若いから大丈夫(短編作品)
それは、成人式の時だった。懐かしの友人たちとの再会で話に花が開き、二次会にいくことになった。二次会の席で男子集団がうるさく騒いでいる。横目で見てみると
大家という男の頭頂部に注目している。人間の頭をボール球の如く、男子たちは交互に大家の頭を回している。
「えぇ! お前ぇ はやぁ!! 禿げてるやぁぁあん」
「うるせぇ 声でけぇ」
ゲラゲラと下品な笑い声が上がる。
私の友人が声を顰め、
「え、もう始まっちゃったんだぁ」
「あぁ、珍しくはないけどねぇ」と言った瞬間に記憶が蘇った。
小学校のとき、あの大家という男にコケにされたことがある。私の父が発毛促進薬の企業で働いていることを馬鹿にされたのだ。
そのことで、泣いて訴えると父は毅然とした態度で
「大丈夫!」
とざっくりと私を宥めた。父の促進薬は、販売実績は好調で、クリニックからの取引先も多かった。だから、大丈夫だったのだろう。
馬鹿にしたバチが当たったのだ。いい気味。
大家からは視線を外し、気付かれないようにした。
二次会が終わり、帰宅しようとしたところ大家に引き留められた。
案の定、子犬のような顔をしながら発毛促進薬の話をしてきた。詳しく聞きたいということで、店を変えて話そうと提案されたが、もちろん断った。
嫌悪しかない。また、予定を決めて話すのも嫌だったので、電話で相談した。
「恐らく、円形脱毛症だね。それに効く促進剤あるよ」
「おぉ、そうなんだぁ これも何かの縁だな! 助かるよ!そんで、お幾ら?」
「んー 詳しくわからないけど、あんたなら30%増しかなぁ」
「はぁ なんでだよぉ 嫌だよ」
「覚えてる?馬鹿にしたこと?」
「それは、気が合ったからだよ!」
「はぁ?」
なんじゃそりゃ!?どういった論理だ。
「男には、そーゆーのあるんだよぉ!」
「全く理解ができませんねぇ」
「そうっ それが男と女の違いさっ」
腹立つ男だ!
それが嫌なら、モーニングからディナーまで奢ってくださらない。
あっ ラーメンとかだめよぉ。不規則な栄養摂取が発毛促進を阻害するのっ
「えぇっ」
じゃぁ、3食、1000円以上する良いものってこと・・・・・・」
「そう。 私がバランス考えて、決めてあげるから安心して。」
「良いよぉ」
「じゃ、決まりね。また連絡するから そんじゃっ」
電話を切って咄嗟に思う。
あれ、なんか嫌な奴とデートの約束をしてしまった。
あれ、回り回ってあいつ、わたしに気が合ったて・・・・・・
ちょっと陥れてやろうと思ったら、巡り巡って嫌な奴とデートする羽目に。しかも、朝から晩まで。
やべぇ約束をしてしまった。
まぁ、でも食費が浮き、少しリッチな食事ができる。そして、以外と楽しいかも。
「大丈夫!」 そう自分に言い聞かせ、今度は父に電話を掛けた。
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