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急ピッチで具体化しつつある米軍の中距離ミサイルの日本配備!

●日本への中距離ミサイル配備問題

これは、今後の対中戦争態勢の、最大の重要問題になるので、拙著『ミサイル攻撃基地と化す琉球列島』から、当該カ所の一部を引用・紹介(同書「第5章 琉球列島のミサイル戦場化」)。 

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中距離ミサイルの琉球列島――九州配備

 INF条約廃棄後のアメリカは、急ピッチで地上発射の中距離ミサイルの開発を進めていることが報じられており、すでに琉球列島――九州・日本へのミサイル配備についても報道がなされている。ところが、日本政府・防衛省は、この米軍の中距離ミサイル配備について、アメリカ側からは、今日まで「打診」はないと否定している。

 しかし、この政府・防衛省の発言は、眉唾ものだ。これまで叙述したとおり、米軍は、海兵隊・陸軍とも、急ピッチで琉球列島・第1列島線へのミサイル配備態勢を進めているからである。

 ところで、これらの米軍の中距離ミサイル配備について、自衛隊はもとより、非政府側の評論家、軍事ジャーナリストまでもが、中国軍との「中距離ミサイルギャップ」を主張している。曰く、「中国軍の保有する中距離ミサイル1250発に対して、米軍のその保有はゼロ」であると。

 「現代戦に欠かせない中距離ミサイルの所持数は、中国が1250発なのに対し、米国はゼロだ。冷戦期の1987年、米国がソ連との間で結んだ中距離核戦力全廃条約により、射程500~5500キロメートルの核弾頭および通常弾頭を搭載する地上発射式の弾道ミサイルと巡航ミサイルの保有を禁じたためだ。一方、INF条約とは無縁だった中国は各種ミサイルを開発し、1250発の中距離ミサイルを持つに至った。米軍が『空母キラー』『グアムキラー』と呼ぶ特殊な中距離ミサイルも保有し、台湾有事には米艦艇が第1列島線に近づくのさえ難しい」(半田滋、21年6月9日付「現代ビジネス」)

 非政府系の軍事ジャーナリストと称する人物が、堂々とこんなフェイクを流し、「台湾有事」を煽動する。今起きている状況は、こんなに酷いものだ。

 この中国軍と米軍のミサイルギャップ――中国軍が1250発の中距離ミサイルを保有しているのに米軍はゼロという主張が、いかにフェイクなのか、事実を見れば明らかだ。確かに、米軍はINF条約に縛られ、「地上発射」の中距離ミサイルは、現在保有していない。

 だが、米軍は、「潜水艦発射」「水上艦発射」の中距離ミサイル――巡航ミサイルの多数を保有していることは明らかだ。

 例えば、米海軍の潜水艦発射巡行ミサイル(SLCM)を搭載する、改良型オハイオ級原子力潜水艦には、22基のトマホークが搭載されている(1基に7発のトマホークを装填、1艦あたり最大154発)。このオハイオ級原潜は、4隻あるから、合計で最大616発のトマホークが搭載可能である。なお、米海軍は、2021年2月、東アジア地域でこのオハイオ級原潜の姿を公開し、排水量1万8千トンの巡航ミサイル搭載潜水艦が沖縄周辺で、米海兵隊と共同訓練を行う様子を見せつけたのである。

 原潜だけが、トマホークを装備しているのではない。米海軍の水上艦艇も、多数のトマホークなどを装備している。例えば、米議会の資料によると1990年代初め、横須賀に在留する米海軍巡洋艦「バンカーヒル」と「モービルベイ」は、それぞれ26発のトマホークを、駆逐艦「ファイフ」は、45発のトマホークを搭載していた。巡洋艦「サンジャシント」は、122基の発射管全てにトマホークを装備してたという(『情報公開法でとらえた在日米軍』梅林弘道著・高文研)。

 見てのとおり、中距離ミサイル保有について、米軍ゼロというのは完全なフェイクである。正確に言えば、今まで、米軍の「地上発射」中距離ミサイルについては、ゼロだったということだ。

 言い換えると、今現在、米軍が目論んでいる「中距離ミサイル問題」は、地上発射を含む潜水艦・水上発射の中距離ミサイル保有量において、中国軍を圧倒する中距離ミサイルを保有しようとしていることだ。

 ところで、このような米軍による、日本への中距離ミサイル配備問題が現実化する中で、朝日新聞は、元米国防総省東アジア政策上級顧問のジェームズ・ショフへのインタビュー記事を大きく掲載した(2021年7月26日付)。これは、重要な内容であるから、当該箇所を引用しよう。

 

「日本の反撃能力、極めて重要な補完に

 ――アジア太平洋での米軍の展開はどうなりますか。

 「米国はアジアの複数の地域に長距離射程のミサイルを配備したいと考えています。米国は今後、同盟国・友好国と協議を行っていくことが大切です。そのときに、同盟国・友好国は『我々はあなたたちのミサイルをここに配備して欲しくない。その代わり、我々自身でその能力をもとう』というかもしれません。さまざまな協議が必要となるでしょう」

 ――日本へのミサイルの配備についての可能性はどうみていますか。

 「中国を攻撃するミサイルを日本国内に配備するのはとても難しい状況だと思います。米側は、日本でミサイル防衛のためのイージス・アショア(陸上イージス)ですら配備するのがいかに難しいかをすでに見ています。私には、米国のもとでコントロールされる攻撃型システムを、日本国内に配備することが実際に可能かわかりません。仮に安全保障環境に厳しさが増せば、最も早い方法として米国の能力を日本国内に導入するという可能性はあると思います」

 ここでは、米軍の日本への中距離ミサイル配備が既定路線であることが言われている。しかし、重要なのは、この中距離ミサイルの日本配備の困難さを米軍が承知しているということだ。そこでジェームズ・ショフは言う。「我々はあなたたちのミサイルをここに配備して欲しくない。その代わり、我々自身でその能力をもとう」と。

 今、日本で進行している状況は、まさしくジェームズ・ショフが言うように、日本・自衛隊が、トマホークを始めとする中距離ミサイルを開発・配備し始めているということだ。もちろん、だからといって、米軍が日本への中距離ミサイル配備を諦めたわけではない。日本の政治状況を見ながら、虎視眈々と配備発表の時期を見ているのである。


 中距離ミサイルは核搭載か?

 ところで、米軍が日本に配備しようとしている中距離ミサイルについて、最初に報じた琉球新報もそうだが、反戦平和を唱えている人々も、この中距離ミサイルが核装備した、「中距離核ミサイル」であると主張している。しかし、この認識は、残念ながら軍事的リアリティーを理解しない認識だ。日米の南西シフトについての認識がない、とも言える。

 すでに述べてきたように、米軍は、水上艦、原潜ともに、トマホークを始めとした中距離ミサイルを装備しているが、「中距離核ミサイル」「中距離核弾道ミサイル」についても、原潜や水上艦に多数装備していることは周知の事実である。

 これらの、核ミサイルを装備した米海軍の艦艇などは、特に原潜は、アジア太平洋を秘密裡に遊弋していることも、見てきたとおりである。

 この秘密裡に、すなわち、100%近く秘匿して作戦行動をとっている「核ミサイル」を、なぜ、わざわざ地上に配備するというのか。中国軍との「ミサイルギャップ」で、米軍が圧倒的ミサイルを保有したいとしても、そんな危険な「中距離核ミサイルの地上配備」という手段はとらない。

 米軍の中距離ミサイルは、確かに車載式、移動式のミサイルと想定されている。新型トマホークについても、それが報じられている。しかし、地上配備のミサイルである限り、航空攻撃だけでなく、ゲリラによる攻撃からも無傷でいることはできない。つまり、中距離核ミサイル、核搭載ミサイルという貴重な、危険なミサイルを「野ざらし」にするという冒険を米軍は起こさないだろう。

 そして、認識すべき大事な問題は、この「中距離核ミサイル」保有論者は、日米軍の南西シフト、つまり、対中国へのA2/AD戦略――通峡阻止作戦を軸とする対中戦略を認識できていないということだ。ここでは、「海洋拒否戦略」を始め、核の閾値以下に収めることが強調されているのである。

 もちろん、日米がこのような対中戦略を推進していく限り、この「島嶼戦争」=海洋限定戦争は、通常型の戦争から、将来、核戦争にまで突き進むことは、必至と言えるだろう。だが、問題は、繰り返し述べてきた、日米の「島嶼戦争」論、「海洋拒否戦略」という認識をしない限り、現在急ピッチで進行するアジア太平洋の軍事的危機――戦争の危機を見据えることはできないのだ。

 付け加えると、ジェームズ・ショフを始めとして、アメリカ政府、日本政府が恐れているのは、単に、日本国民の「反対世論」というだけではない。中距離ミサイルの琉球列島―日本配備は、この中距離ミサイルが中国までおよそ10分前後で着弾するということから、中国は全く防御することも、対処もできないということだ。この問題は、1980年代にヨーロッパで中距離核ミサイルが配備されときから大きな問題になったことであるが、この防御不可能のミサイル配備は、いわゆる「抑止力」が全く効かない、相互に戦争自体を誘発しかねないとして、INF条約を締結する契機になったのである。

 言い換えると、琉球列島―日本に中距離ミサイルを配備することは、中国に防御不可能の刃を突きつけることであり、中国軍が唯一、優位性を保っているミサイル態勢を奪うということであり、これは、中国との深刻な外交的・政治的危機を生じさせることになりかねない。キューバ危機のような事態を、生じさせるかもしれないということだ。

(仮に、中距離核ミサイルの配備となれば、日本政府は「非核三原則」を葬るということになり、日本ばかりか世界の世論を敵にすることになる。現段階では、日本政府がここまで愚かな選択をすることはない。これは、政治のリアリティーを理解していない主張である)

ミサイル攻撃基地となる琉球列島

 第3章において筆者は、海兵隊「フォース・デザイン2030」において、新たに創設される海兵沿岸連隊が、第1列島線にトマホーク配備を検討していることを叙述してきた。これについて、2019年、CSBAは「INF後の世界における米国の戦域ミサイルの再導入」というトシ・ヨシハラらの署名する提言を発表しているが、ここでは、米軍が予定する中距離ミサイル導入の候補は、トマホークが有力であるとしている。

 「戦域ミサイルを実戦配備するための最も簡単な短期的手段は、おそらく地上発射型・陸上攻撃ミサイルのトマホーク(TLAM)である。米国はすでに多くの中距離TLAMブロックⅣを保有しており、直近の2018年度のトマホーク大量購入費用は、1発あたり140万ドルであった。ランチャー1台に4発のミサイルを搭載した場合、TLAM400発とランチャー50台の取得にかかる総コストは14億ドルとなる」と、その配備のコスト計算まで行われている。

 ところで、このCSBA提言は、また「米国の同盟国が地上発射型ミサイルの配備のために自国の領土へのアクセスや使用を拒否する可能性がある」が、「同盟国が平時にはミサイルを保有したくないと考えていても、危機の際にはミサイルが同盟国に配備される可能性があり、一部の長距離の戦域ミサイルは米国の領土に配備される可能性もある」としている。つまり、中距離ミサイルの日本への「有事展開」をも検討するということだ。

 さらに、CSBA提言は、「戦略家や政策立案者の中には、米国が地上発射型の戦域ミサイルを配備することに対して、考慮すべき重大な懸念を表明している人もいる。 まず、米国の地上発射ミサイルの配備は、新たな軍拡競争の引き金になると主張する人がいる」と述べるが、言うまでもなく、中距離ミサイルの琉球列島――九州・日本配備が、アジア太平洋での米中露日、あるいは朝鮮までも巻き込む、激しいミサイル軍拡競争になることは明らかである。

 この事態は、キューバ危機のような一過性の危機ではなく、あるいはまた、1980年代ヨーロッパのような局地的危機ではなく、アジア太平洋全域を巻き込むミサイル戦争の危機になりかねない。そして、その最前線に立たされようとしているのが、先島・沖縄なのである。

 知られているように、沖縄には、1960年代の東西冷戦下において、沖縄島の読谷村・恩納村・勝連半島など4カ所に「中距離核ミサイル」メースBが配備されていた。これは当時、各8基・発射機32台配備と言われていた。メースBの射程距離は、2200キロで、中国大陸を狙って配備されたことは明らかであった。このメースBは、1962年には、一度、誤って発射命令が下されたことがあるという。

 すでに述べてきたが、勝連半島の陸自・勝連分屯基地には、陸自の地対艦ミサイル中隊とミサイル連隊司令部が、2023年配備と発表されている。今再び沖縄――琉球列島が、最前線の戦場とされようとしているのだ。

 しかも、この戦場はミサイル戦争の戦場であり、先島・沖縄――琉球列島全体が対中国のミサイル発射基地となるのである。従来は、自衛隊のA2/AD戦略のもとでの、これらの琉球列島の位置は、「島嶼戦争」=通峡阻止作戦下の「拒否的抑止」という、どちらかというと防御的(中国軍に対する海峡封鎖作戦という意味では攻撃的)な戦略であった。だが、政府・自衛隊の「敵基地攻撃能力」の保有、装備という事態下では、すなわち、日本型巡航ミサイル、トマホークを始めとした、「日本版・中距離ミサイル」を保有しようとする状況下では、まさしく、琉球列島自体が、対中国に向けた「攻撃的ミサイル発射基地」となるのだ。

 言い換えると、これまで沖縄――琉球列島は、中国との「島嶼戦争」の「防波堤」(万里の長城)としてあったのであるが、今や、中国との全面的な「ミサイル戦争の攻撃基地」として位置づけられたということである。

 海洋プレッシャー戦略、海兵隊「フォース・デザイン2030」などの、米軍のA2/AD―海洋拒否戦略は、この「琉球列島のミサイル攻撃基地化」(攻撃拠点化)を、初めて、より明確に打ち出したのである。

 私たちの喫緊の課題は、今や中国へのミサイル攻撃の拠点――「中国本土攻撃基地」として位置づけられようとしている沖縄――琉球列島への各種のミサイル配備に対して、厳として対峙しなければならないということだ。

*全ての図は、CSBAが提言する「INF後の世界における米国の戦域ミサイルの再導入」(2019年)から引用。上は「海洋プレッシャー戦略」

『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』


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