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夏とプロコフィエフ

夏とプロコフィエフ

プロコフィエフのバイオリンソナタ第一番
彼の作品中でも最も憂鬱で情熱的な曲であるとされる
この曲の一楽章と四楽章のそれぞれ最終部に
バイオリンが細かい音階を上り下りしながら奏でる部分があり
プロコフィエフ自身がこの部分を
「墓場に吹く風」と読んだ

この曲を聴いて夏を思い浮かべる人がいるだろうか?
わたしはなぜか
高校のグラウンドと
その上に広がる真っ青な空が思い浮かぶ
わたしは糸
あるいは凧の足のような細長い紙切れを手にしていて
手放すとそれらは空に吸い込まれるように昇っていく
地上は
風ひとつなくむせ返るよう
なのにはるか上空では激しく何かが渦巻いていて
紙切れか糸のようなものはくるくる回り
やがてただ光っていた

グラウンドには
どこの部もその日は休みなのか誰もいない
わたしはいつもなら聞こえるはずの運動部の人たちの上げる声や
ボールの音
体育館に響いているはずの床を駆ける音や汗を感じながら
晴れわたる空のずっとずっと高いところで
激しく渦巻くものを思った

わたしは高校のころ文化部に所属していて
夏休みにグラウンドに出ることなんてなかった
それに大学のころに比べて高校の時のことなんか
たいして思い出すこともなかったのに
どうして……?
何に向かってなのか
急に叫びたくなる



mako nishitani 詩集『LAST DAY OF SUMMER』より

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