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米軍の中距離ミサイル―地上配備型中距離ミサイル(GBIRM)の日本配備について

ランド研究所の中距離ミサイル―地上配備型中距離ミサイル(GBIRM)への提言について

米軍によるアジア太平洋への中距離ミサイル――地上配備型中距離ミサイル(GBIRM)の配備は、米国の新冷戦開始――対中戦争態勢づくりの中で、現在の最大の政治問題となりつつある。
この問題について、米国政府の最大のシンクタンク・ランド研究所は、「インド太平洋の中の地上配備型中距離ミサイル」(2021年)という報告書を提出している。

この報告書によればー、
第1に、米軍の中距離ミサイル配備については、開発中の地上配備型中距離ミサイル(GBIRM)を配備するよりも、日本自体に中距離ミサイル開発を促し、その開発配備に米軍が協力すること、現実に、日本・自衛隊は、地対艦ミサイルなどの長射程化(1千キロ以上)を進めており、この開発に共同・協力すること、とする。

第2に、日本政府は、すでに、敵基地攻撃能力(「反撃能力」というペテンだ!)の保有を進めており、対中国の関係から、「中国本土攻撃用の中距離ミサイル配備」というよりも、第1列島線・琉球列島防衛という、中距離ミサイル配備のほうが、国民の理解を得やすいとしている。

第3に、その中距離ミサイルの配備先は、すでに地対艦・地対空ミサイル部隊が配備されている琉球列島の基地の活用、つまり、宮古島・奄美大島(九州を含む)などの琉球列島が適切である、としている(「南西諸島や九州のどこかに配備すれば、台湾海峡、東シナ海、中国東海岸の一部の船舶の動きをカバーできる」と)。

第4に、この中距離ミサイル配備と作戦運用のための、日米の共同作戦・共同司令部をつくること、としている。

今や日本政府は、ウクライナ戦争を奇貨として、「台湾有事」キャンペーンを徹底して煽り、防衛費の二倍化というとんでもない軍備強化を打ち出し、そして、対中国への「敵基地攻撃能力」のための中距離ミサイル(地対艦ミサイル長射程化・トマホーク、極超高速滑空弾)の開発を急ピッチで進めている。
このミサイル基地化=要塞化の中心が、進行している宮古島などの琉球列島の要塞化なのである。

重大なのは、日本の反戦・平和勢力のほとんどは、軍事費増大や敵基地攻撃能力の保有、改憲一般には反対するが、現在進行している、アジア太平洋の最大の戦争の危機(偶発的衝突をも含む)としてある、宮古島・石垣島・奄美大島などへのミサイル基地化には反対しようとしないということだ。
「一言の反対の声」さえ上げない平和勢力、知識人たちが、今なお存在するのだ。こういう欺瞞的な「平和論・運動論」を厳しく批判しなければならない。
「あなたたちの〝沈黙〟は、戦争協力なのだ」と。

Ground-Based Intermediate-Range Missiles in the Indo-Pacific
インド太平洋の中の地上配備型中距離ミサイル(GBIRM)


 ランド研究所       ェイコブ・ハイム、ダラ・マシコット 
                          2021年4月

注 報告された研究は、太平洋空軍の委託を受け、2020年度プロジェクト「Pacific Warfighter Implications of a Post-INF World」の一環として、RAND Project AIRFORCEの戦略・ドクトリンプログラム内で実施されたものである。

以下、報告書の核心部分の要約である。

●地上配備型中距離ミサイル(GBIRM)に関する4つ選択

(1) GBIRMを共同開発し、同盟国に売却し、同盟国が自国のミサイルとして指揮統制する
(2) 危機に際して同盟国に GBIRM を配備する
(3) 平時のローテーション展開
(4) グアムや自由連合協定加盟国への配備である

これらの選択肢にはそれぞれ難点があるが、米国がこの地域で GBIRMを追求し続けるのであれば、最初の選択肢のバリエーションを推奨する。
*具体的には、米国のGBIRMを直ちに配備するのではなく、日本が対艦スタンドオフミサイルを開発し配備する努力を支援することが最も成功する可能性が高い選択肢であろう。

● 概要 課題
本報告書は、インド太平洋地域における米国の同盟国であるオーストラリア、日本、フィリピン、韓国、タイが、米国の通常兵器である地上発射型中距離ミサイル(GBIRM)を保有する可能性を分析したものである。われわれは、米国の5つの同盟国すべてにおいて、現在の国内政治状況と地域安全保障の傾向が続く限り、このようなシステムを受け入れる可能性は非常に低いと論じている。

● 結論
*タイ……GBIRM を受け入れてくれる同盟国を見つけることは、空軍基地のような他のタイプの米軍を受け入れてくれる同盟国を見つけることよりも困難である。
タイは米国にとって最も古い地域パートナーであるにもかかわらず、軍事政権が続いており、しかも同政権は中国との関係を緊密にしようとする傾向があるため、米国が軍事関係を強化することができないのである。

*フィリピン……米国とフィリピンの同盟関係は、改善されつつあるものの、流動的な状態にある。フィリピンの将来の指導者が、米軍の恒久的な駐留に反対するなど、同様の政策を続ける限り、フィリピンは米軍GBIRMの配備を受け入れる可能性は極めて低い。

*韓国…… 米韓同盟は朝鮮戦争で築かれたが、韓国は中国とも緊密な関係を保っている。韓国が米国の防衛ミサイルシステムを受け入れることに対する中国の反発、韓国政府が中国の圧力に弱いこと、そして米韓関係の全般的な悪化は、韓国が米国のGBIRMを受け入れることに同意する可能性が極めて低いことを示唆している。

*オーストラリア……米国とオーストラリアとの同盟関係は強固である。豪州は中国とも経済的に近いが、二国間の関係はぎくしゃくしている。豪州は米国と歴史的に強い結びつきがあり、2021年には米国のアクセスとプレゼンス の拡大を示す動きがあるため、豪州が米国の GBIRMを受け入れる可能性は否定できないが……アジア大陸から地理的に遠いこともあって、豪州が米 国のローテーション・プレゼンスの拡大に同意しても、その可能性は低くなっている。

*日本……日本は米国との同盟関係を強化し、中国に対する自国の防衛力を強化する努力を惜しまないので、日本は米国の GBIRM を受け入れる可能性が最も高いと思われる地域の同盟国である。
しかし、その可能性は低く、米国のプレゼンスが増大し、攻撃的な性格を明確に持つ兵器を配備することを受け入れるかどうかという課題によって、大きく後退している。
平時に GBIRM を恒久的にホストすることに同意する同盟国に大きく依存する米国の戦略は、 意欲的なパートナーを見つけることができないため、深刻な失敗のリスクに直面することになる。

結論……GBIRM を追求し続ける場合、選択肢
(1) GBIRM を同盟国と共同開発、または同盟国に売却し、同盟国が自国として指揮管理する
(2) 危機に際して同盟国領土に GBIRM を展開する
(3) 平時のローテーション展開
(4) グアムまたは自由連合諸国の 1 つに展開する、 である

これらの選択肢にはそれぞれ欠点があるため、本報告書では、米国がこの地域で GBIRM を追求し続ける場合、最初の選択肢のバリエーションを推奨している。

*具体的には、米国の GBIRM配備に焦点を当てるのではなく、地上発射型対艦スタンドオフ・ミサイルの兵装を開発・配備する日本の努力を支援することが、最も成功しやすい選択肢であろう。

このオプションは米国のGBIRMではないが、長期的な米国戦略の最初のステップと見なすべきであり、時間の経過とともに、米国は日本が独自に、または米国と共同で、より射程の長い対艦巡航ミサイル を調達するよう促すことができるかもしれない。

このミサイルは、まだ中国への深部攻撃はできないが、日本の南西諸島や九州に配備されれば、台湾海峡、東シナ海、中国東海岸の一部の船舶の動きをカバーできるようになり、それによって中国の資産を戦争計画上の危険にさらす範囲を広げ、台湾海峡での海上阻止作戦に貢献する可能性がある。

●第1章 はじめに
米国は2019年8月2日に中距離核戦力(INF)条約を脱退し、ロシアや中国との軍事バランスを強化するために、射程500~5500kmの地上型巡航・弾道ミサイル(本報告書では地上型中距離ミサイル(GBIRM)と呼ぶ)を開発・配備する機会を自らに開いた。
当時のマーク・エスパー国防長官は、米国は新しい通常兵器型 GBIRM を開発し、「遅かれ早かれ」インド太平洋に配備したいと考えていると述べた 。

また、米国の同盟国が GBIRM を自国内に受け入れるというワシントンの申し出にどのように反応するかが不明確であったことも同様である。米国の同盟国が自国へのアクセスや使用を拒否する理由はいくつかあるが、その中には GBIRMを保有することで中国との地域的な軍拡競争が激化するのではないかという懸念がある。配備が挑発的とみなされ、北京の厳しい反応をわれわれは、米国のすべての同盟国におて、現在の国内政治情勢と地域の安全保障の傾向が続く限り、このようなシステムを受け入れる可能性は非常に低いということを発見した。

●第2章 各国の配備の可能性と問題点
具体的には、タイ、フィリピン、韓国が米国の GBIRM を受け入れる可能性は極めて低く、オーストラリアや日本が受け入れる可能性はわずかであるが、東京と合意する可能性がわずかに高い。引き起こすリスク、同盟国が直接関与しない米中間の紛争に巻き込まれる恐れなどである。

*GBIRM の配備先が見つからないため、本報告書では同盟国への恒久的配備の代替案として、次の 4 つを検討することとした。
(1) GBIRMを同盟国と共同開発または同盟国に売却し、同盟国の指揮・統制に委ねる
(2) 危機的状況における同盟国領域へのミサイル配備
(3) 平時のローテーション配備
(4) グアムまたは自由連合構想加盟国への配備

*米国の GBIRM配備に焦点を当てるのではなく、日本が地上発射型対艦スタンドオフミサイルの兵器を開発・配備する努力を支援することが、最も成功する可能性の高い選択肢であろう。この漸進的なアプローチは、それでも中国の海上戦力投射プラットフォームを危険にさらすことになり、中国軍に戦争計画上のコストを強いることになる。これらの地上型プラットフォームが配備されれば、米国は日本と協力して、時間をかけて徐々にその射程を拡大することができる。

● 日本への地上配備型中距離ミサイル(GBIRM)配備について

日本は同盟関係を強化し、中国に対する自国の防衛力を強化する努力をする意向があるため、日本は米国の GBIRMを受け入れる可能性が最も高いと思われる地域の同盟国である。しかし、その可能性はまだ低く、米国のプレゼンスが増大し、攻撃的な性格を持つ兵器を配備することを受け入れるかどうかという課題が大きく影響している。このことは、今後数年の間に変わることはないだろう。

重要なことは、日本は、中国に対抗するための能力に投資してきたことである。これには、地上部隊の軽量化と機動性の向上、水陸両用能力の開発、中国に近い島々でのプレゼンスの確立、スタンドオフミサイル能力を含む新しいタイプの能力の調達が含まれる。その結果、日本はより強くなり、同盟はより強固なものとなった。

バイデン政権はトランプ政権のような取引的なアプローチを避けているが、米国が日本に米国のGBIRMを受け入れるよう要請した場合、他の問題が生じる可能性がある。……日本への GBIRMの受け入れ要請は、過去30年間の米国の足跡を減らす努力に逆行することになるため、困難に直面することになる。

米国の他の同盟国の対中関係以上に、東京と北京の関係はしばしば露骨な緊張を伴う。その背景には、歴史的な不平等など様々な要因がある。しかし、近年は尖閣諸島(日本が施政権を持ち、中国が領有権を主張する)をめぐる対立が最大の要因となっている。特に過去10年間、中国は尖閣諸島周辺に海上保安庁や準軍事施設をほぼ常時配備し、この地域での軍事活動を強化することで、日本の支配に挑戦し、日本の対応力を試そうと積極的に動いてきた。関係は管理されているが、それでも緊張は続いており、日本は米国との強力な同盟関係を維持し続けるよう求められている。

*米国が条約を脱退した後、当時の河野防衛大臣は米国の GBIRMを受け入れる構想について、 「米国はまだ配備できる非核ミサイルを持っていない、開発段階かもしれない」と発言していることから、非核ミサイルが開発された場合、日本が米国の GBIRMを受け入れる可能性があることが示唆された。これは、非核ミサイルが開発された場合、日本が米国の GBIRM を受け入れる可能性があることを示唆するものである。しかし、河野は、自国政府と米国政府との間でそのような話はまだしていないと認めている 。

この発言が米軍の GBIRMの受け入れに消極的であるとすれば、その背景には、日本に米軍のプレゼ ンスを新たに導入することは困難であるという政治的認識と、米軍の GBIRMが核武装しているに過ぎないとい う誤解の 2 つの可能性が考えられる。
後者については、ワシントンが海外の特定の施設やシステムを明確に非核化するかどうかを示していないことを指摘する声もある 。このことは、核兵器の歴史と非核三原則を持つ日本にとって問題となり得る。仮に米国が核戦力の配備を控えたとしても、日本国民が核戦力を有すると信じたり、その可能性を放置したりすれば、特に中国(またはロシア)が情報操作キャンペーンを行ってこの 考えを押し通した場合、これらの能力を受け入れることに地元の同意を得ることは政治的に難しくなるであろう。

*イージス・アショアのエピソードは、日本が国内の圧力に弱いことを示したので、日本がどのように反応するかを考える上で有益である。もし、日本が所有し運用する防衛ミサイルシステムが国内の抵抗を招くのであれば、米国が所有し運用する攻撃型ミサイルシステムを恒久的に保有しようとする試みは、より大きな抵抗に直面する可能性が高いだろう。日本の強い防衛規範と在日米軍の増強に反対する可能性を考えると、明らかに攻撃的な性質を持つ米国の GBIRMを導入することは、イージス・アショアの経験で見られたよりも強い国民の反発に直面する可能性がある。

*日本に配備された米国の GBIRMを日本が戦争状態にない国家に対して発射しようとする場合、米国はミサイル発射前に日本との事前協議を行わなければならないだろう。事前協議のプロセスは未定であるが、日本の賛同を得ることが目的である。事前協議なしに、あるいは日本の反対を押し切って、米国が一方的にミサイルを発射することは可能であるが、そのような行動は同盟の存続を危うくし、特に日本の指導者が紛争に巻き込まれたくないにもかかわらず、その行動が日本本土への攻撃と日本の民間人の死亡につながった場合、同盟の存続を危うくする可能性がある。

これらを総合すると、日本は依然として米国のGBIRMを受け入れる可能性が最も高いと思われる地域の同盟国であるが、その可能性は低く、米国のプレゼンスの増大と明確な攻撃的性格を持つ兵器の配備を受け入れるという課題によって大きく後退しているのである。


●第3章 同盟国の土地に米国のGBIRMを恒久的に駐留させる代替案


日本を除くこれらの同盟国が、そのような能力を受け入れることに同意する可能性は極めて低いため、米国は他の可能な選択肢に目を向けるべきである。本章では、最も可能性の高い4つの選択肢を検討する。
(1)同盟国と共同開発する、
(2)独自に開発し同盟国に売却、同盟国に配備・運用させる、
などが考えられる。

米国のGBIRMは、韓国のミサイルの意図は、北朝鮮全土の重要なターゲットを危険にさらすことである。THAADの受け入れに対する中国の圧力にソウルがどのように反応したかを考えると、北朝鮮を危険にさらすことを意図した既存のミサイルの射程を超えるミサイルを共同開発または購入することは、特に中国を攻撃するという別の目的があるとみなされる可能性がある。ソウルは、再び、不必要に中国を刺激しているように見える立場に置かれることを望まないだろう。そのため、韓国はこのオプションの有力な候補ではないだろう。

オーストラリアは有望な選択肢の1つになりそうだ。2009年以降、豪州と米国は極超音速の基礎科学と次世代航空航行システムの可能性を追求する同盟国間最大の共同研究プログラムの一つである極超音速国際飛行研究実験プログラムで協力してきた。8 この結果、極超音速ミサイルの実験が数回行われ、2020年12月に空中発射型極超音速巡航ミサイルの開発・実験に合意した。オーストラリアが共同開発の有力な候補となり得ることを示唆している。

GBIRMシステムの運用には、中国からの距離が大きな障害となる。GBIRMシステムは地上発射型であるため、オーストラリア北部に設置する必要がある。しかし、ティンダル基地に設置した場合、最大射程5,500kmでも中国南部のごく一部にしか到達できない。このように射程が限定されていることが問題なのは、これらのシステムが中国のどのような標的をカバーできるのかが不明なためである。いくつかのターゲットに到達できることは間違いないが、到達距離が限られているため、中国本土の重要ターゲットの割合が少なくなる。つまり、豪州との共同開発という選択肢もあるが、到達可能なのはせいぜい中国南部の一部で、中国中部と北部の広大な地域は聖域となるため、これらのミサイルの運用上の有用性は限られる。

*日本はオーストラリアと同様に、BMDシステムの共同研究、共同開発、共同生産を二国間で行ってきた経緯から、その可能性がある。1990年代、日本は米国からBMD対応のイージスシステムを調達することを決定し、米国ミッシ ル防衛庁が製造したミサイル防衛能力を同盟国に売却した最初の例となった 。また、PAC-3迎撃ミサイルのライセンス生産を日本に認めることでも合意した。さらに、イージス艦搭載護衛艦用の迎撃ミサイルSM-3ブロックIIAを共同開発し、開発後は米国が日本にFMSで購入することを認めた

日本はオーストラリアよりも中国に近いため、オーストラリアで GBIRMが直面する主な障害も取り除かれる。しかし、日本の距離の近さと共同開発の歴史は、米国が日本の指揮統制の下で日本に GBIRMを配備する可能性を示唆しているが、日本の取り組みは防衛システムに限定されている。日本は伝統的に攻撃型兵器を調達することを控えている。その代わり、専守防衛の方針から、自衛隊の能力を自衛のための「必要最小限度」に限定し、これを超えるものは憲法9条で禁止されている「戦力」とみなしてきた。

歴史的には、大陸間弾道ミサイル、中距離弾道ミサイル(IRBM)、長距離爆撃機、空母などが必要最小限の水準を超えるものとして政府関係者によって認識されてきた。IRBMがいつ禁止能力リストから外れたのか正確には不明であるが、このリストに含まれることは、冷戦の終結後も存続しているようである。

日本は専守防衛に徹しているため、たとえそのようなことがあっても日本がこの選択肢に同意した場合、GBIRMの射程を制限して、深部攻撃能力を持たせないようにすることができる。あるいは、GBIRMの使用を特定の状況、例えば、反撃の状況や日本への攻撃が差し迫っているときに敵のミサイル・サイトにのみ限定することも可能であろう。

この「敵基地攻撃」能力は、日本の抑止力に関するより広い議論の中で主要な論点となった。本稿執筆時点でもこの議論は続いており、近い将来、日本が何らかの敵基地攻撃能力を導入する可能性があると見られている。しかし、ここから導き出される結論は、GBIRMを日本と共同開発し、日本が独自に配備・運用する ことは可能であるが、日本は専守防衛を志向してその範囲や用途を制限する可能性があり、中国に 地理的に近い日本にとってこの選択肢の実現性には限界があるということであろう。

●危機発生時、戦場への迅速な展開
第2の選択肢は、危機が発生した際に米国がGBIRMを迅速に配備することである。同盟国が中国との紛争の当事者でない場合、その同盟国は自国の領土にミサイルを受け入れることはないだろう。そうすれば、中国から見て事実上の交戦国になりかねないからだ。
しかし、紛争が勃発し、同盟国が中国の攻撃の標的になった場合、その計算がワシントンに有利になり、米国は積極的な防衛手段として同盟国の領土に GBIRMを迅速に配備することができるようになると思われる。このオプションは、恒久的なシステムを求めることに関連する政治的困難を回避することができる。

●平時のローテーション 配置
同盟国は、米軍の新たな常駐について敏感な反応を示すかもしれない。この懸念を最小化する第 3 のオプションは、GBIRM システムの平時ローテーション配備である。常時配備と同様、ローテーション配備は同盟国に米国の決意とコミットメントを示し、米軍のミサイルが配備されているときに何かが起これば、米国は地域の出来事に迅速に対応することが可能になる。作戦上の利点はそれだけではない。論理的には、ローテーション配備により、米国はシス テムを定期的に地域内に移動させるという大きな負担を負わさ れることになる

●グアムまたは自由連合国家のいずれかに配備されること
米国が持つ最後の選択肢は、米国領グアムか、自由連合協定に加盟する3つの主権国家(ミ クロネシア連邦、マーシャル諸島、パラオ)にこれらのシステムを配備することであり、これらの国 はいずれも、米国が各州の防衛と安全に責任を負っていることから特別な軍事アクセスの機会を提供し ている。自由連合協定により、米国は「その権限と責任の行使に必要な活動および作戦」を行う ことを許可されている。

このオプションに欠点がないわけではない。一つは大きさである。第一列島線から遠く離れた島々にミサイルを配備することは、中国のミサイルが到達しにくくなるため、生存性の面で米国に有利であるが、これらの島々は比較的面積が狭いため、機動性だけで生存性を確保するには問題がある。また、GBIRM を中国や北朝鮮に近づけることの利点は、台湾海峡などへ短距離で到達させ、紛争 の初期段階で迅速な対応を可能にすることにある。従って、グアムや自由連合国だけにミサイルを配備することは、米国にとって作戦上不利になる可能性がある。

●地上配備型中距離ミサイル(GBIRM)の日本配備

――最も妥当な選択肢日本が、スタンドオフ・ミサイルの能力を開発するのを助ける。

米国がインド太平洋地域のためにGBIRM を追求し続けるならば、次善の選択肢として、本報告書で推奨するのは、最初の選択肢のバリエーションである、日本が既に開発している地上発射型スタンドオフ・ミサイルに最初の焦点を当て、日本とのミサイル共同開発および日本へのミサイルの売却である。

先に述べた同盟国の中で、日本が最も同意する可能性が高い。しかし、このように日本であっても、米国の GBIRMシステムを導入することは、特にその攻撃的な性格から、政治的に困難である。特に、攻撃的なシステムであるため、日本が運用するとしても、その範囲や使用方法に制限がある可能性がある。日本が独自の長距離攻撃能力を追求する決定は、国内での多大な反対を生み、中国(および北朝鮮と韓国)のほぼ確実な反対を考慮すると、地域の不安定化を引き起こす可能性が高いため、米国は日本が運用する地上発射型対艦巡航ミサイル(ASCM)システムを共同開発するか、FMSを通じて販売することが最善の方法であると考えられる。この能力は、同盟国のイニシアティブとして認知され、機密性の高いものであることが予想される。

*米国の地域同盟国の中で日本が選ばれた理由は、中国に近いことと、中国に対するミサイル能力を強化するために現在進めている取り組みに米国が連携していることである。

●中距離ミサイルを琉球列島配備する!

*2016年、日本は南西諸島の4つの島に自衛隊の施設を設置し始めた。2016年に与那国に設置されたのを皮切りに、2019年3月には奄美大島と宮古の2カ所に設置された。石垣島に設置される4基目は、2023年3月に竣工する見込みだ。
この自衛隊の拡張の重要な部分は、これらの島のうち3島(与那国島を除く)に地上発射型地対空ミサイル(SAM)部隊とASCM部隊を配備していることである。陸上自衛隊は、SAM について、03型中距離 SAMの配備を増やすとともに、03型の射程50kmと最大交戦高度 10,000m に対して、最大射程 100kmとなるよう改良している。
さらに、陸上自衛隊は、2019年から奄美大島に、2020年から宮古に、高性能な12式ASCM砲台の配備を開始した。石垣への配備は2023年までに予定されている。最大射程200kmのASCMは、海岸から遠く離れた日本領土に接近する敵艦を攻撃することができる。

* これらの地上配備型ミサイルに加え、近年、日本は他のタイプのスタンドオフミサイルの能力も追求し始めている。これには、統合打撃ミサイル(中距離対艦ミサイル)と統合空対地ミサイル(JASSM、空対地精密ミサイル)が含まれる。当初はJASSMという名称のみが使用されていたが、後にJASSM-ER(ExtendedRange)であることが明確にされた。メディアはこれらのミサイルの射程をおよそ500kmから900kmと報じているが、これは正確なものであろう。日本はまた、ASM-3 と呼ばれる改良型超音速ASMの開発にも着手している 。

重要なことは、これらの努力の一部は地上発射型の構想であり、最近のミサイル射程延長の動きと一致するため、日本の努力は、将来、射程の長い類似の地上発射型システムを保有する可能性を示唆していることである。したがって、米国は中国の深部を攻撃できるミサイルに焦点を当てるのではなく、日本と在日米軍を防衛するために陸上で海をコントロールするという作戦目的を持つミサイルに焦点を当てるべきである。ASCMは、日本が防衛に重点を置くことができるため、対地攻撃や深部攻撃よりも政治的に議論しやすく、それによって法的な問題の可能性を減らすことができる。しかし、これらのシステムを既存の自衛隊基地のフェンスライン内に配備することができれば、米国が運用するGBIRMや自衛隊の新基地を建設する場合よりも、克服すべき政治的ハードルは大幅に低くなるであろう。

重要なことは、日本が既に開発している地上配備型ミサイルを中心に、日本との共同開発や日本へのASCMの売却は、米国の長期的な戦略の第一歩と考えるべきということである
地上配備型長距離ミサイル(ASCM)の日本への即時配備は、先に述べたような多くの微妙な要素を考慮すると、あり得ないことである。しかし、時間をかければ、最近東京が行ったように、ミサイルの射程を拡大することは可能かもしれないが、深部への攻撃はありえない。スタンドオフ・ミサイルに対する国民の反対がなくなり、国民が攻撃的能力であることを心配しなくなれば、米国は日本が独自に、または米国と共同で、より射程の長いASCMを調達するよう促すことができるかもしれない。

*中国への深部攻撃はできないが、南西諸島や九州のどこかに配備すれば、台湾海峡、東シナ海、中国東海岸の一部の船舶の動きをカバーできるため、中国の資産を戦争計画上のリスクとして保持できる範囲が広がり、台湾海峡での海上阻止作戦に貢献する可能性がある。

日本の長距離ASCMを南西諸島に配備することは、コストと利益が混在することになる。陸上自衛隊はASCMやSAMを含め、そのプレゼンスを高めているため、最小限の抵抗で自然に軍備に組み入れられると思われるしかし、これらの島と関連する基地が比較的小さいことを考えると、1つの問題は物理的なスペースかもしれない。もう一つの問題は、防衛である。基地自体が小さく、比較的小さな島にあるため、撃ち落としやデコイを大量に配備するための敷地があまりなく、ミサイル基地の強化や防空・ミサイル防衛の強化に大きな負担がかかる。

●日米共同のミサイル作戦計画・共同司令部の設置


*現在の同盟のBMDシステムが統合されているように、米国と統合されるべきものである。最低限、いつ、どのように、どの目標にミサイルを使用するかを詳述した作戦計画を共同で作成することが必要である。また、日本の作戦統制下にある共同・統合火器司令部の設置や、BMDとスタンドオフミサイルの両方を含む複数領域の共同司令部をサイバーや宇宙という新しい領域と一緒に設置することなども考えられる。

●米インド太平洋軍が明言しているように、米国は日本からフィリピンまでの第一列島線に精密打撃ミサイルを配備したいのである。米国インド太平洋軍は、第一列島線に GBIRM を配備することで、紛争が勃発した後、米国が迅速な対応攻撃を行えるようになると考えているようである。この報告書の評価からすると、米国の GBIRMのための第一列島線のホスト国を見つける見込みは乏しい。

日本の地上配備型 ASCM は、当初は米国の多くの GBIRM 案よりもはるかに射程が短いものである が、それでも米国の利益になる。なぜなら、米国とそのパートナーは、東シナ海での中国の行動に対抗することで、中国の容易な勝利を否定できる、多様なタイプと射程、空・海・陸上基地を持つミサイルの組み合わせ を見つける必要性に迫られるだろう。これらのミサイルは中国への深部攻撃はできないかもしれないが、それでもリスクと戦争計画のコストを課す一方で、同盟に紛争時のオプションを増やすことができる。


●第4章 結論


エスパー前国防長官は、米国の GBIRM をホストするよう同盟国に要請したことはなく、辞退した同盟国もないこと、そしてこのプロセスは「数年」かかり、米国のパートナーとの「多くの対話」を伴う可能性があることを認めているが、GBIRM は開発後、どこかに配置されなければならないだろう。

このミサイルをどこに配備するかは、米国の意思決定者が米国の作戦目標を超えて、配備計画が機能するために同盟国が直面している政治的制約を考慮する必要がある。重要なことは、米国の GBIRM を同盟国の土地に恒久的に配備することには、非常に現実的な政治的難題があることである。したがって、空軍基地のような他の種類の米軍を受け入れている同盟国があるにもかかわら ず、そのような米軍を受け入れることはできない。

米国のGBIRMはより困難であるように思われる。平時に GBIRM を恒久的にホストすることに同意する同盟国に大きく依存する米国の戦略は、したがって、意欲的なパートナーを見つけることができないために、深刻な失敗 のリスクに直面することになる。

日本を除く同盟国がこうした米国の能力を受け入れることを控える可能性を考えると、米国は、理想的とは言えないかもしれないが、それでも中国の一部や中国の資産を危険にさらすことになる代替策を検討する必要がある。

地上発射型ASCMスタンドオフ・ミサイルの開発・配備に向けた日本の努力を支援することは、時間の経過とともに射程を拡大することを促す長期的戦略であり、最も有望な代替案である。

中距離ミサイル配備の関連資料(小西 誠・浦和講演会から)

参考文献 
*『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』
 https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784907127282



私は現地取材を重視し、この間、与那国島から石垣島・宮古島・沖縄島・奄美大島・種子島ー南西諸島の島々を駆け巡っています。この現地取材にぜひご協力をお願いします!