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対中国戦争へ突き進む日米の南西シフト

 「特定重要拠点空港・港湾」策定による空港・港湾の軍事化

昨年の日本の軍事化の中でもっとも顕著な動きは、11月の事実上の日米共同演習である自衛隊統合演習において、南西諸島だけでなく九州から岡山に至る民間空港を使用した戦闘機の演習(タッチアンドゴー)が行われたことだ(写真は徳之島空港でタッチアンドゴーを行う空自戦闘機)。

演習は、徳之島、奄美、大分、岡山空港などで行われたが、民間空港に突然現れ、轟音をたてて離着陸を繰り返す戦闘機に地元では驚きの声が広がった。

なお、自衛隊統合演習は、「自衛隊の人員約3万人、車両約3,500両、艦艇約20隻、航空機約210機に加え、米太平洋艦隊・陸軍・空軍、海兵隊等人員約1万人が参加」し、「我が国周辺海空域および民間空港・港湾」での「陸上・海上・航空作戦、水陸両用作戦等」からなると発表されている。

 さて民間空港の演習は、大分などの地元では大きく報じられ、反対運動も起きているが、全国紙は全く報じていない。この落差は、ここ10年の自衛隊の南西シフトに関する報道規制と同じだ。始まった民間空港の軍事化は、自衛隊の南西シフトの新たな段階であり、本格的な対中国戦争態勢づくりなのである。

 この統合演習は、昨年8月閣議決定「総合的な防衛体制の強化に資する取組について」によっている。閣議では、防衛力強化の目的で拡充する公共インフラ候補として、「特定重要拠点空港・港湾」を選定し、24年度予算に必要経費を計上するとして、10道県の33カ所の民間空港・港湾を指定(14空港・19港湾)し、そのうち16施設が琉球列島、九州、四国とされている(23年11月10日付日経新聞)。

 なお、この指定については、実際の施設を政府は公表しておらず、日経報道以後、東京新聞は40施設、朝日新聞は38施設と報じている。

 いずれの報道でも、指定空港は、与那国、新石垣、宮古、那覇、鹿児島、宮崎、高知などがリストに入っており、台湾有事の際、自衛隊部隊が展開、補給拠点として使用するとしている。また与那国、新石垣、宮古空港は、滑走路2千メートルを延長し、その他は、駐機場、誘導路(那覇空港)、格納庫を新設して自衛隊機が使用するとしている。

さらに与那国島には、護衛艦などが接岸可能な新港を造り、石垣港、宮古島平良港、那覇港、熊本港、博多港、高松港、敦賀港、室蘭港、苫小牧港などについては、岸壁を改修し護衛艦の接岸に備えるとしている。

重要なのは、民間空港・港湾の使用目的について、先の閣議決定は「安全保障環境を踏まえ……必要な空港・港湾等を整備し、自衛隊・海上保安庁の艦船・航空機が平時から円滑に利用できるようにすることが必要」としたうえで、有事には「航空優勢を確保し、我が国に侵攻する部隊の接近・上陸を阻止、状況に応じて必要な部隊を迅速に機動展開」と露骨に記していることだ。

つまり、デュアルユース(軍民両用)という名目で進められている空港等の軍民共有化の目的は、自衛隊が琉球列島の民間空港・港湾を、平時から演習などで活用するだけでなく、戦時には制海・制空権を確保するために、施設を軍管理下に置くということだ。

さらにもう一つの目的は、戦時における陸自の全師団・旅団の南西諸島への大動員―機動展開の一環として空港等を確保するということである。

付け加えると、特定重要拠点空港・港湾については「平時から活用」としているが、指定公共機関とされている空港・港湾やフェリーなどの船舶・交通機関(及び労働者)は、戦時には有無を言わさず徴発・徴用される(「武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律」等)。

 国家防衛戦略(NDS)で決定された空港・港湾の軍事化

閣議決定の「特定重要拠点空港・港湾」は、22年12月策定の国家安全保障戦略・国家防衛戦略の有事態勢づくりに基づく。国家防衛戦略では、閣議決定とほぼ同文の「島嶼部を含む我が国への侵攻に対しては、海上優勢・航空優勢を確保」「輸送力・航空輸送力の強化」が謳われ、「特に島嶼部が集中する南西地域における空港・港湾施設等の利用可能範囲の拡大や補給能力の向上を実施」するとしている。

これまで自衛隊の南西シフトは、琉球列島のミサイル基地化を中心に進められてきたが、今や状況は、第2段階の本格的な戦時態勢づくりへ移行しつつあると言ってもよい。ここでは、本土から南西諸島への全自衛隊の大動員―機動展開や、弾薬など継戦能力、兵站拠点の強化、さらには制海・制空権確保のために、琉球列島の主要な民間空港・港湾の軍事化=軍民共有化が決定されたのだ。

つまり、「台湾有事」を喧伝しながら、沖縄から日本全土へ戦時態勢づくりが、文字通り実戦を想定しながら本格的に開始されているのである。

 国家安全保障戦略・国家防衛戦略による戦時態勢

周知のように、22年防衛力整備計画では、防衛費約43兆円(5年間)の予算が決定された。従来の中期防衛力整備計画の、5年間で約27兆円という規模から一挙に2倍化し、年平均でも9兆円超、最終年度には約11兆円の軍事大国(世界第3位)という、とてつもない規模となる。まさにこのような急激な軍事予算の拡大は、「戦時増税」なくしてなし得ない。あのアジア太平洋戦争で乱発された戦時国債発行が、事実上始まるのだ。

ところで、決定された凄まじい軍事予算については、この規模に目を奪われ、反戦平和団体などでも「軍拡反対」と一般論を唱えるむきが多い。しかし、これを「軍拡反対」というだけでは、この軍事予算への人々の危機感は伝わらないのではないか。この政府の大軍事予算の決定は、対中国戦争(台湾有事を含む)の、本格的な発動態勢、つまり 「戦争に勝つ」ため、「ミサイル戦争に勝利する」ための軍事態勢づくり(敵基地攻撃能力の付与を含む)として、明確に認識すべきだ。安保関連3文書の発表に際し沖縄各紙は、これを「沖縄文書」として位置付けたが、それは的確な認識であった。

 安保関連3文書では、以下が重点的に策定された。
① 長射程ミサイルの開発・配備と量産化(1500キロ射程、1500発のミサイル)
配備の重点は「スタンド・オフ防衛能力」として「12式地対艦誘導弾能力向上型」(地上発射・艦艇発射・航空発射)の開発、早期配備の開始と統合ミサイル防衛。これにより、現在の6個ミサイル連隊(23年度内の第7ミサイル連隊新編を含む)にプラスして、第8地対艦ミサイル連隊の新編(長射程)が決定。配備先は、24年度内に大分・湯布院駐屯地である。

②2個「島嶼防衛用」高速滑空弾大隊にプラスし、2個「長射程ミサイル部隊」(極超音速ミサイル部隊+トマホーク部隊)の開発配備が決定された。
トマホークの配備については、400発を米国から購入(2113億円超)、今年度に一括で200発を購入し、25年度に前倒し配備する。

③ 南西諸島の陸自の大増強については、沖縄・陸自を旅団から師団に昇格し、1個連隊を増強
従来の南西シフトの「3個師団・4個旅団・1個機動師団」であった南西緊急増員部隊を「全師団・全旅団」の機動展開態勢とする。                                                                 

④ その機動展開のための輸送力を大増強し、陸自輸送艦、PFI船舶を増強(2隻から3隻)し、新たに「自衛隊海上輸送群」を新編する(陸自初の海上部隊)
また、この機動展開のために、民間船舶・航空機の利用を拡大し、特定重要拠点空港・港湾(軍民共用施設)を指定する。

⑤ この態勢を遂行する継戦能力・抗湛(こうたん)化を強化する。
ここには全国部隊の司令部の地下化、戦闘機掩体壕の強化などと、弾薬の大量備蓄を行う(大分・京都などの大型弾薬庫など約130カ所の弾薬庫新設・増設)。

これらの予算の意図については、防衛力整備計画に明確に現れている。図の「配分」が示すように、ミサイル予算が約8兆円であり、予備弾薬などを含む継戦能力・抗湛性に約15兆円が当てられている。まさしく、沖縄シフトの予算編成だ。 

南西諸島住民の棄民政策

1月30日付朝日新聞や沖縄各紙の報道にあるように、政府・沖縄県は、宮古島などの先島諸島住民を有事に避難させる図上訓練を昨年に続き行った。訓練は、「台湾有事」を見据えて、沖縄県全域を「要避難地域」と想定し、先島諸島5市町村の住民約12万人、観光客約1万人を、最短6日間で航空機・船舶を使用し九州・山口県に避難させ、沖縄島の約130万人については「屋内避難」とし、来年度までに避難計画を策定するとしている(沖縄島が島外避難でないのは避難不可能であるということだ)。

新聞報道でも「現実味ない」という見出しを付けられた避難計画は、現実味がないどころか、空論そのものだ。

実際、国民保護法による住民避難を開始するには、政府の「武力攻撃予測事態の認定」を前提とするが、こんな認定を日本政府が行うとすれば、中国への「宣戦布告」と受け取られかねない。

また、その認定下の有事に住民避難を行うとすれば、避難する航空機・船舶は、敵の攻撃の的となりかねない。軍用船を住民避難に使用した対馬丸事件の二の舞になるだけだ。

攻撃の的になるのを避けるには、避難する航空機等が「特殊標章」(オレンジ色地に青色の正三角形)を付け、純粋に民間航空機・船舶(軍民分離)であることを示さねばならない。したがって、この避難に使用する航空機などを自衛隊が提供するというのは、自衛隊の輸送機関の圧倒的不足の問題だけでなく、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書(第48条など)が規定する「軍民分離の原則」からして、あり得ない状況だ。

国家防衛戦略などでは、自衛隊が住民避難を行うかのような文言が記されているが、実際に自衛隊が住民避難を行うことはない。自衛隊の各種文書にも以下のように明記されている。

「防衛省・自衛隊は、武力攻撃事態等においては、我が国に対する武力攻撃の排除措置に全力を尽くし、もって我が国に対する被害を縮小化することが主たる任務……主たる任務である我が国に対する武力攻撃の排除措置に支障のない範囲で、国民保護等派遣を命ぜられた部隊等又は防衛出動・治安出動を命ぜられた部隊等により、可能な限り国民保護措置を実施する」(防衛装備庁国民保護計画[2005年]等)

 問題は、このような空論というばかりか、沖縄住民の棄民政策としか言えない避難計画が、政府主導の下に、強引に作られつつあるということだ。しかも政府は、昨年から官房長官の担任下で、九州各県に避難民の受け入れ要請を行うという状況になっている(下図は与那国島に提示されたもの)。

そして、このような棄民政策に加えて、現在政府が押し進めているのが、先島諸島での戦時シェルター造りだ。実際、宮古島では、再建される市総合体育館に地下施設として防衛予算からシェルター建設費用を提供することが決定。また与那国島でも、石垣島でも、シェルター建設の動きが広がっている。

 これを何と言っていいのか! 基地建設の際は「島の住民を守るため」と騙し、今日に至っては、住民避難、シェルター造りだ! 先島諸島などの住民は、「台湾有事」下の海洋限定戦争態勢に置かれ、全ての島がミサイル基地化され、要塞化し、挙げ句の果てに、全島が無人化されようとしている。かつての硫黄島のごとく。

「台湾有事」とはなにか?

ところで、このような琉球列島の軍事化について国家防衛戦略では、繰り返し「2027年」までの態勢づくりが明記されている。例えば「5年後の2027年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化する」と。

「2027年危機説」は、21年3月、当時のインド太平洋軍司令官デービットソンが吹聴した「中国の台湾侵攻説」であるが、これが政府の公文書にまことしやかに明記されるという、とんでもない状況だ。実際は何が生じようとしているのか?

国家安全保障戦略が発表される2カ月前の10月、米国は国家防衛戦略(NDS)を発表した(この日米文書の名前・内容・時期の同一性に注意)。文書の核心は、中国を「最も重要な戦略的競争相手」と表現し、ウクライナ侵攻を行ったロシアよりも優先課題と位置付けたことだ。「米国の安全保障に対する最も包括的で深刻な挑戦は、インド太平洋地域と国際システムを自らの利益と権威主義の好みに合うように作り変えようとする中国の強圧的でますます攻撃的になる努力である」と。

米国の公式文書として「新冷戦」を宣言したと言えよう。つまり、国家防衛戦略による米国の政治目的は何か? これは米国にとって替わろうとする中国のアジア太平洋での覇権の阻止であり、その政治目標は中国共産党政権の瓦解だ。また軍事目標は、そのための「中国海軍の壊滅」(海洋限定戦争)である。その歴史的現実性は、旧ソ連を軍拡競争で瓦解させた米国の東西冷戦戦略が証明している。

 危機の正しい認識を!

結論は明らかだ。
日米の「台湾有事」論は、日米の対中国軍拡競争(新冷戦)、覇権争いが主目的である。だがこの中国封じ込め政策は、いずれ米中日の軍事衝突へ行き着く。米国は、そのために「台湾カード」で中国を揺さぶり挑発し、対中対決を正当化する国際世論を形成しようとしている。これに対し中国は、「尖閣カード」で日本へ対処(疲弊させる)し、日米は「南中国海カード」(南シナ海)で揺さぶりをかけ、「航行の自由作戦」を常態化させている。

つまり、この危機的状況では、戦争は南中国海・東中国海か、台湾海峡か、あるいは尖閣か、どこからでも起こり得るという事態なのだ。繰り返すが、今始まっているのは、日本の大軍拡一般ではない。文字通りの戦争態勢がうなりを上げながら作り出されようとしているのだ。戦火が地鳴りを響かせ、近づきつつあるのだ。

 南西シフトは、政府・自衛隊において琉球列島での島嶼戦争―海洋限定戦争として想定されているが(沖縄県避難計画を見よ)、この戦争は、まずは「局地戦」として始まるということ、戦争の敷居が低いことについて、正しく認識すべきだ。中国との戦争は核戦争になる、中国とは経済的相互依存関係にあるから戦争はあり得ない、という根拠のない認識は持つべきではない。ウクライナ戦争にみるように、現在の戦争は、小衝突、局地戦、限定戦争として低い敷居によって勃発する。

 しかし、これは戦争の初期段階での様相であり、この戦争が局地戦として限定されることはあり得ない。戦争は、中長期的には沖縄・琉球列島から九州―日本全国へ、そしてアジア太平洋の全域を巻き込む戦争へと拡大することは必至だ。

 この戦火を止めるためには、今進行しつつある琉球列島軍事化の状況を正確に見据え、これと対峙することが重要である。
今なら、まだこの戦争は、止められるのだ!

*注 本稿は『アジェンダ  未来への課題』 第84号(2024年春号)寄稿文
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著者略歴
小西 誠(こにし まこと)
1949年、宮崎県生まれ。航空自衛隊生徒隊第10期生軍事ジャーナリト・社会批評社代表。2004年から「自衛官人権ホットライン」事務局長
著書に『反戦自衛官』、『自衛隊の対テロ作戦』、『マルクス主義軍事論入門』、『現代革命と軍隊』、『自衛隊 そのトランスフォーメーション』、『日米安保再編と沖縄』、『自衛隊 この国営ブラック企業』、『要塞化する琉球弧』、『自衛隊の島嶼戦争(part1・part2)』、『ミサイル攻撃基地と化す琉球列島』、『最新データ&情報2024日米の南西シフト』(24/2/9電子ブックで発売)、以上、社会批評社刊などの軍事関係書多数
また、『サイパン&テニアン戦跡完全ガイド』、『グアム戦跡完全ガイド』、『本土決戦 戦跡ガイド(part1)』、『シンガポール戦跡ガイド』、『フィリピン戦跡ガイド』、『金門島 戦跡ガイド』(22/10電子ブックで発売)、『最新データ&情報2024 日米の南西シフト』(電子ブック・アマゾンペーパーバックス)などの戦跡シリーズほか


私は現地取材を重視し、この間、与那国島から石垣島・宮古島・沖縄島・奄美大島・種子島ー南西諸島の島々を駆け巡っています。この現地取材にぜひご協力をお願いします!