見出し画像

ムーンライダーズのイチオシの1枚『青空百景』の思い出

ムーンライダーズのアルバムで一番好きなアルバムを挙げよと言われれば
『青空百景』であると即答出来る。
それくらいこのアルバムが大好きだ。
何十回、いや何百回聴いたかもしれない。

アルバム一曲目、右スピーカーから左スピーカーへ飛んでくるハエの羽音から始まる「僕はスーパーフライ」から、一気にラスト「くれない埠頭」までソラで全部唄えるかもしれない。
それくらい耳に馴染んでいる。

1982年9月25日発売のムーンライダーズの7枚目のオリジナル・アルバム。
先に完成していた8枚目のアルバム『MANIA MANIERA』のあとに制作されて先に発売された。

1980年代初期のこの数枚はニューウェーブ期と言われていて、
確かに「XTCみたいやん」と感じる部分もあるけれど、
それは多分に時代の空気というか、同時代感としてのサウンドだと思う。
とは言うものの、80年代サウンドを代表するゲート・リバーブの効いたスネアもほとんど聞こえないし、
2023年のいま聴いても全然古臭く聞こえない。

実は『青空百景』というアルバムのことを知ったのは、いやムーンライダーズというバンドのことをちゃんと認識したのは、大阪のバーボンハウスを中心に活動していたバンド「サザンクロス」のおかげだ。
当時、12月クリスマスのバーボンハウスといえばサザンクロスのライブだった。
そして、1983年12月のクリスマスライブが悲しくも彼らの解散ライブになったのだが、その時のMCでVoの大辻さんが最近ハマっている音楽として、
エコー&ザ・バニーメンのニュー・アルバム(1983年リリースの『ポーキュパイン』)とムーンライダーズの『青空百景』の激推されていて、特に『青空百景』については
「これはヤバい、めちゃくちゃ格好いいから皆も聴いて!!」
と大絶賛されていた。

もちろん、当時サザンクロス大好きで、彼らのコピーバンドを組み、少しづつ作りはじめたオリジナル曲も完全に影響下にあったり、バイトでボーヤをしたり、自分達のライブでは大辻さんの自宅までYAMAHA CP-80を借りに行ったり、そんな具合に影響を受けまくりだった18-19才の青年が
『ポーキュパイン』と『青空百景』を聴かないわけがない。

エコバニの『ポーキュパイン』は当時UKで一大ムーブメントになりつつあった髪を尖らせたニューウェーブ系ロックバンドだし、洋楽だし(当時は音楽にもランクがあって、洋楽>邦楽と洋楽の方がいいに決まっているという感じだった)、「やっぱりええよなぁ」と思ったが、
ムーンライダーズのことは知ってはいたけど、それまでちゃんと聴いたことはなかったし、はじめてしっかり聴いてみた『青空百景』については正直
「え?これがサザンクロスの大辻さんの趣味なん?ホンマ?格好いい?」
と思ったことを覚えている。

まず歌詞が冗談でしょ?みたいな曲ばかりだったので度肝を抜かれて、格好いいって・・・という感じだった。
A面最初から、名前も知らない君のまわりを、ハエになってぐるぐる回っていたい、と歌う「僕はスーパーフライ」とか、
2曲目は、さびしくはじまる月曜日、続く火曜日にバスで君に出会ってひとめぼれ、水曜日にはじめてのデートから日曜日にまた振られてしまうまでの一週間を歌うだけの「僕のマリー」とか、
3曲目の「霧の10m2」はまぁそんなに変な感じはしなかったが、
4曲目は夜中の2時まで玉子を割って玉子料理ばっかり作っている「真夜中の玉子」とか、
A面ラストは、晴れた日にお風呂に入って、天気がよければ富士山が見えて、とにかく元気になるからお風呂はいいぞ、という意味不明の江戸っ子お風呂大好きみたいな「トンピクレンッ子」とか。
まぁ、とにかくそんな感じで、今ならそうした1曲1曲が素晴らしい歌詞世界なのだけど、見た目の格好だけつけて「ロックだぜ」と言っていた若者には分からなかったんだな。

サウンドも多彩過ぎて統一感がないというか、芯が見えない感じだったし、どこはかとなく「日本」を強烈に感じたのも、ダメだったのかもしれない。
B面4曲目「物は壊れる、人は死ぬ 三つ数えて、眼をつぶれ」はどことなく暗黒舞踏というか、アバンギャルドなアングラ舞台感を感じて、B面ラスト「くれない埠頭」へ続くところだけが、しっくり来ていた。

いずれにせよ、すごくストライクゾーンの狭い、価値観に凝り固まった、若いのに頭が硬かったんだろうな。
そしてそれでも、
「いや、サザンクロスの大辻さんが激推しているんだから、これは自分の聴き方が、センスが、ついていけていないのかもしれない」
とCDを買って何度も何度も繰り返し聴いた。

すると不思議なことに耳に馴染んできて、歌詞も覚えるので口ずさむ様になって、1曲1曲がそれぞれに愛おしくなってきた。
気がついたら愛聴盤になっていた。そんな具合だ。
それから数十年。
ムーンライダーズのアルバムは全部聴いてきたけれど、雛鳥は最初に見たものを親だと思うというように、『青空百景』がやっぱり自分にとってのムーンライダーズのベスト・アルバムだ。
当時、なんだかこういうところがイマイチなんだよな、と思っていたところが、全部ひっくり返ってこのアルバムの魅力になっている。

歌詞のストレートさ、格好つけてなさ、気取ってなさ、
1曲1曲が独立していて、サウンドの味付けも全く違っていて、おもちゃ箱をひっくり返したみたいなところとか、
そうした歌詞とサウンドの全てが他のアルバムと比べても群を抜いていて素晴らしいと個人的には思う。
演奏も、今聴いたらめちゃくちゃバンド感があってちゃんとロックバンドしてるんだな。

是非聴いてみて下さい!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?