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そこに侍を見た〜新宿ピットイン『月刊 林栄一 11月号』

侍を見た。
と言っても、見たのは林栄一さんだ。(以下、敬称略)
ジャズ界の重鎮、
未だ現役バリバリ。

今日は林栄一が新宿ピットイン 昼の部で月一行っている完全即興ガチセッション『月刊 林栄一』。

ステージの林栄一が侍の如しなのは当然として、
林栄一に侍を見たのは新宿ピットイン前の御苑通りだ。

昼の部13:30開場のところ10分早く着いたので、さて、どうしようかとピットイン前の御苑通りで思案していたところに、横断歩道を渡って目の前を林栄一がピットインのあるビルへ入って行ったではないか。

サックスと思しきハードケースを転がして。

ええ!今から入るんですか!?

開場10分前。
この時間に会場入りするということは、おそらくリハなんてしないんだろう。

この月例セッションの相手はピットイン側で若手プレイヤーを中心にセレクトしているらしいので、場合によってはこのステージがはじめまして、というケースも当然あるだろう。

完全即興ガチセッションというくらいなので、楽屋で30分前にダンドリだけ決めて、さあ本番て感じなんだろうか。
なんなら、ダンドリもないかもしれない。

前に見た『月刊〜』では、セッション相手のオリジナルを演ったので譜面もあったが、今日のセッションは何もないのか。


サックス一本抱えて時間ギリギリにふらっと現場へ。
カッケー!
まさしく侍、ジャズ侍、いやサックス侍。
(なんだかギター侍=波田陽区みたいな響きになってしまった、申し訳ない)

凄腕の素浪人が刀を一本携えて果し合いの場へ行くみたいじゃないか。

今日のセッションの対戦相手は「焼玉エンジン」

どうやら以前活動していたバンドらしいのだが、最近はレギュラーのバンドではないのかな。
ファーストステージが終わって休憩時間に入ると後方から、
「焼玉、久しぶりだわ!」
と話されている方が何名かいらっしゃった。
ふむ。

だが、「焼玉エンジン」なるバンドを今日初めて知ったこちらとしては、これがくせもので。
来る前に「焼玉エンジン」で検索しても、工場で鉄球が焼かれてる写真しか出て来ない。
焼玉な、確かに。。

Youtubeでメンバーの名前で検索したところ、2人いるうちのギターのハラ☆タカシさんの過去ライブの映像がいくつかヒットする。
うわ、モヒカンなのか、激しいな。

ドラムの福島紀明さんと一緒のセッションもいくつかあった。

モヒカンという最近ではめっきり珍しくなった髪型で勝手にイメージ描いたが、どうやらジャズフィールドの人ではあるようだ。
いかん、ルッキズムに侵されている。

「焼玉エンジン」
ある程度はフリーぽいけど、アバンギャルドなジャズロックくらいかなぁ。

そんな勝手な予想をして来てみたら、それはもう「どフリー」で腰抜けた。

かなり長めの休憩を挟んでの2ステージ。
ファーストステージ、セカンドステージ、それぞれ1曲30分近く。
いや、1曲と数えていいのか?

もはや曲だかなんだか分からない、音楽以前の音の塊。

ツインギターなのに、並のフレーズ弾いてたまるか、
みたいにどちらがギターらしくない音を鳴らせるか合戦みたいになってるし。

ハラ☆タカシさんのギターがどちらかというと歪み担当。少し歪みのせいか音が引っ込んでいて聞こえにくかったのが残念。

ドラムとベースのリズム隊は強烈。
特にベースはゴリゴリの音で気持ち良い。

林栄一のサックスは文句なくいつものThe 林栄一。

もはや武道の達人の域。
気負うことなく、すっと立ってブワッと息を吹き込んだら、もはやサックスも言いなり。
そこからは吹き倒す、吹き倒す。
サックスが喋るとしたら、もう勘弁してくれというくらい。

30分の即興も山あり谷あり、ドラムかベースがきっかけとなって、あるモチーフが時たま現れると、ギター2人がそれに寄り添うようにノイズを発して、林栄一のサックスが斬り込んでくる。
静かに始まったモチーフが気がつくとバンド一丸となって鳴らす爆音の塊がステージから局席に襲い掛かる。

こうなったら、もはや爆音に身を委ねるしかない。
最初は、スゥイングもしないし、グルーヴも不整脈みたいで、フリーセッションは聴きどころが難しいなと思っていたが、
何のことはない。
聴きどころが、とかじゃなく「身を委ねろ」だった。
目を瞑って爆音に身を委ねていると、やがて瞑想状態になっているのか、眠っているのか、身体は起きていて音を感じているのに脳みそは働いていない、そんな感じ。
やがて山から谷にすっと落ちて来ると、ハッと目が覚める。その繰り返し。
うむむ、深い。
これでいいのか?フリーのジャムセッションの楽しみ方は?

しかし、「月刊 林栄一」はいつも昼の部だというのに人が入っている印象。
それも昔からのバリバリのフリージャズファンの諸先輩達と見た。
僕よりお歳を召された方が多そうだが、さすが日本のフリージャズ史を見届けてきた人たちだ。
見習わなくてはいけない。

いや、よいものを魅せてもらいました。

〈了〉

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