく音だと感じませんか?
ザラザラ、ザワザワ、ジワジワ、ズルズル、ゼーゼーする、ゾッとする...。
このことについては「日本語はなぜ美しいのか」(著:黒川伊保子)という本の中で「発音体感」という文脈で触れられています。
「音が自分と世界を接続する」
次回はこの本を読んで感じたことを綴りたいと思います。
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