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土鍋の湯気の先にレアメタル競争

 残暑の厳しさから一転、鍋料理が恋しい季節になった。旬の野菜や魚介、肉を入れて煮る寄鍋をはじめ、具材によってちり鍋、石狩鍋、もつ鍋など。子どもから高齢者まで食べられる、家庭料理の定番である。立ち上る白い湯気までが食欲をそそってくれる。

 卓上コンロに掛ける鍋は、三重県の地場産業「萬古焼(ばんこやき)」が有名だ。わが家の土鍋は、器の表面に花形の彫りを入れ、白土を埋め込んでいる「三島」の萬古だ。萬古焼は耐熱性が魅力で全国シェアの8割を占めている。

 萬古の土鍋は粘土に「ペタライト」を加える。ペタライトを40~50%混ぜると熱膨張率が下がり、直火に強く割れにくい製品になる。ペタライトは日本になく、1959年以来アフリカのジンバブエから輸入している。

 そんな萬古焼の土鍋生産が、去年から危機を迎えているとのニュースが流れた。ペタライトには、電気自動車やスマートフォンなどに使われるリチウムイオン電池の原料、リチウムが含まれている。これまでリチウムの原料石は、含有量6%以上の「スポジュメン」が一般的だった。ペタライトは4%で、採算面から見向きもされなかった。だが、リチウム資源の占有を狙う中国企業が、ジンバブエの鉱山を2022年の春に買収。ペタライト価格が5倍ほどに高騰したうえに、日本向けの輸出がストップされた。年内は過去に購入した在庫で乗り切れるというが。

 戦時中は金属不足を補うため、家庭から鍋や釜の拠出を命じた。レアメタル競争に遅れている今の日本では、国民のささやかな楽しみを奪う「土鍋回収令」を考えている政治家がいるかも。

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