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人は初めて生で見た三冠馬を親と認識する習性がある ―僕にとってコントレイルとは何だったのか―

 TwitterのあるFFさんが(おそらく冗談として)こんなことを呟いていた。

人は初めて生で見た三冠馬を親と認識する習性がある

 この呟きを見た時、「僕がコントレイルのどこに惹かれてファンなったのか」という事に対して言い得ているなと思った。なるほど、と。
まぁ、コントレイルを好きになったワケはいくつかある。

・ひとつ目、生で見た無敗の三冠馬だから
・ふたつ目、ブラッドスポーツとしての競馬の奥深さをコントレイルから感じたから
・みっつ目、名前の由来が飛行機雲/Contrailとめっちゃかっこいいから
ざっとこんなところ。(みっつ目はともかくとして)

 まずひとつ目。
 僕はコントレイル以前の歴代三冠馬の現役時代を知らない。シービーやルドルフ、ブライアンなら「そもそも生まれていないぜ!」という言い訳をつけれるのだが、ディープインパクト・オルフェーヴルら僕が生まれた後の三冠馬すら現役を知らない。
 だからこそ、僕が競馬に本格的にのめり込み始めた時、コントレイルという三冠馬が現役だったという事実は(彼のファンになるには)充分過ぎたといえる。

次にふたつ目。
 競馬というブラッド・スポーツの奥深さに触れたこともひとつ大きなきっかけになった。競馬をよく見るようになったのは今年に入ってからだったのだが、ちょうど『ウマ娘』のアニメ2期が放映されていて、アプリ配信を控えた時期でもあった。アニメの2期ではトウカイテイオーが主人公を務めていたが、史実ではご存じの通り、ルドルフの仔として「父子二代での無敗の三冠」を期待されたものの、骨折によりその夢を諦めざるを得なかったという背景を持つ。
そうした物語を知ったため、同じようにディープとコントレイルもまたルドルフとテイオーがなし得なかった夢を繋いだ――そう思った時、彼の魅力に強く惹かれたのだ。

では次に一介の新参競馬ファンである僕にとって、「コントレイルという馬はどんな存在だったのか」について考えてみた時、このインタビューにあるなと思った。

-今日にかける思いは
今年に入ってから勝つことができてなかったので、3冠馬の名誉を守りたいという気持ちは強くありましたし、秋初戦の天皇賞も素晴らしい状態だったけど、勝つことができなかったので、今日こそは何としてもという思いでいました。
-コントレイルにひと言
素晴らしい時間をあの馬に与えていただきました。ホースマンとして、これ以上ないという経験を積ませていただきました。(中略)もうこんな馬には出会えないんじゃないかって思います。この馬は本当に強いんです。僕が本当に…、もっとみんなに知ってほしかったです。本当に強いってことを。無敗の3冠てすごいんですけど…、この馬、何がすごいって、3000メートル走れる馬じゃないんですよ。今までの3冠馬と違って。本当にもう、調教次第では1200メートルでも走れるんじゃないかっていう馬にできるくらいの馬なんですけど、去年3冠を達成して、さらに3冠馬対決っていう舞台にね…、あの馬は本当によく頑張ってくれたと思います。(後略)

競馬ニュース速報
【ジャパンC】コントレイル福永「もうこんな馬には出会えない」一問一答 JRA-VAN』より

 これは福永騎手が2021年のジャパンカップ勝利後の場内向けインタビューを書き起こし文だ。
 彼を最も近くで見続けた人物が語ったこの言葉に、その全てが詰まっていると思う。


 三冠を達成してこの1年間、福永騎手やコントレイルが長く、苦しいトンネルを通り続けたのは想像に難くない。特に、今年の初戦になった大阪杯で3着になったあたりから、各種掲示板を覗けば罵詈雑言の嵐に晒されはじめ、「最弱三冠馬」だの、「相手が弱かったから三冠になれた」だの、「三冠の価値を下げるな」だの言われ続けてきた。そこから生まれ、陣営に降りかかった鬱屈、重責、苦難の大きさは外部の他人には到底計り知れないものであったと察せられる。
 だが、辛かったのは彼らだけではない。コントレイルファンの僕もそう。特に悪意に溢れたネガティヴな評価を目の当たりにした時、地を這うかの如く苦しみがそこにあった。特に唯一連対すら外した大阪杯の時は、ちょうど現地でその姿を見ていたから、11R後に気持ちが沈みに沈みきってベンチの上で項垂れ切っていたことを今でもよく覚えている。それと同時に「コントレイルはそんな馬じゃない!」とそう思う気持ちがどんどん強くなった。

 それがようやく、このジャパンカップという大舞台で晴らされたのだ。レースはテレビで観戦していたが、最後の直線で「コントレイル!コントレイル!!コントレイル!!」、「差せ!差せ!差せッ!!!」と絶叫してたし、最後オーソリティーを交わして先頭に立ったタイミングでは、まだゴールしていないのに「よっしゃぁあー!!」と喜びを爆発させた。

 その刹那。コントレイルや福永J、矢作先生ら陣営が「あぁ、ようやく報われたんだな」と思えてこみあげてくるものがあり、思わず泣いた。

 生涯戦績11戦8勝、 [8-2-1-0]。うちGⅠ5勝。
 僕はファンだから当然擁護するし、贔屓目でも見るけど、この馬は本当に強いと思う。2年弱のキャリアで、ここまで安定した成績を残せているのは間違いなくほかの馬よりひとつもふたつも抜けているその確かな証左であろう。それに2歳GⅠを取り、3歳GⅠをとり、そしてディープ産駒ダービー馬の呪縛を解き放って古馬でもGⅠを獲った。
 引退レースでは過去最高の仕上がり、今までのキャリアの中でもっと充足していたとさえ一部関係者では言われている。そういう意味で底を見せなかったという風にも捉えることが出来よう。

これからコントレイルの物語は仔たちに引き継がれていく。どんな未来を見せてくれるのか楽しみでたまらないし、一口クラブでコントレイル産駒が募集されたらぜひ出資してみたいと思う。

そして30年後ぐらいになったら、新参競馬ファンに
「ふぉっふぉっふぉっ…ワシが若いころにじゃな、コントレイルという無敗の三冠馬がおってのう…ワシに夢を見せてくれた馬なんじゃ」
なんてクソ爺風に話せるようになりたい。


この馬は本当に強いんです。僕が本当に…、もっとみんなに知ってほしかったです。本当に強いってことを」
と語った福永Jのこの言葉をきっと歴史が、未来が証明してくれるとそう信じていきたい。

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