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プロローグ

〜Trade for Life〜


このストーリーのコンセプト&作者について



【あらすじ】

高IQでいわゆるgiftedと呼ばれる亜衣(23才)は、都内某企業の開発部に所属する社会人1年生。これまでの人生では人並外れた頭脳で勉強では挫折したことがなかったが、クリエイティブなセンスや行動力が求められる企業では空回りしていた。

そんな時に個人で金融取引ができる「FX」を知り、これならいけるとタカを括って始めるも、コテンパンに打ちのめされ自分を見失う。

そして出会ったのが、チャート上の法則から値動きを読み切って魅惑の売買をしているSNS上のとある凄腕トレーダーだった。

初めは「儲けたい」「自尊心を守りたい」という俗な欲求に支配されて過ごしていた亜衣だったが、運命の出逢いが彼女のマインドを変えていき。。。

※このストーリーに出てくる登場人物・ブログ等は架空のものであり、実在の個人・団体・サイト等とはあまり関係ないンゴね〜。

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「AIちゃん、分割エントリーを試してみて」
「ラス押しを崩したか意識してごらん」
「オシレーターの活かし方は知ってる?あれの本当の使い方は、、、」


「はーい、皆さんありがとうございまーす❣️
AIは皆さんのアドバイスを参考にトレード頑張りまーす💪」


岡村亜衣 23歳 高IQの持ち主でいわゆるギフテッド。SNSでは「AI Okamura FX頑張りまーす💪❣️」というキャラでやっている。

これまで勉強では躓いたことがなく、全ての分野を高いレベルで卒なくこなし、特に数学では非凡な才能で高校生の時には数学オリンピックの代表にも選ばれたほど。

※数学オリンピックhttps://www.imojp.org/)


現在は数学の能力を活かし、新規プロジェクト用のシステムエンジニアとして大手企業の新卒採用で開発部に所属している。

いわゆるバリキャリコースだが、上司の突発的な要求に対応できない、聞く者が賛同してくれるようなプレゼンができない等、対人間を中心としたワークで人生で初めてとも言える壁にぶつかっていた。


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自宅にて


「はぁ〜あ、今の仕事向いてないのかなぁ。でも転職するにしてもまだ実績がないし、もう少し今の会社を続けて結果を出してからでないと難しいかな。。。

黙々と取り組むだけで稼げる仕事ってないかなぁ。集中力は人一倍あるし、何かを研究する仕事にでも就きたいな。。。」


そう思いながら飼い猫のレオナルドを膝の上に乗せて撫でながらネットサーフィンをしている中で、とあるFXのブログが目についた。


〜波動と一体になる『2次元トレード』
チャートは2次元上のグラフなのだから、それと一体になるにはあなたも2次元上の住人になり、そこで波と意識を一体化させないといけません〜


「何これウケる。うさんくさっw
よくもまあ考えるもんよね、詐欺師も大変だぁ。カモが食いつくキャッチフレーズを考えなきゃいけないんだからさ。こんなので値動きが読めたら苦労しないっつーの。この高IQで関数なら何でも来いの亜衣様でも四苦八苦してるっていうのに。ねぇ、レオ?」

「にゃ〜ご」

飼い猫のレオナルドは亜衣の膝から駆け出し、お気に入りのカゴの中に入り、クルクルと螺旋を描くようにして収まりの良い体勢を探し体を丸めて目を閉じた。今日の寝床はここらしい。

「なんだ、寝ちゃうの。 
あ〜あ、何か手掛かりはないかなぁ。」


数ヶ月前に〝FX″なるものを本屋の雑誌で知り、これなら自分はけっこう早くロジックを組み、利益を上げられるはず・・・と思い、すぐに口座を開設し実弾を入れて取引するも、ことごとく損切に遭っていた。

「悔しい。ガチでやってやる!」
勉強を含め、今まで攻略出来なかった頭脳系のものがなかった亜衣のやる気に火がついたところだった。

自分なら早いタイミングでFXの利益だけで生活する〝専業トレーダー″になれるかもしれないと淡い期待を持って相場に参入したものの、何となくの取引ではまったく上手くいかず、本腰を入れて取り組み出した時に件のブログに出会ったのである。

「2次元トレードねぇ。こちとら3次元に生きる人間様が、どうやって2次元に飛ぶって言うのよ。本当しょうもない。だいたいチャートが2次元なんて当たり前でしょうに、何よ2次元トレードって。

どうせカモるならもっとマシな・・・ん?」

流し見をしながら画面を速めにスクロールしていたところで、載せてあった1枚のチャートに目が止まった。

とある株価指数のチャートにフィボナッチラインが引いてあり、見事に天井での折り返しをピンポイントで当てているものだった。

「これ、、、後付けよね?  
いや待って、何かが違う。他のご都合ラインとは何かが違ってる。それは分かる。
でもいったい何なのかしら、、、

まずフィボナッチを斜めに当てているところからして、、、いやこれは奇をてらっているだけよね。値動きは上下の動きなんだから斜めのフィボナッチが効くわけないし、、、

でも、事後的に当てたにしても節目の動きまでドンピシャだわ。仮に後付けだとしても、こんなにピッタリ合うなんて何かの法則に則っているとしか思えない。。。

分からない。分からないけど、
何か普通じゃない、これ。。。」

持ち前の研究心と高IQがそうさせたのか、胡散臭いブログの胡散臭さ満点のキャッチフレーズと共に記されていたフィボナッチラインのチャートに何か惹きつけられるものがあり、以降数日間そのチャートのことを考えていた。

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オフィスにて



「斜めに波を区切って見ていくのは考えてみたら〝合理的”よね。
だって値動きは上下の動きと言っても、チャート上では時間の要素を掛け合わせてX軸のほうに進んでいくわけだからX軸に並行な線で測っても誤差が出るわけで。。。

ただ原点を安値で取ってないのよ。何でだろう。。。あ、もしかして推進波の起点っていうのが★◇▼〜」

「岡村君!岡村君!!聞いてるのかい!!!」

「え!あっ、はい!すみません、課長!!」

「まったく独りで何をぶつぶつ言ってるんだ。さっきから呼んでいるだろう? 明日のミーティングで発表してもらうはずの企画書、出来てるんだろうね?」

「企画書!? あ、はい企画書ですよね。そ、そうです。それの仕上げについて煮詰めていました。ぶつぶつ言ってすみません。もう少しでまとまります。」

とっさに言い訳をし、頭を下げる亜衣。

「いいか、君は高IQで適性検査でもぶっちぎりに良い点数を出して即戦力として採用されたんだぞ?それが今の状況はなんだ!隣の部署の君と同期の彼なんか、1年目で早くも自分のプロジェクトを持って★◇▼〜」

(この昭和世代のパワハラクソオヤジめ。そこに〝合理性”はあるの? 合理性よ、ゴ・ウ・リ・セ・イ! 部下を説教すれば指導していることになるとでも思っているのかしら。もはや化石。化石燃料が溢れ過ぎて火がつきやすくてどうにもならないみたい。もはや災害よ、これは。)

「ぐすっ。ずびばせん。企画書はすぐ仕上げます。ぐすっ。」

「も、もういい。席に戻りなさい。まったく。高IQだって〝使える″とは限らないんだな。とんだ期待ハズレだよ本当に。ぶつぶつ。。。」

説教を食らったぐらいで本当に泣くようなタマではなく、得意の嘘泣きで切り抜けた亜衣だったが、上司が言うことは実際に当たっていた。

このままではこの部署内で「期待の新人、契約更改なしの戦力外通告」にならないとも限らない。入社2年目で社内ニートなんて洒落にならないどころか、会社に居づらくなればこのご時勢本当にニートコースになる状況さえ頭にチラついた。

なんとかせねば。。。


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数週間後


「全然ダメ!また口座を飛ばした。今月の余剰分の給料を使い果たしたどころか、なけなしの貯金にまで手をつけてる。。。

何で?おかしいわ。こんなの私じゃない。」

亜衣はもはや負のループに陥っていた。もしかして依存性のような精神的な病いかもとも思ったが、少し前に始めたSNS上に同じような状況の〝同志″がたくさんいて、自分だけではないとホッと胸を撫で下ろしていた。

ただ、この時点でもまだ「他人より優れた頭脳を持った自分ならチャートの仕組みを紐解き攻略出来るはず。私はアンタたちとは違うのよ。」という思いは強く、フォロワー達の〝おせっかい“に素直に耳を傾けられずにいた。

「はーい、皆さんありがとうございまーす❣️
AIは皆さんのアドバイスを参考にトレード頑張りまーす💪」

リプライ欄に群がる教えたがりの自称トレーダー達。

「こいつらきっと漏れなく昭和生まれのクソオヤジよ。会社でもうだつが上がらず、FXなんかに希望を見出して情報収集のためと言いつつ、掃き溜めのネット上で群れてるんだわ。挙げ句の果てに、頼んでもないのに女子のアカウントにアドバイスなんかを書き込んでキモいったらありゃしない。」

自分のことは全棚上げからの昭和オヤジディスり。亜衣の得意技だったが、本人は自覚していない。

「あぁ〜あ、冷静に考えたらSNSに本物なんているわけないわよねぇ。こんなことに時間を割いても無駄よねぇ。かといって学生時代の数学仲間や教授に『値動きの法則を一緒に紐解きたい』なんて言っても、馬鹿にされるか拒絶されるかだろうし、、、

あっ、そういえばあのブログ、、、」

以前に目を奪われた斜めのフィボナッチラインが当ててあるあのチャート。何かが違うと感じるものの、その仕組みが分からずお座なりにしたままだった。

「どれどれ、たしかこのプラットフォームのブログだったわよね。『チャート/2次元/フィボナッチ』っと。あっ、あったあった、これだ。

名前は何だったかしら、、、

〝波乗りMiky“  

なみのりマイキー、、、あっ、プロフィールがある。

『〝値幅“と“フィボナッチ“の関係を読み解き、相場歴20年。

値動きは2次元上の絶対法則に従って動いていて、3次元世界とも繋がっている。

あなたも2次元世界の住人になろう。』

プロフィールの胡散臭さは置いといても、値幅?フィボナッチ? たしかに載せてあるチャートを見たら、ある種の法則が解っているとしか思えないわ。

あ、他にも記事がたくさんある。」

飼い猫のレオナルドが亜衣の膝の上から前足を伸ばし、スクロールされて動いているモニター上の文字を叩くように追いかける。猫じゃらし同様、動くものには反応してしまう性らしい。

「ダメよ、レオ。邪魔しないで。」

亜衣が軽く指でレオナルドの頭を小突くと、

「俺だって反応したくてしてるわけじゃないニャン。意思とは裏腹に勝手に追いかけてしまうニャン。邪魔されて嫌なら画面を動かさないでほしいニャン。」

とでも言うように不服そうな顔で

「にゃ〜ご!」

とアピールをした。

「なになに、『値動きは波動というより、最初のうちはブロックごとの塊で見たほうが良く---』ふむふむ

え、何これ。超分かりやすい。。。

そうやって角度を取ればいいのか。

えっと、『波はブロックの連なりで出来ていると捉えるならば、その塊ごとに角度が変わる節目も分かり、変わるはずのサポートラインをあらかじめ引いておけば良いのだが、そのためにはMAの動きを中心に考えれば〜』

MA!! ウソ、MAなんかあくまで平均値でしょ!? 平均値は終値から計算して出した結果のものじゃない。この人、統計ってものが解ってないのかしら。集合とデータとの定義は★◇▼〜」

数学が絡むと無意識に熱くなる亜衣だったが、自覚はしていない。それが良くもあり悪くもあるのだが。

「えっ、MAに値が引っ張られる? 平均回帰の法則?? そんな馬鹿な、、、」

数学には絶対的な自信があり、この世は数学で成り立っているということを凡人達よりも感覚的に理論的に深く理解している亜衣には即座には受け入れられないことだった。

「そういえば、たしか東証の誤発注事件で一躍有名になったっていうジェイコム男ことB.N.Fも、最初は平均線との乖離率を気にしていたっていうのを雑誌で見たわ。

(B.N.F氏とジェイコム株大量誤発注事件 https://onl.la/WS7D9iX)

※高IQの亜衣は数学だけでなく並外れた記憶力もあり、以前FXを知ったきっかけの雑誌の1ページに補足的に紹介してあったB.N.Fの記事のことを覚えていた。


「でもそんな馬鹿なことってある?、、、数学の常識を逸脱してるわ。要素が全体を引っ張るなんて矛盾してる。あり得ない。それじゃあ平均値が波の行く末を決めてることになる。数学どころか因果律と逆じゃない。あり得ない。。。」

亜衣が使っているチャートツールはTrader’s View。 任意の過去チャートを表示できるだけではなく、再生機能で好きな通貨ペアの時間足をリアルタイムで進んでいるかのように再現できる。早送りも可能だ。

亜衣はその〝トレビュー″のチャートに改めてMAを3本表示させてみた。FXを始めてしばらくのうちは何となく表示させていたものの、お飾りの状況が嫌になり鬱陶しくて以降は消していた。※MA=EMAの25・75・200

件のブログに書いてある「200MAの向きに次のブロックが形成されていく。」ということを検証してみることにした。

サンプルを10、20と採りながら亜衣は驚愕した。

「本当だ。。。本当に言うとおりになってる。信じられない、、、

でも現にそうなっている事実を認めないわけにはいかない。とりあえずそういう前提で進もう。。。」

現にそうなっている事実を受け入れて次の検証に進む、、、「言うは易し 行うは難し」だが、亜衣にとってなぜかそのブログの言うことは正しくてやる価値があると思わされるような不思議な力があった。

トレードで行き詰まったところに一筋の光を与えてくれただけではなく、まるで行く道を示してくれている案内人のようであった。



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数ヵ月後


「ある程度はMAの動きに合わせたロウソク足のイメージを持てるようになったけど、実戦で使えるレベルには程遠い、、、

ましてフィボナッチを当てる場所とか角度とか、いったいどうやってるのかしら?フィボナッチを当てる際の〝境界角度”っていうのもいまいち分からないわ。

50は綴ってあるどの記事も目から鱗で、常識にとらわれない魅惑のチャート解析なんだけど、

このまま自己流で真似していても原理が分かっていなければおそらく堂々巡りで何年も無駄に費やすことになるかも。。。」

亜衣は受験では成功者の部類に入るどころか、塾にも行かず受験対策は自分でやってトップ国立大の数学科に入り、首席で卒業した。

それも受験対策と言っても、5教科7科目の過去問題を数年分見て毎年の合格点までどの大問で稼ぐか、どの分野にどれだけ時間を費やすか等を、普通の思考レベルの人間よりはるかに速く正確に分析でき、それを実行に移しただけだった。

実際1週間程度だけ受験対策というほどではない、まるで運転免許の筆記試験に望むようなテンションで国内トップの大学へ入れたのはやはり類い稀なる高IQ、記憶力の成せる技であった。

その亜衣なら、受験であれば即座に捨てる科目と見做すだろう〝FX”に対して、もはや戻れないところまでハマってしまい、オカルトめいた見方に惹きつけられてまで何とかしようと躍起になっている様こそ、もはや合理的とはいえない状況だったが、

本人にしてみたら合理性より何より「このシンプルで激ムズなチャートの謎を少しでも紐解きたい」という理屈抜きの願望・欲望にメンタルを根っこから支配されている状況だった。

毎日何度も何度もブログを読み返しては、「値動きは2次元上の法則に厳密に従って動いている」という感覚が強まり、もはや確信に変わっている。

にも関わらず、その法則が一向に掴めないとはいったい全体どういう事なのか、高IQのためMENSAの試験にも誘われ受けてみたらすんなり合格ラインを超えた亜衣にとって、リアルタイムのチャートを前にすると無意識にエントリーしてしまうような自分の状況を省みて、ここに居るのに居ないような、まるで自分が一定の行動パターンだけ与えられたゲームのモブキャラになったような気さえしていた。
(※Mensa https://onl.la/QbFYuDq)

「このブログ、ダイレクトメールが送れるようになってる。。。」

亜衣は「DMはこちら」の案内とともに記されたメールマーク📧にカーソルを合わせたが、途端に怖気付いてマウスから手を離した。

「ヤッバ、緊張する!いきなりDM送ってもウザがられるかも。ムリ、怖い!」

まるで有名YouTuberか芸能人かに直接メールを送るような緊張感、いやというよりは、長年ファンであるけれど顔も声も分からない推理小説家へ初めてファンレターを出すような、まだ見ぬ憧れの存在といざ繋がるとなった時の高揚感というか、

合理的に考えれば、とにかくただ文字を連ねて送るだけのはずの行為が物凄くハードルの高いものに思えて、亜衣は猫を無理やり抱きしめて緊張を緩和させようとした。

「レオ!ねえ、送っていいかしら?いいわよね?どう思う?」

「にゃ〜ご!(知らん!)」

「そうよね、メール送るくらいなら良いわよね。レオ、ありがとう。
そうだ、いきなり質問じゃなくて最初はお礼のメールって事で送ってみよう。
『あなたのブログのおかげで一筋の光が見えました。』っていう感じで。 それが良いわ、そうしよう。ね、レオ?(ギューッ)」

「にゃ〜ご!(痛えし!)」

こうして偶然か必然か、チャートの仕組みを紐解いているに違いない、そしておそらくは人格的にも優れているだろう今や憧れの存在になりつつある先人にメールを送ったのであった。

(本編へ続く⇨ 第1話「出逢い」)


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