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今際の映画 (短編作品)

   

 恩師が50歳という若さで、この世から去ろうとしている。
僕は、そのことを聞いた途端、脱兎の勢いで故郷に戻った。
恩師との約束。はたせないでいる。
約束を果たしたら、最初に恩師に伝えるのが夢だった。だがそれも果たせなくなる。

病院につき、恩師に顔を合わせる。恩師は目を開けるまでもなく僕に気付く。
どっと涙が込み上げる。ここまで愛してくれているのだ。だが、もうこの愛ももらえなくなる。悲しみと絶望の淵にいる僕を救ったのは、ここでもやはり恩師だった。

「慎二くん。寂しくて、辛くて、やるせないときは映画を見るといいよ。君が来る前、実は映画を観ていた ははっ それ寂しくて、辛くて、やるせなかったから。でも、いつも映画に救われる。そして、僕が君に教えてこれたのも、映画があったからなんだよ。だから映画観て」

 これが、最後の言葉となった。
僕はそれから、映画を観る人になった。先生の教えの通り、映画は僕を救った。たくさん救った。時折先生の教えを受けているような気分になったし、先生と同じ気分を味わっているようで心から癒された。

恩師は映画になった。

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