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雪積もりのドレスの解説(雪とロココな18世紀~の服の本の紹介)

寒波で寒くて雪に覆われて大変な思いをされている方もいらっしゃると思われる今日この頃、私は九州住まいということもあり降っても積もることはあまりない雪景色に憧れのようなものがあります。

先日SNSで公開した雪積もりのドレスの解説と制作の際に参考にした書籍の紹介をしていきたいと思います。(後者の方がメインです。)

雪積もりのドレス

雪積もりのドレスとはどんなドレス?

こちらがその雪積もりのドレスです。
パーツは下記のウールフェルト製の雪の結晶ブロックを675枚組み合わせて作成されています。

身体に降り積もり、崩れ落ちる雪の様子をイメージしたドレスです。
身体に雪が積もっていくとしたら立体的な部分がより立体になり、くびれている部分や動きのあるところには張り付きはしますが積もっていくことがないためメリハリのあるシルエットになります。
モチーフにしたのはローブ・ア・ラ・フランセーズなどの18世紀ロココのドレスや後のバッスルスタイル。
コルセットで体にメリハリをつけ、パニエで積層して盛り上がったようなボリュームを作り出した造形的なドレスと雪の作り出す自然さを掛け合わせた印象となるように作成しました。
肩や胸の傾斜に沿って雪が積もり肩先から崩れ落ち、動きの無い腰回りは雪が層を成し、歩みでそれより下は崩れ膝に落ちた雪が溜まった。そんな情景です。

このドレスは特に衣装の依頼があったというわけでもなく、コンテスト用に作ったというわけでもなく、ただただ衝動的に作りたくなって作りました(笑)
各ブロックでドレスを1つは作らないと気が収まらない性分ですが製作費もばかにならないのでずっと我慢していました。(ちなみにこれの原価はそこそこなジャケットが買えるくらいです。)
我慢の限界だったので一度作ってすっきりしようと思い切りました。
半分勢いで作ったということもあり、デザイン画は描かず大まかなイメージだけ思い描き、あとは組み合わせながら詳細を詰めていきました。


ローブ・ア・ラ・フランセーズとバッスルドレスの説明

上記にてローブ・ア・ラ・フランセーズとバッスルドレスを参考にしたと記載しましたが、正確にはローブ・ア・ラ・フランセーズ~バッスルスタイルの流れの中で生まれた概念を参考にしました。
そのため、具体的にローブ・ア・ラ・フランセーズやバッスルスタイルを目指して作ったというわけではなくエッセンスとして取り入れた程度です。
(なので「こんなのローブ・ア・ラ・フランセーズじゃありませんことよ!」とベルサイユ仕込みの方怒らないでください……。)

その2つが分からない方のために簡単に説明いたします。

ローブ・ア・ラ・フランセーズ

ゴティエ=ダゴティ画 マリーアントワネットの肖像

特徴としては何といっても、コルセットで細く締めあげたウエストに、布を重ねたパニエで下半身に大きなボリュームを出したスタイルです。
時代は18世紀に流行り、マリーアントワネットなベルサイユの宮廷文化が絶頂を迎えた時代のものです。
苦しいし重いしで正にオシャレは我慢の際骨頂で大喜利合戦のようなファッションバトルが宮廷で繰り広げられていました。
頭に船を乗せたりしたトンデモファッションを一度は目にしたことがあると思います。

細かい部分では胸の逆三角形の部分ですが、あそこは「ストマッカー」といい、取り外し式になっており着脱のたびに止めつけられていました。

これからローブ・ア・ポロネーズやローブ・ア・ラングレースといったものに派生していきます。

バッスルスタイル

ジョルジュ・スーラ 「グランド・ジャット島の日曜日の午後」 (1884-1886)

フランス革命後、市民が力を得たブルジョワジーの19世紀の時代に流行したスタイルです。
極端にウエストを絞るようなことはなくなりましたがまだ女性のファッションにコルセットは欠かせません。
そんな時代に画期的なものが開発されました。それが「クリノリン」です。

女性は守られるべきもので自らの足で外出なんてしないから重いパニエを身に着けたドレスを着ていても何も問題はありませんでした。
ですが時代が変わり、市民の時代に移り変わってパニエの代わりに誕生したのがクリノリンです。布でボリュームを出すのではなく、円錐型の骨組みの下着を身に着けることで少ない布で形作ることが出来るようになりました。

ただ、このクリノリンが軽いものだからどんどん裾幅広げ合戦が始まり、風刺のネタにされるほど生活に支障をきたすほどの裾幅になっていきました。
そして、「邪魔じゃね?」と気が付き始め徐々に裾幅が狭まってきた中誕生したのが「バッスル」です。

バッスルの形は提灯の骨組みをイメージしてもらえると分かりやすいと思います。
仕組みはクリノリンに似た骨組みなのですが、特徴はその骨組みはスカート全体なのではなく後ろ側のみに巨大な細長い提灯を取り付けるようにして身に着けます。

後だけなので動きやすく比較的邪魔にもなりません。
また、パニエとの大きな違いがもう一つあり、上記のスーラの絵とマリーアントワネットの肖像画を比較すると分かります。
まずマリーアントワネット、あれは座ってます。
そう、パニエのボリュームが凄すぎて座っていても座れないんです。中腰程度です。
スーラの絵を見ると、しっかりと腰を下ろしています。そのスカートのボリュームなんだか見覚えがある方もいると思います。
提灯が閉じたときと同じような形です。提灯と同じように横の骨は固いのですが縦は吊り下げている程度で折りたたむことが出来るんです。
それが革命的でした。

1700s-1750sのコレクション|KCI デジタル・アーカイブス
こちらのサイトが年代ごとに写真と解説が掲載されておりわかりやすいので、もっと知りたいという方はご覧ください。


ディティールの説明

では改めて雪積もりのドレスに戻ります。

着脱方法

このドレスを着脱する方法ですが、肩甲骨の間に空きがあり後襟の部分で固定されていますのでここを外します。

胸の部分は分かりづらいかもしれませんがストマッカーのように一部独立しているため、パーツが組み合わさっていない部分は胸の逆三角形がウエストくらいまで伸びていてパーツ同士が重なることで肌が見えないようになっているだけなので、襟の組み合わせを解けばすれば胸周りは解放されます。
同じようにヒップ部分も側面の前側で同じようにパーツを重ねている部分があるので動きにゆとりがあります。
あとはウエストだけなので、どこでもいいのですがやりやすいのは前中心付近のパーツを縦に5パーツほど解いていけばウエストが開放されて着脱できるようになります。

立体的なヒップ

分かりづらいですが立体的なヒップは3層になっています。
1層目は下まで続くベースのスカート。
2層目はボリュームを出すための下地。
3層目が縦に連なる装飾。

このボリュームの出し方はバッスルスタイルを参考にしました。
ヒップ周りにはいろいろと細かいテクニックを使っているのですが説明が難しいため割愛しますが、いろいろと工夫してこの丸みが出来ています。

裾周りの装飾

前裾のアップの写真ですが、前裾は表側に折り上げて裾の端のパーツをスカートの途中で止めつけることで丸みのあるボリュームを出しています。

後側は後の側面の裾側にだけ部分的にプリーツを折る(正確には折り目が出来るような組み合わせ方)ことで少しだけ後ろ裾が跳ねた流れが出来ます。
そうすることでヒップから上の抑揚のあるラインとバランスの取れたマーメイドラインのような流れになっています。

また、後ろスカートが少し単調すぎた印象があったので、部分的にパーツを抜くことで他の部分とは違った雪模様のようなアクセントが加わります。
ドレスのような大きいアイテムでのみ可能な雪の結晶ブロックの使い方です。(バッグでもできますが実用的に……。)

パーツの流れ

パーツは基本的に下側に突起が出るように組み合わせています。
これは下向きの流れを作ることで雪が降っているような動きのあるしっとりとした印象を作り出すことが出来ます。

上向きだった場合はどんどんと雪が積み重なっていっているような激しい印象になると思われます。

なので部分的に身体的に盛り上がっているウエスト付近や肩回りだけは積み重なる印象をつけるために上向きに組み合わせています。

横向きであれば横殴りの風が吹いている暴風雪のような印象を作ることもできるので、パーツの突起の出し方というのは全体の印象を作る重要な要素でもあるので、初めの段階である程度方針を決めて、ある程度出来上がったところでイメージ通りか確認をして、違えば出し方の調整を行います。

ドレスの紹介は以上となります。


参考にした書籍の紹介

今回参考にした書籍は大きく分けて2種類です。
ドレスの参考の書籍雪の参考の書籍です。

ドレスの参考の書籍

ファッション史関連

まずはファッションの歴史を勉強できる本を紹介します。

こちらの「世界服飾史」は母校のファッション史の授業の教科書として使われていたものです。
範囲は古代メソポタミア文明~現代までの人類がたどってきたファッション史を学べて、現代にあるファッションのルーツのルーツのルーツを知ることが出来るためとても勉強になります。
説明が中心で、写真やイラストも多く視覚的に理解もしやすく厚みもあまりないのでファッション史の1冊目としてお勧めです。
中古でとても安いのもポイントです。

次にこの2冊です。
どちらも同じ出版社で同じ名前ですが、サイズが大きく違います。

1つ目の方が世界服飾史と同じぐらいの読みやすいサイズで、2つ目は4倍近くのページ数でA4弱くらいの大きさで準鈍器級です。

こちらは写真メインで、今回テーマの18世紀から現代までの服が取り上げられています。
資料として使い勝手がよく、読む頻度の高い本です。
説明もわかりやすいため現代ファッションに至るまでの流れを知りたい方にはお勧めです。

どうせこの本を買うのであれば2つ目をお勧めしますが、軽く知ることが出来れば十分という程度であれば1つ目で良いかもしれません。
2つ目の方が情報量も資料数も多く使えます。(ただ値段もその分お高いです)
絶版本なようで値段が上がっていますが探せばもっと安く手に入ると思います。
他にも良い新しい本が出ているかもしれません。

次に2009年に京都近代美術館と東京現代美術館で行われた「ラグジュアリー ファッションの欲望」展の図録です。
ラグジュアリーな値段が表示されていますが安心してください。中古は安いです。

「ラグジュアリー」にフォーカスしたファッションの移ろいをテーマとした展覧会で中心は現代のファッションですが、一部18世紀の服も紹介されています。
写真が中心で説明はあまりなく、資料としてはいまいちかもしれませんがディティールの紹介や他の書籍ではあまり見ないようなものも掲載されているため興味があれば良いかもしれません。
価値観の違いを並べて見ることが出来て面白いです。

20世紀以降のここ120年の現代の服だけで良いという方は他にもおすすめがありますがまたの機会に紹介します。
もし、早めに知りたいという方は気軽にDM等ください。

18~19世紀の服の本

上の広い歴史ではなくピンポイントな時代のファッションの本です。

1989年に京都近代美術館にて行われた「華麗な革命 ロココと新古典の衣装展」の図録の本です。

古い本ですが読みやすく、男女の装いがいくつも大きく掲載されており、解説も丁寧なのでタイトルの通り1715-1815年のロココと新古典主義の衣装を知りたいという方にはちょうどいい本かと思います。
ポイントなのは「ローブ・ア・ラ・フランセーズ」「ローブ・ア・ラングレース」「エンパイア・スタイル・ドレス」の簡単なパターンが掲載されているところです。
本格的に作りたい方は他の本をお勧めしますが、どういった構成で作られているか知りたい方にはちょうどいいかと思います。

タイトルの通り19世紀のファッションのディティールが写真とイラストと文章でわかりやすく紹介されており、この本はとてもお勧めですが残念なポイントとして洋書です。

ですが、英語は読めなくても写真とイラストだけでも十分な価値があります。
スモッキングや刺繍、仕立てのテクニックなどこの時代のファッションに興味の無い方でも参考になる1冊です。

どちらかというと、ディティールの紹介の本なのでこの時代のファッションがどんなものか知っている前提で読んだ方がいい本ではあります。

他の時代の本もあるため揃えたいと思っているシリーズです。

やはり古い服となると、着物の歴史を知りたかったら日本で調べた方がいいように、西洋のドレスを知りたかったら洋書で調べた方が資料も豊富です。

服の書籍の紹介の最後に「貴婦人のドレスデザイン」です。
この本は大変良書です。

1730~1930年とちょうど今回のテーマの時代です。
この本の特徴は、この時代の服がどういう作りの物なのかをイラストと文字で詳細に書かれています。
服だけでなく、傘やバッグや帽子まで、肩幅や袖丈が何cmで、ボタンはどの程度のサイズの物が使われていたか、裏側の仕組みはどうなっているのかなどなど。
この1冊あれば服飾の知識があればそれっぽいものを作ることが出来ます。

イラストなど描かれる方でも本物志向の方は「ここはこういう仕組みになっているからこういう表現になるはず」という手助けになります。

マイナスポイントとしては、読みづらいことです。
買ったばかりのころは失敗したと思いました。
絵のタッチ若干粗く、説明を詰め込んでいるため少し読みづらいのですが、そんな読みづらさを度外視できるほど充実しています。(リンク先の商品画像を見ていただけると分かりやすいと思います。)

大変おすすめな本ですが2冊目としておすすめします。
写真ではないので具体的なイメージが持ちづらい可能性があるためです。
この時代の服がだいたいどんなものか知っているという方であれば問題ないかと思います。

これらの本を読んで全体的な構成やディティールを決めていきました。

最後と言いましたが番外編です。
制作よりもあとの最近読んで面白かった漫画です。

マリーアントワネットのお付きのモード大臣としてベルサイユのファッションに革命をもたらしたローズ・ベルタンの生涯を描いた漫画です。

今とは違い「モード商」から流行が発信され、その流行を元に仕立て屋が腕を競い合っていた時代のファッションがどの様なものだったかということや、どのようにしてあの有名な装い達が生まれたのかを知れて、物語としても面白いおすすめの漫画です。

上記で紹介した本たちだけではわからないようなことも知ることが出来ます。

フィクションも多少混ざった漫画ではなく史実だけでそういったものを知りたい方は上の本など良さそうです。(ただし読んでないので分かりません)


イノサンも同じ時代のファッションが細やかに描かれていて定評があります。こちらはまだ読んでないですが時間を見つけて読んでみたいと思っています。


雪の本

冒頭でお伝えした通り九州の人間なのであまり雪に縁がなく、旅行で味わった程度で雪がどのように積もるのかということが身近ではないので本の力を借りました。

雪の結晶の勉強を雪の結晶ブロックを作成する際にしており、そういった本は別の機会に紹介しようかと思っています。
今回紹介するのは雪の積もり方についての本です。

雪と氷が作り出す景色がどのような仕組みで出来ているかを科学的に教えてくれる本です。

「こんなこと起きるの!?」と思えるような不思議な景色の仕組みをわかりやすく教えてくれて薄い本ですがとても読みごたえがあります。

写真だけ見ても面白い本で、雪と氷にまつわる現象を知りたい広い年代の方におすすめできます。

写真家「吉村和敏」さんの東北・北海道の町中の日常の風景の雪景色を写した写真集です。

最後に、私の好きな写真家の一人の「鈴木理策」さんの作品集2冊です。

1冊目は名前の通り「熊野」「雪」「桜」3つのテーマで撮影された写真をまとめられた1冊です。
熊野の美しい山、川、神事の風景、静かで幻想的な雪景色、春の朗らかな日差しを感じる暖かな桜。
鈴木理策さんの作品集の中ではお手頃なのでおすすめです。

2冊目の「White」は雪景色のみの写真集です。(これは値段はこんなものです)
Whiteというタイトルにふさわしい、真っ白な雪山の景色で、雪の白とかすかな空の青、雪が降り積もる木々の茶だけで構成された美しい1冊です。

White | 鈴木理策 | Risaku Suzuki | 鈴木理策 | Risaku Suzuki

こちらのページで作品の一部を見ることが出来ます。
製本も鈴木理策さんの作品集独特な製本で、気に入られてお金に余裕がある方であればお勧めしたい1冊です。

おわり

正直、雪についていろいろ調べましたが具体的に作品に反映されていません!
きっと具体的に参考にしたものはなくとも私の血肉となり自然と反映されていることでしょう……。
「雪は積もったときにこういう風に丸みを帯びるから…」などと思った気もするのですが忘れっぽいので正直作ったときのことをあまり覚えてないんですよね。

作成してから時間が空いていますが、今であればもう少し当時の西洋絵画の衣装表現なども参考にするともう少し良いものが出来上がるのではないかと思いますが、他に作りたいものが渋滞しているのでそれは他に生かしたいと思います。

もし、紹介した本で、「この本についてもっと知りたい!」というのがあればお気軽にDMなどください。
写真も著作権違反はしたくないのでパブリックドメインの絵画以外の掲載は控えていますが個別であれば一部お見せできると思います。

本が好きなのでこのように今後制作の際などに勉強に役立った本の紹介などもしていきたいと思います。

また、使うあてもなく作ったドレスなので、「着たい!」「衣装として使いたい!」という方がいれば大歓迎です。
レンタルでもパーツを組み替えてサイズ調整したり細かいデザインの変更をすることも可能です。
着脱が不安という方でもサポートするサービスも行っています。

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