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完全に理解した (森見登美彦『恋文の技術』)

こんばんは。たけのです。

ある程度読書をするようにしたいな、そう思いながらも時間を用意できない日々が続いていたが、積んでいた本を遂に1冊読み終えた。

積んでいたというか、読むぞ〜と思って毎日持ち歩いてはいた。その結果、読み進んでいないのに表紙の角がどんどん丸くなっていった。

noteを気軽に投稿することを今年の目標としているのもあるので、読んだ本の感想を、ここに記録していくようにしたい。

(※多少ネタバレを含むよ!)




森見登美彦『恋文の技術』

書簡体小説である。主人公の守田一郎が、様々な人に宛てて書いた手紙を読む形式でストーリーが展開する。

守田は京都の大学院生だ。研究者にはあまり向いていない気質の守田を見かねた教授の命令によって、京都から遠く離れた研究所に送られることになる。守田は、研究所でしごかれる日々を送りながら、気晴らしに京都にいる知り合いに向けて手紙を書きまくる「文通武者修行」を始める、という背景だ。

文通相手は、研究室の先輩後輩、妹、家庭教師をしていた教え子、森見登美彦(作品に作者本人が登場するの楽しいね!)、などなど。

守田が誰かのことを馬鹿にするときの表現がすごくいい。いろんな言い回しで表現すればするほど、守田の小物感が増していく。誰かに宛てた手紙の中から登場人物の性格なんかを魅せてくるの、すげ〜技術だ。作家さんってすごいんだわ。


また、守田には好きな人がいることが序盤で分かるのだが、その「伊吹さん」にだけはずっと手紙を出せずにいて、あれこれウジウジ考えている様が、いろんな人への手紙からわかる。

手紙自体は何度も書いている。書いているけれど、どうしても変な内容になってしまって出せない。
守田は「恋文の技術」を身につけて、それから意中の伊吹さんにも手紙を送ろう、そう言い聞かせながら試行錯誤を繰り返している。


大事な相手であるほど、想いが大きいほど、空回って変になっちゃうもんだよな〜〜!特に手紙は、推敲する時間が取れるからこそ難しい。送るまでに至るのが難しい。

本の構成として、宛てた人物ごとに章立てがされており、伊吹さんへ宛てた手紙は最後の方に出てくる。

ほかの登場人物に宛てた手紙ではすぐに調子のいいことをいうのにね、伊吹さんに対してはいろいろ裏目に出た文章しか書けないのが面白い。
失敗作の手紙を読ませてもらっている間、普通にキショすぎて声に出して笑ってしまった。


最後の最後に、ついに伊吹さんに送ったであろう手紙を読む。
その内容が良かった。良かった……。

最後の章を読み進めるまでは、他の人へ宛てた手紙にちょこちょこ伊吹さんの名前が出るだけで、伊吹さんがどんな人物なのか、というのはあまりしっかり読み取れない。
守田の性格上、自分が好意を寄せる相手のどこが好きかなんて、誰かにつらつら書いて送るようなことはしないだろう。

ただ、伊吹さんに宛てた手紙では、京都の研究室での思い出と、その中に居る伊吹さんの仕草や行動が書かれている。

守田が、様々な場面で伊吹さんを見ていること。憶えていること。守田のフィルターを通して、伊吹さんという人物のディティールが浮かんでくる。

特別好意を表すことばがなくとも、その憶えていること自体が、彼女を特別に想うことの証明になっている。

「恋文の技術」とは、「恋文っぽいことを書こうとしないこと」なのだ。
これが、守田がたどり着く結論となる。

なんか、ほんとにそうかもなって思う!!!!!

守田の伊吹さんに対する尊敬、憧れ、可愛らしく感じることとか、そういうのはすべて文字から染み出るものであって、そこに直接的な何かはない。
なんかやけに遠回しに、でもたしかにそこにあるような、そういう手紙になっている。

その遠回し加減がむずむずして、精一杯の見栄張りでもあって、素敵だなと思った。




以降は、読書感想文でなく、自分語りである。


この本は、自発的に買ったのではなく、贈り物としていただいた。

全体的に、とても読みやすかった。恐らく、ガッツリ読書する日を2日ぐらい設けていたら読めていたと思う。なのに8ヶ月かけた。

この小説の主な舞台は石川・能登である。
昨年、旅行で石川に行った。七尾市でも遊んだ。少し思い入れのある土地だ。今年の初めに大きな地震があったときも、そのときの思い出と、この本のことを想った。
本をくれたのは、そのとき、石川で一緒に過ごした相手だった。

七尾市に素敵なカフェがあった。あいにくの雨だったけれど、静かに雨音を聴きながら飲むコーヒーが美味しかった。その時間で心がいっぱいになったのをよく覚えている。

その後は何も心に入れられなくて、黙り込んで、一緒にいたその人を困らせた。


昨年、一人旅で江ノ島に行った際、この本を連れていった。水族館近くの海岸で、石段に腰掛けて読み進めた。

ずっと憧れだったかも。海辺で読書するの。
波の音が心地よかった。


旅先で読書をすれば、その旅の思い出と本が結びついて、インプットが捗る。ゆる言語学ラジオの水野さんが動画でそう話していた。

この本には、旅先での思い出、贈ってくれた人の気持ち、また、私からその人への想いが乗っている。

私は元々手紙というものが好きだから、友達や恋人に対して書くことが割とある。

このご時世に、わざわざペンを手に取って、フリック入力30分で伝えられるようなことを1日かけて書く。その行為自体が尊いと思っている。

「私にとって貴方は、それだけ頭と手と時間を費やすに値する存在なのですよ」というメッセージが乗るものだ。

私もまた、手紙を書こう。そう思っている。

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