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サーモンピンクのおはなし

チェルシーとミーニーは、細長い急な坂の路地を上り切った一軒長屋の両隣りに住んでいる、生まれた時からのおさななじみです。どっちがどっちの家の子だかわからないようなひんぱんな行き来をして、二人の声が聞こえないな、と思ったときには、決まってどちらかの居間で、クレヨンで仲良く絵を描いて遊んでいるのでした。

チェルシーとミーニーのお気に入りなのがサーモンピンクのクレヨン。冷蔵庫だろうがタンスだろうが消防車だろうが軍艦だろうが、二人の描く絵はどれもこれも、サーモンピンクなのでした。

器用にハサミとノリを使いこなせるようになった二人は、夏場は足踏み式ゴーカートにダンボール製の車体をとりつけ(もちろん、サーモンピンクのクレヨンが塗りたくってあります)、冬場は二人乗りソリに車体を付替えて、ジェットコースターごっこをするのでした。長屋から通りへ続く細く狭く長い路地を、まるでボブスレーのように走り抜ける二人。夏場のゴーカートは車軸がだいぶ錆びていることもあって、スピードはそれほど出ないのですが、雪が積もりそれが凍った冬場の路地は、本物のボブスレーのような速度になるので、通りをすっかり渡ってしまい、反対側の八百屋のオレンジの中に突っ込んだことが三度もありました。自動車が通っていなかったのが、まるで奇跡だ、と横丁の人たちは口々に言い、冬場のジェットコースターはついに禁止されてしまいました。

背丈が伸びて、十分足を踏ん張り、ブレーキをかけられるようになった二人は、再び冬場のジェットコースターを始めました。サーモンピンクの車体が、一日に何度も何度も、小さな細い急な坂道を、行ったり来りするのでした。

やがて別々のハイスクールに通うようになった二人は、それぞれの友達も出来、それぞれの恋人も出来、それぞれの夢や趣味や興味も出来て、別々の時間を過ごすようになり、もう壁を隔てた両隣りを行き来することはなくなりました。

サーモンピンクの車体が通りを走り抜ける光景を、横丁の人々はもう何年も目にしなくなり、チェルシーは、小さなコンピューター会社の技師に。ミーニーは女子野球チームの投手に選ばれ、ついには女子野球リーグにスカウトされて、アメリカ各地を点々と試合巡業するまでになりました。

二人は良い結婚相手に出会うこともなく、それぞれさびしく過ごしましたが、やがてチェルシーの会社は潰れて、実家に戻り、細々と電器製品の修理をして生計を立てるようになりました。ミーニーも、試合中のデッドボールで腕を痛め、正確な投球が出来ない体となってしまいました。

ある冬の午後、何年かぶりでミーニーは実家に帰り、チェルシーはなつかしくて、コーヒーを飲みにミーニーを誘いました。二人の話しは冬のジェットコースター遊びのことになり、きっとまだあのソリが納屋にあるはずだから、見に行こう、ということになりました。重い扉を開けると、埃だらけのサーモンピンクのダンボールの車体が、ソリに取り付けられたまま、棚の上に置いてありました。

チェルシーとミーニーは、サーモンピンクのソリを引きずり出して、長屋の前に置きました。細く狭く急な狭い路地は、ちょうど昨日の雪が凍って、つるつるの状態です。大人二人の体は、ソリに押し込むには窮屈でしたが、でも、チェルシーとミーニーは、体をくっつけ合うようにして車体に乗り込み、思いっきり足を蹴って、坂をまっしぐらにすべり降りました。横丁の人々が、サーモンピンクのボブスレーを目にしたのは、実に二十年ぶりのことでした。

サーモンピンクのソリは、つるつるの坂でスピードがつき過ぎ、とうとう通りを渡って向う側の八百屋のオレンジの山に突っ込んでしまいました。チェルシーとミーニーは、おかしくておかしくて、ずっとオレンジの中に埋もれて笑っていました。

横丁の人々は、どうして自動車が通らなかったのだろう、それは奇跡だ、と口々に言いました。

次の年、二人は近所の教会で結婚式を挙げました。ミーニーのウェディングドレスは、あざやかなサーモンピンクの特注品でした。

それから何年かすると、横丁の人々は、夏も冬もいつでもしょっちゅう、あのサーモンピンクの車体が狭く長く急な路地を行ったり来りするのを見るようになりました。小さい頃のチェルシーとミーニーにそっくりの幼い兄妹が、ジェットコースター遊びをするようになったのです。心配した八百屋のお爺さんは、坂の下に車止めの木の柵を作ってくれました。

降り積もった雪が凍って坂がつるつるになった午後、幼い兄妹のサーモンピンクの車体が行ったり来たりしている間中、父となったチェルシーと母となったミーニーは、壁をぶち抜いて一つにしてしまった居間で、お気に入りのサーモンピンクのクレヨンを使って、じっと二人で絵を描き続けているのでした。暖炉には、サーモンピンクの心地よい炎がいつまでも暖かく輝き続けているのでした。

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以上は、私が火曜の深夜に見た夢です。あんまりにも強く印象に残っていたので、書き残すことにしました。しかしなんでまた、こんな夢を見たのだろう。

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サーモンピンクの夢を見た、と言ったら


A氏は、抑圧された性的欲望の現れです

と答えた


B氏は、オホーツクのおいしいベニトロを食べ過ぎたのです

と答えた


C氏は、幸福だった胎生期への回帰願望です

と答えた


D氏は、人間関係のストレスから逃避したがっているのです

と答えた


E氏は、童話ばっかり読み過ぎて脳が砂糖漬けになっているのです

と答えた


F氏は、神様からの素敵な夢のプレゼントです

と答えた


G氏は、そんな夢なんて、お茶を一杯飲んで忘れておしまいなさい

と答えた


ぼくは、台所に行って、ジャスミンティーの箱をさがし

お茶を立てて

一杯飲んだけど

やっぱり

忘れられなかった

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