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How I manage bacterial prostatitis

Clinical Microbiology and Infection Available online 13 June 2022
John C Lam, Raynell Lang, William Stokes
PMID: 35709903

Clinical Microbiology and Infectionの細菌性前立腺炎のnarrative reviewです.
【臨床像】
· 76歳の男性が3日間の経過で悪化する排尿障害、尿意切迫、骨盤/会陰部痛でERを訪れた.
· 男性はこれまで泌尿器系の問題や疾患を経験していない.
· 男性は発熱と血圧低下と頻脈も伴った.
· 診察では膀胱の膨満(bladder distention)を認めた.
· 血液培養と尿培養ではシプロフロキサシン耐性のESBL産生大腸菌が検出された.

【症例の経過①】
· 男性はESBL産生大腸菌による急性前立腺炎と診断された(画像検査で前立腺膿瘍はなかった).
· エルタペネム1gが経静脈的に投与された.
· Day4にエルタペネムからTMP-SMX(800/160mg) 1日2回経口投与に変更され、合計14日間治療を受けた.
· 治療終了時に完全に症状が改善した.
· 治療終了3ヶ月後に、男性は間欠的な排尿障害、会陰部痛、頻尿を自覚するようになったが、全身状態は問題なかった.
· 尿培養では以前と同様のESBL産生大腸菌が検出された.
· 男性は再度TMP-SMX(800/160mg) 1日2回経口投与で治療され、完全に症状が改善したが、その1ヶ月後に症状が再発しクリニックに戻ってきた.

【症例の経過②】
· 再評価を行い、尿培養でシプロフロキサシン耐性のESBL産生大腸菌が陽性になった.
· 今回のESBL産生大腸菌はTMP-SMXへの耐性も認めた.
· 抗菌薬の感受性テストを追加し、テトラサイクリン耐性とホスフォマイシン感受性を認めた.
· 男性の病歴と微生物学的な評価から、慢性前立腺炎と診断された.
· 泌尿器科に紹介し、上部尿路の画像検査と、泌尿器科的な基礎疾患がないかの検索が行われた.
男性は6週間のホスフォマイシン3g隔日内服で治療され、症状が改善しその後の再燃もなかった.

【臨床的な検討】
○急性細菌性前立腺炎(ABP)
· 尿路感染症らしくなく、前立腺炎の患者は会陰部痛、射精や性交時の骨盤の不快感を自覚する.
· ABPとCBP・非感染性の前立腺炎との違いは、通常臨床的な評価を通して可能である.
· ABPは急性の下部尿路感染症の症状(排尿障害や頻尿)を呈し、発熱や循環動態の異常を合併することもある.
· ABPの10%で尿閉を生じる(前立腺の浮腫による)
· 直腸診は、菌血症のリスクになるので推奨されない.
· 尿検査では、膿尿と尿培養で尿路の病原菌を認める.
· 尿培養は、原因微生物が培養しにくいものである場合(Mycobacterium tuberculosis)や、先行する抗菌薬投与があると、陰性になることがある.
· ABPの約25%で菌血症を合併する.
· 培養に合わせた抗菌薬を投与しても臨床的な改善が得られない場合は、画像検査を行い前立腺膿瘍(約3-6%で合併する)を含む合併症がないか検索すべきである.
· PSAはABPの60%、CBPの20%、非細菌性の前立腺炎の10%で上昇し、治療後に低下するというデータがある (Clin Infect Dis 2010;50:1641-1652).

【微生物学】
· ABPとCBPは、他の生殖器泌尿器系の感染症にも関連する微生物によって引き起こされる.
· 腸内細菌(Enterobacterales)が、前立腺炎の大部分で原因となり、E. coliとKlebsiella属、Proteus属が50-80%を占める.
· 前立腺炎の約10%では、腸内細菌系以外の微生物(Pseudomonas aeruginosa, Enterococcus、Staphylococcus aureusなど)が原因となる.医療施設での感染の場合は、これらの微生物の割合が増加する(薬剤耐性の腸内細菌の割合も同様に増加する).
· 無菌性膿尿とリスクファクターがある場合、Mycobacterium tuberculosisの関与を疑うべきである.
· 免疫不全患者は、通常では原因となりにくい微生物(真菌やウイルスなど)による前立腺炎を起こしやすい.
· 分子的な診断技術により、前立腺炎の患者の尿検体から、従来原因微生物として一般的と考えられてこなかった微生物が同定される機会が増えている.そして、これらの微生物の病原性をいかに評価するかという課題がある.
· 分子的な診断技術により同定される微生物は、Corynebacterium、Ureaplasm、表皮ブドウ球菌など通常の尿路生殖器の常在菌である.
· これまで、(培養はされないが)PCRで同定される細菌を治療することで、予後が改善することを示すデータは示されていない.
CBPで同定されるTrichomonas vaginalis、Mycoplasma genitalium、Chlamydia trachomatis、Neisseria gonorrheaは、前立腺炎との区別が難しいため、その病原性は不明なままである.

○ 原因微生物の薬剤耐性
· 米国では、2019年に外来で採取された尿検体から検出されたE. coliのうち4%がESBL産生菌だった.シプロフロキサシンとTMP-SMX耐性は20%を超える.欧州でも、腸内細菌科の薬剤耐性は各国で報告されているが、北から南になるにつれて耐性率が高い傾向がある(E. coliのフルオロキノロン耐性はノルウェーで11.3%、イタリアで40.6%).

【治療】
· ABPの治療は他の複雑性尿路感染症に準じる.
· 前立腺に十分な炎症がある場合は、ほとんどの抗菌薬が前立腺に移行する.
· エンピリックセラピーは、地域の抗菌薬感受性パターンと臨床的な重症度により決めることが多く、状態が悪い患者には経静脈的な抗菌薬投与が好ましい.
· ABPは一般的に、2週間のフルオロキノロンでの治療か、経静脈的抗菌薬治療で十分である.それらはTMP-SMXや経口のβラクタム剤より優れると考えられる.
· 治療期間の延長は、疾患の重症度が高い時や、菌血症や合併症がある場合に考慮する.
· 2nd line の抗菌薬が使用される場合は、3週間の治療を行なってもABPの再発が起こることがあるため、より長い治療を考慮する.
· 細菌の尿路の処置や、尿路カテーテルを挿入した患者では、前立腺膿瘍などの前立腺の合併症のリスクが高くなる.
· 前立腺膿瘍が見つかった場合、外科的ドレナージや抗菌薬治療の延長が必要になることが多い.
※治療期間は2週間で問題ないという意見(このreviewやClin Infect Dis 2010;50:1641-1652)がある一方で、4週間は必要であるという意見もある(Alain Meyrier, Acute bacterial prostatitis, UpToDate).
· CBPは、慢性的に感染が持続する前立腺組織(アルカリ性の環境)に信頼のおける薬剤が侵入できる状態で、長期の抗菌薬治療が必要である.
· ABPと比較し、CBPでは前立腺の炎症が弱いため、βラクタム剤での治療は薬物動態的に不適切である.
· そのような場合、解離定数が高く、高い脂溶性を示し、タンパク結合率が低い抗菌薬が、より前立腺上皮に侵入し、アルカリ性の前立腺組織でイオン化するので好ましい.
· 薬物動態的に好ましい経口抗菌薬はフルオロキノロン、TMP-SMX、テトラサイクリン、マクロライドである.
· フルオロキノロンでは、レボフロキサシンかシプロフロキサシンが適切である.
· CBPに対するフルオロキノロンでの治療期間は、500mgを4週間投与するほうが、750mgを2-3週間投与するより、半年後の再発率が低かったという報告がある.TMP-SMXは十分前立腺に移行するものの、血中濃度のわずか10%であり、12週間のTMP-SMXでの· 治療を行なったも70%が再発するというデータがある.
· ドキシサイクリンも効果はあると思われるが、治療期間に関するデータは乏しく、ほとんどのガイドラインでは6週間を提案している.
※日本のホスフォマイシンはfosfomycin calciumであり、海外のfosfomycin tromethamineより生体利用率が低いとされている(J Infect Chemother 22 (2016) 724).

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