見出し画像

『名も無き酒の物語』

東京都新宿区の歌舞伎町、そのど真ん中に、
「樽一(たるいち)」という居酒屋さんがあります。
私も、一昨年大阪に越してくるまでは、20年以上通っていました。

居酒屋とはいっても、そのレベルは最高峰。
「鯨くじら料理と三陸の幸を供させたら、右に出る店はない」
と、私自身感じていた素晴らしいお店です。

だいぶ前に先代のオーナーが亡くなり、
今は息子で2代目の “慎ちゃん” がお店を受け継いでいます。

このお店、いろんな意味で
“桁違い” の驚愕エピソードを連発するお店なんですが、
やはり、このエピソードが最も端的にすごさを表していると思うので、
まずは、それをお話しします。

2011年3月11日。

とても不幸な天災が、日本を襲いました。
悲しく、辛い、二度と起こってほしくない出来事です。

そこで、この樽一でのお話です。

同店は、宮城県は塩竈 (しおがま) 市の銘酒、浦霞 (うらがすみ)
というお酒を、ずっと扱ってきています。
先代の時代から、あまりにも浦霞を売るので、
浦霞の酒蔵、株式会社佐浦の社長が、このお店だけのために、
“浦霞金ラベル” というオリジナルを開発してくれたというくらい
浦霞をたくさん売る店です。

ちなみに、この金ラベルは日本中でこのお店でしか呑めないお酒。
私もこのお店を訪れた際は、確実に呑んでいます。

さて、震災に関連したお話です。

塩竈は海のそばの街です。
しかし、あれだけの地震と大津波があったにもかかわらず、当日、
浦霞の生産ラインはかろうじて守られました。
タンクに傾きが出るなどのダメージは受けたものの、
壊滅的な事態には至らず、ホッと胸をなで下ろしたそうです。

「しかしです!」......
考えられない事態が、倉庫の中で起こっていたんです。

佐浦では、ボトリングをしたお酒を、
色違いのケースに入れて保存しています。

この時点ではラベルが貼られていませんでした。
つまり、全部が同じ瓶に入った、全く“顔のない酒” = “ノーラベル”
なわけです。

つまり、お酒の中身、等級とかタイプが一切分からない状態で、
例えば、
“黄色のケースには金ラベル” “青のケースに入っているのは大吟醸”
......みたいな感じで保管されているわけです。

そこからラベルを貼られて初めて、
これは“大吟醸” 、これは “純米吟醸” などと類別され、
それぞれ顔を持って出庫されていくわけです。

さて大地震が起こった後、社長が倉庫を点検に行くと......、
ケースがすべてひっくり返り、
中身のボトルがケースから転がり出ていました。
つまり、見た目はまったく同じ “ラベルなしのボトル” が、
全部交じって床に散乱している状態です。

もちろん、ボトルの外からは中身の違いは分かりません。
開けて呑んでみるしかない。
ですが、それをやったのでは商品として成立しない。
社長は呆然。心底、途方に暮れました。

「う......売れない......」

声も出ないほどのショックでした。

そこへ、たまたま、樽一の慎ちゃんから、
佐浦を心配する電話が入りました。
呆然とする社長に、慎ちゃんは「無事ですか?」と声を掛けました。

社長と慎ちゃんは先代の時代からの旧知の仲です。
社長は正直に、倉庫の惨状を伝えました。

一瞬の間の後、慎ちゃんはこう口にしました。

「社長、そのボトル、うちが全部買い取るよ!
そして “浦霞ノーラベル”という名前でお客さんに飲んでもらおうよ!
飲んでみないと等級が分からないっていうのも、
ゲームっぽくていいじゃん。
うちのお客さんは大人ばかりだから、絶対に理解してくれる。
で、ボトル1本につき、500円の義援金も頂くことにしよう!」

即決でした。

慎ちゃんは、
「一体、ボトルが何本あるのか?」
とは一切質問をしなかったそうです。

また、総額幾らの資金が必要なのか、一切考えませんでした。

それよりも「浦霞を救いたい!この北の銘酒を応援したい!」
その一心だったそうです。

数日後、その “名もなきボトルたち” は出庫され、
新宿の樽一で「浦霞ノーラベルを飲んで、東北を支援しよう!」
というテーマで、次々と開封されていきました。

お店はとても盛り上がりました。
常連さんの中にマスコミ関係の方がいて、取材も入ったそうです。

それから3カ月。
名もなき酒は完売しました。
実に2000本以上が、この樽一というお店だけで飲まれたんです。
義援金も相当な金額になり、慎ちゃんは塩竈までそれを届けに行きました。お店には満面の笑みの慎ちゃんの様子が写真で残されています。

ビジネスをやっていると、損得勘定はどうしてもつきまとうものです。
これは拭えない。
でも、真のビジネスはその損得勘定を拭ったときにこそ、
初めて生まれるのでは無いか?と思うんです。
さて、あなたにはそれができるでしょうか?
心で、GIVEと言うから唱えてみても、「人のために」と口に出しても、
こうした究極の一瞬にどう動くか?
そこが全ての分かれ目だと思うんですよ。

『起業・コピーライティング・副業など何でも無料相談』遠慮無くどうぞ!笑顔でお答えします。
https://17auto.biz/makotonakayama/registp.php?sno=231


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?