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軍事化迫る空と海          ――沖縄・琉球列島・九州(全国)の空港・港湾の対中戦争の戦時動員態勢を批判する!(写真は石垣島ミサイル基地)

軍民共用空港化が始まる波照間空港・新石垣空港
 10月6日付八重山毎日新聞によると、政府各省庁の課長ら19人が同日、町役場、市役所を訪れ、竹富町と石垣市で波照間空港などを「特定重要拠点空港」に指定する計画を示し、防衛態勢の強化のために滑走路を延長するよう求めたという。新石垣空港はもとより、滑走路が800メートルしかない波照間空港までも「軍民共用」を口実として軍事化されることは、多くの住民にとって衝撃的であったに違いない。

 この空港軍事化の決定は、2023年8月25日の閣議「総合的な防衛体制の強化に資する取組について(公共インフラ整備)」による。閣議決定では、防衛力強化の目的で拡充する公共インフラ候補として、特定重要拠点空港・港湾を選定し、24年度予算に必要経費を計上するとしており、10道県の33空港・港湾が指定(14空港・19港湾)の対象で、そのうち16空港・港湾が、琉球列島、九州、四国にある。

 具体的に指定空港は、与那国、新石垣、宮古、那覇、鹿児島、宮崎、高知などがリストに入っており、いずれも「台湾有事」の際、自衛隊部隊が展開、補給拠点として使用するとしている。そして、与那国、新石垣、宮古空港は、滑走路2千メートルを延長し、その他は、駐機場、誘導路(那覇空港)、格納庫を新設して自衛隊機が使用するとされている。

 また、与那国島には、護衛艦などが接岸可能な新港を造り、石垣港、宮古島平良港、那覇港、熊本港、博多港、高松港、敦賀港、室蘭港、苫小牧港などについては、岸壁を改修し護衛艦の接岸に備えるという。

東京新聞は40空港・港湾と報道

 これらの民間空港・港湾の軍事化の目的について、閣議決定は「安全保障環境を踏まえ……必要な空港・港湾等を整備し、自衛隊・海上保安庁の艦船・航空機が平時から円滑に利用できるようにすることが必要」としたうえで、有事には「航空優勢を確保し、我が国に侵攻する部隊の接近・上陸を阻止、状況に応じて必要な部隊を迅速に機動展開」と明記する。

 つまり、自衛隊が、琉球列島の民間空港・港湾を、平時から訓練・演習などで活用するだけでなく、戦時には制海・制空権を確保するために、これらの施設を軍管理下に置くということだ。
 そしてもう一つの目的は、戦時における陸上自衛隊の全師団・旅団の南西諸島への緊急動員――機動展開の一環として、さらには、兵站(補給)拠点として空港・港湾を確保するということだ。

 付言すると、特定重要拠点空港・港湾については「平時から活用」としているが、指定公共機関とされている空港・港湾やフェリーなどの船舶・交通機関(及び労働者)は、戦時には有無を言わさず徴発される(武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律、自衛隊法第103条「防衛出動時における物資の収用等」)。
 

 安保関連3文書で策定された空港・港湾の軍民共有・軍事化
 さて、言うまでもなく、閣議決定された「特定重要拠点空港・港湾」は、2022年国家防衛戦略(NDS)、防衛力整備計画で策定された有事態勢づくりに基づくものだ。
 国家防衛戦略では、閣議決定とほぼ同文の「島嶼部を含む我が国への侵攻に対しては、海上優勢・航空優勢を確保」「輸送力・航空輸送力の強化」が謳われ、また「民間資金等活用事業(PFI)等の民間輸送力を最大限活用する。 また、これらによる部隊への輸送・補給等がより円滑かつ効果的に実施できるように、統合による後方補給態勢を強化し、特に島嶼部が集中する南西地域における空港・港湾施設等の利用可能範囲の拡大や補給能力の向上を実施」するとしている。 

 これまで自衛隊の南西シフトは、石垣島・宮古島などのミサイル基地化が中心であり、この配備計画が最終段階を迎えつつある今(長射程ミサイルなどの新配備も続く)、自衛隊の戦時態勢づくりは、第2段階を迎えつつある。ここでは、南西諸島への機動展開、弾薬など兵站拠点確保、さらには東シナ海の制海・制空権確保のために、琉球列島の主要な民間空港・港湾の軍事化、軍民共有化が急ピッチで進められている(デュアルユース[軍民両用]という名目)。 
 つまり、「台湾有事」を喧伝しながら、沖縄から日本全土への戦時態勢づくりが、文字通り「実戦」を想定しながら本格的に開始されたということだ。

政府の特定重要拠点空港・港湾(仮称)文書


 ここで強調すべきは、「平時からの軍民両用化」は、琉球列島の軍事化の始まりに過ぎないことを認識すべきである。これを許容したとするなら、さらに琉球列島の本格的な、凄まじい軍事化が行われるということだ。
 これについて元陸自の西部方面総監・用田和仁は、以下のようにいう(「日本の国防」第70号)。
 「南西諸島の島でもそうですが、中国本土から大体1000キロから1200キロ、南シナ海では2000キロ離れた所に、いかに空港が必要か、それは海洋戦力、いわゆる海上優勢を取るためには、航空優勢が絶対要るわけです。そのためには滑走路が必要なのです。いわゆる海上優勢のための航空優勢、航空優勢を取るためには、近くて重要な第1列島線の要所に空港を確保するということは、西太平洋に出て行く上で非常に大切な、いわゆる死活的重要な問題……では南西諸島はどうなっているのかというと、1500メートル以上の滑走路がある島が14あります。そしてもっと短い滑走路を入れると20あります」

 つまり、用田は、波照間空港、新石垣などの空港ばかりか、南西諸島の20の民間空港の全てを軍事化することを公言する。用田はさらにいう。
 「我々はこれだけの不沈空母をもっているのだし、この20の滑走路のある島に94%の人が住んでいるのです。ですから、何かあったときに155万人の人を全部島から、いわゆる全島避難させたりすることはなかなか難しいかもしれませんが、6%の島、いわゆる残りの島から全島避難させるということはあり得るのだ」
 
このように、元自衛隊幹部も有事の際の全島避難は困難だと認めているのだ。
 
 こうした琉球列島の軍事化について安保関連3文書では、執拗までに「2027年」までの態勢づくりが主張されていることに注目すべきだ。
例えば、「5年後の2027年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化する」と。
 21年3月、当時のインド太平洋軍司令官デービットソンが吹聴した「2027年中国の台湾侵攻説」が、政府・防衛省の公文書にまことしやかに明記されるという、とんでもない状況がつくられている。
 
 さて、安保関連3文書には、PFI船舶等の民間輸送力を最大限活用という耳慣れない言葉がでてくるが、これは、「ナッチャンWorld」などの民間フェリーを活用した自衛隊の戦時の海上輸送(機動展開)のことだ。これについては、すでに2014年に統合幕僚監部「自衛隊の機動展開能力向上に係る調査研究報告書」(情報公開請求の提出文書)という調査が行われている。
 この報告書では、「本土―鹿児島・名瀬港」から「前線基地・先島諸島」までは、PFI船舶が輸送を担当し、「前線基地」(先島諸島)から「戦闘地域」(交戦状態)への輸送は、自衛隊輸送艦が担うとされ、このためのPFI船舶の活用が謳われている。

2014年に統合幕僚監部文書の想定する戦場


 重要なのは、報告書においてはこの時期に、「南西諸島の港湾施設所要概要」とし、「現在、沖縄県には重要港湾6港、地方港湾35港合わせて41港ある」として、「重要港湾は沖縄本島の那覇港、運天港、金武湾港、中城湾港、平良港、石垣港である。宮古島・石垣島までは、1万トン級の船舶が入港可能だが、与那国島は最大でも3千トン級までとなっている」と港湾の名前を挙げて調査し、さらに各港の水深、岸壁長、特徴を明記し、これらの有事収用に向けた態勢づくりを始めていたことだ。
 つまり、ここで調査提言されているのは、空港だけでなく、沖縄―琉球列島の主要な港湾までもが、軍民共有にされる、軍事化されるということなのだ。
 
 実戦的発動段階にある南西シフト
 結論から言えば、閣議決定の「特定重要拠点空港・港湾」の指定は、自衛隊の南西シフトの一環として、宮古島などのミサイル基地化と合わせて、その完成を待って始まった対中国の戦時態勢づくりであり、その実戦的発動態勢ということだ。そして、これらは、琉球列島各基地の抗湛(こうたん)化―地下化、各種弾薬(庫)の大量備蓄・大量増築と合わせて、現在、急ピッチで進められている。

 同時に琉球列島の実戦化は、見てきたように、その前戦基地司令部となり、後方兵站拠点となる九州・中四国の徹底した軍事化としても進行し始めたのである。
 しかし、私たちは、ここで問わねばならない。この沖縄―琉球列島の軍事化は、沖縄戦の再現ではないのか? 軍隊が住民を守らないどころか、住民を巻き込んで戦争体制をつくるという、とんでもない状況が始まろうとしているのではないのか?

 そう、このデュアルユース(軍民両用)という名目で進められている琉球列島の空港・港湾の軍事化は、戦時において「軍民分離」を規定したジュネーヴ諸条約第1追加議定書について、何ら言及していないのだ(同条約第48条など)。離島住民の唯一の避難手段である空港・港湾の軍民共用化は、まさしく住民を戦火にたたき込むに等しいのだ。
 最近、防衛省では、今さらながら先島諸島住民のシェルター(防空壕)づくりや住民避難などを謳い始めているが、安保関連3文書においても、特定重要拠点空港・港湾の閣議決定においても、この重大な戦時下の軍民分離の原則に触れないということは、国際法さえ無視した軍事政策であり、沖縄戦を全く教訓化していないということだ。
 
 日米の南西シフトは、政府・自衛隊において沖縄―琉球列島での島嶼戦争(島嶼破壊戦)――海洋限定戦争として想定されているが、初期の戦争においてはともかく、これが局地戦として限定されることはあり得ない。想定される戦争は、沖縄・琉球列島から九州―日本全国へ、そしてアジア太平洋の全域を巻き込む戦争に広がることは必至だ。

 だからこそ、この戦火を止めるためには、琉球列島の軍事化、現在進行しつつある空港・港湾の軍事化という、本格的戦争態勢づくりを阻む、大きなたたかいが重要になっているのである。
 予定されている11月23日全県民集会を皮切りに、この炎が全国に広がることを強く願う。沖縄戦の再現を許さない、二度と戦争を許さないと誓うためにも、今こそこの沖縄全県民集会に連帯し、全国で連帯する行動を起こそう。そして、沖縄―奥武山公園へ全国から集まろう!

本稿は、2023/11/9、11/10付琉球新報上下の連載として投稿。

私は現地取材を重視し、この間、与那国島から石垣島・宮古島・沖縄島・奄美大島・種子島ー南西諸島の島々を駆け巡っています。この現地取材にぜひご協力をお願いします!