「THIS IS MARKETING 市場を動かす」を読んでみた

■これからのマーケティング

ハーバード・ビジネススクールのマーケティングの教授、セオドア・レヴィッドは「人は4分の1インチのドリルが欲しいのではなく、4分の1インチの穴がほしいのだ」という言葉を残した。あくまでもドリルは目標達成のために必要な道具であり、欲しいのは「ドリルによってできた穴」だという。しかし厳密には穴ではなく、壁に穴をあけた後に取り付ける棚であり、その棚によってもたらされる清潔感や安心感が、顧客は欲しいのだ。

商品は、受け手が一番望んでいた感情を得るための、単なる一手段でしかない。マーケティングとは、問題解決の手伝いをすることであり、よりよい社会へと導く行為でもある。ゆえに、しつこい営業に見られる「売り込み主導」では成長は見込めない。私たちは、市場の声を聞く「市場主導」へと舵をきるべきである。大切なのは、顧客たちの希望や夢について考え、彼らの不満に耳を傾け、改善できるものに投資することである。

■成功するマーケターになるには

マーケターが発信する多くのメッセージには、「お客様がXをすれば、Yが手に入ります」という約束が隠されている。それは保証というよりも、「これが成功したら、きっとあなたはこうなるはずです」といった類のものだ。たとえば「こだわるママはジフのピーナッツバターを選ぶ」というジフ社の宣伝文句は、ステータスの憧れと承認欲を刺激する約束だといえる。顧客との約束はマーケターが望む変化に直結するため、常に「誰のため?」という問いを大切にすべきだ。

ダンキンドーナッツとスターバックスは、どちらもコーヒーを売っている。だが設立から20年間、スターバックスはダンキンドーナツの客にコーヒーを売っておらず、その逆もしかりである。なぜならスターバックスのターゲットは、コーヒーや時間、お金やコミュニティといったところにゆるぎない信念を持った人たちであり、彼らに特化したブランドづくりをしてきたからだ。
平均的な一般大衆をターゲットにすると、商品の妥協と一般化が必要になってしまう。そのため、まずは成長可能性のある小さな市場の開拓から始めるべきだ。プロジェクトや組織を最小限に凝縮し、体系化する。そして自社のビジネスが生き残れる最小の市場を考え、その市場で注目を待つ“根っこ(エクストリーム)にいる人たち”を見つけ、彼らの求める完璧な答えになるポジションを探し、彼らの望みをかなえるのだ。
起業家のスティーブン・ブランクはスタートアップ企業の唯一のプロジェクトとして、「顧客に集中すること」をかかげている。それは顧客を惹きつけ、顧客が望むものと商品をぴったり合わせる行為を指す。
成長が見込まれる小さな市場において、マーケターたちの役割は、連れていきたい場所にほれ込む人たちを探すことだ。ターゲットではない顧客からの関心につけこまず、「あなたのためのものではありません」と断る意志を持つことは、顧客への敬意となる。重要なのは、プロダクトやサービスのストーリーをもっとも必要としている人たちを変えたかどうかなのだ。

■変化を起こすマーケターになるには

マーケティングでは、これまでの思考パターンに合わせる「パターンマッチ」か、通常のパターンを崩すことで相手側に考えさせる「パターンインタラプト」という方法のどちらかを使うことが多い。パターンマッチは通常のビジネスで行われており、顧客がイメージするコストやリスクに合えば、商品を購入してもらうのは簡単だ。一方でパターンインタラプトの場合、深く根付いたパターンを相手が喜んで変えたくなるような緊張を生み、新しいものを検討するエネルギーを向けてもらうためのインパクトが必要となる。

ここで、急成長中のソフトウェアであるスラック(Slack)の例を紹介しよう。使い慣れたプラットフォームから新しいものへ移行することは、誰にとってもわずらわしい。しかしそんななかでスラックが急成長を遂げたのは、「ネオフィリア」と呼ばれる新しいもの好き層がサービスを気に入り、「自分以外の周りも使ったらより便利になる」という考えのもと、同僚を巻き込んだからだ。スラックを使わずに仕事をしていた同僚は、自分の知らない話で盛り上がっているスラックユーザーに「もったいないことしているよ」といわれる。スラックを使っていない同僚はその緊張から解放されるために、スラックの登録を検討するのだ。スラックは、新しいソフトウェアが好きな人に提供するというパターンマッチから始まり、使っていない人たちの緊張を生むことで、パターンインタラプトを仕組んだのだ。

変化を起こすマーケターは、新しいサービスを使っていない顧客に「取り残されるかもしれない」という緊張を与え、顧客に選択を迫る。その緊張は、人に強要したり、恐れさせたりすることとは異なる。限界を超えようとするときに直面する、「これを学べば、これからなろうとしている自分を好きになれるだろうか」といった類の緊張だ。こうした緊張を乗り越える理由となるのが「ステータス」である。
マーケターが消費者に対して、新しいアイデアや変化を起こす提案をするときは、かならず消費者のステータスに向けて挑戦を挑んでいる。それを受け入れるか、断って立ち去るという緊張を選ぶかの判断は、消費者に委ねられる。
注意してほしいのは、誰もが自分のステータスを上げたいわけではないということだ。また、最近では名誉ある賞よりも、銀行口座の残高やフォロワー数を好む傾向があるなど、ステータスをとりまく状況も変化している。

プロダクトやサービスを市場に持ち込むときは、それがステータスにもたらす役割をまず考えよう。高いステータスをもつ顧客が集まるのかもしれないし、ステータスが高まることを望んでいる顧客が集まるかもしれない。

■まとめ

通常のパターンを崩すことで相手側に考えさせる「パターンインタラプト」というマーケティング手法があるということが本書を読んで一番の気づきでした。
ユーザーが望むものはなにか、悩んでいることは何かと、ユーザー視点で考えることがマーケティングだと思っていましたが、逆にステータスという人間の欲求をつかって新しいものを検討してもらうという手法はかなりインパクトが大きいなと感じました。

また、ユーザーをリサーチする際に、その人のステータスというところに着目していなかったなと感じました。
ステータスを気にしている層なのか、していない層なのかによって、メッセージが変わってくると思うので、リサーチする際はその人が望むステータスはなんなのかというところまで考えるように意識していきます。


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