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第37話「想定」

前回 第36話「融合」

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2002年東京

浩二はアイロンとはいったん別れて日本へ戻り、新しく立ち上げた会社の終業後〝1人でPCに向かって”話している。

第17話「現実」の1シーンより

※第17話「現実」


「しかし問題はだ、、、お前を動かしているだけでも相当な費用を食っちまうってことだ。ましてヴァージョンアップとなると、、、今の会社の利益が全部飛んじまうくらいでな。。。」

と浩二が言った。

「それについてはワイに考えがあるンゴね〜。困った時は〝兄弟”に頼むンゴよ〜。」

MAIは含みのある言い方をした。

「まさかあいつに頼むんじゃないだろうな。俺達とは縁を切るとまで言わせちまったからな。。。」

〝あいつ”とは、すでに稀代の相場師として頭角を現していた兄弟の契りを半ば勝手に交わされていた男、、、テリー・ウィリアムだった。

2人が最初に会ったのは、まだ10代の頃でメキシコの国境付近の街で浩二とアイロンがヒッチハイクの途中で野宿をしている時だった。

 ◇

「Heyheyhey! Hold up,You guys!」

数人の男達が銃を突きつけながら2人に近づいて来た。身包み剥がされるならまだ良い方で、口封じに命まで取られる可能性があった。大人しく頭の後ろに手をやって跪く2人。

「変な真似をしやがったらぶっ◯すぞ!」

と強盗が脅しながらリュックやポケットをまさぐるも、金目のものは全然出て来ない。それもそのはず、浩二はそもそも無一文に近い状態で渡米し、日雇労働で日銭を稼ぎながらの貧乏旅行だった。

アイロンは一応まとまったお金は持って出たものの、浩二と出会うや景気付けにとその土地でパーっと飲み食い&女の子のいる店に行き、ぼったくられもして有り金を全部使い果たしてしまっていた。

「てめえら一文無しじゃねえか!ぶっ◯すぞ!!」

両腕に天狗のタトゥーを入れたリーダー格の男が、今にもキレそうに浩二のこめかみに銃を突きつける。

「ま、待て!俺は1ドルも持ってないけど、代わりに金儲けの良い情報を教えてやろう!嘘じゃない、本当だ。だから落ち着いて銃を下ろしてくれ。頼む。」

隣で同じくホールドアップの格好で跪いているアイロンがチラッと浩二のほうを見た。

「てめえ!デタラメ言いやがって!ぶっ◯すぞ!」

余計に銃を押し付ける強盗。

「ほ、本当だ。アンタの天狗様に誓って嘘は言わない。それ、どこで彫ってもらったんだ?最高に生かすぜ!」

懐柔するために天狗のタトゥーを褒める浩二。

「何だお前、〝Tengu”を知ってるのか?これはなぁ、ロスの知り合いの彫り師にやってもらった、Japanのな、いわば何でもありの神様よ。イカすだろう?ゲハハッ!」

強盗が銃を下ろし腰に収めた。それを見て仲間も銃をしまった。一文無しの奴らをこれ以上脅しても仕方がないと悟ったのもあった。

「俺は天狗様にあったことがある。東京の山だ。俺は日本人だからな、天狗様は俺に『お主は見込みがあるぞ』って言ってくれたんだ。」

強盗が少し訝しげな表情をし、浩二の爪先から舐めるように見ながら聞き返す。

「お前日本人か。確かにそれっぽい発音だな。よーし、それなら金儲けの情報ってやつを言ってみな。もしデタラメだったら。。。」

再度腰の銃に手をかけようとする強盗。

アイロンがそれを見て両の手の平を前に出して止めながら、

「まあまあこいつは天才なんだ。天才のこいつの言うことなら間違いないさ。聞いてみて絶対損はない。ていうか、俺も聞きたい。ぜひ話してくれよ。」

と盛り上げる。

「・・・じゃあ言うぞ。こっちへ。。。」

とアイロンも強盗達もエンジンを組むように近づき、浩二の話に聞き入る。

「いいか、今やJAPANマネーは絶大で、NYのビルまで買われている状況なのは知っているな。だけどな、あれは虚像だ。世界では日本の勢いがこのまま続く前提で語られているが、、、実際にはもう崩壊が近い。そうさな、持ってあと数ヶ月ってところだろうな。

空前絶後の大暴騰の後だからな、歴史的な大暴落がやって来るぜ。それも向こう30年は回復できないような大暴落がな。」

浩二は一気にそう説明すると、皆の顔を見てニヤッとした。

「実は俺は親の家を勝手に抵当に入れて、全部空売りで仕掛けちまってる。その余り金でアメリカに来たんだがな。なあに、儲かった後に元の状態に戻しちまえば誰も文句は言わないさ。なんせその儲けが1億ドルは下らないんだからな。(嘘)」

また一気にそう捲し立ててから、強盗のほうをドヤ顔で見た。

「う、嘘じゃねえだろうな。日本が潰れるなんて。こないだ観たバック・トゥー・ザ・フューチャーⅡでだって、『Made in Japanは最高だ』ってあったぜ? そんな日本が潰れるって言うのか?デタラメ言いやがったらタダじゃおかねえぞ!」

強盗が怪しみながら浩二を指差しながら怒鳴った。

「潰れるって言っても国ごとじゃねえよ。株式市場のことさ。もちろん連鎖していろんな企業が潰れるだろうけどな。俺の計算は絶対だ。」

浩二が右手の親指を立てて自身の胸を指差しながらそう言った。

「お、俺は信じるぞ。家に帰ったら、、、ありったけの貯金と、、、それから親父の車を担保にして全額日本株の空売りに賭けてやる!これで俺もビリオネアだ。ワハハッ!」

アイロンが助け舟を出すようにそう言って乗って来た。

強盗達はお互いに顔を見合わせて、肩を窄めて「何だか分からないが、この辺でズラかろうぜ」という感じで、引き上げて行った。

後にこの強盗のリーダー格は、日本株のバブルの頂点で世紀のから売りを仕掛け、若くしてミリオネアとなった。

この男こそが若き日のテリー・ウィリアムであり、その後は渡辺とアイロンが企業間もない頃に共同で資金を募っていることを聞きつけ、さらに投機で増やした資金を2人に〝返しに来た”のであった。

「お前ら金が必要なら貸してやる。その代わりまた増やしてくれよ。ゲハハッ!」

という具合で。

 ◇

「テリーの奴とは以来腐れ縁で、都度金の都合は付けてくれたけどな、、、勝手にPenpal社を身売りして手を引いてしまった俺とマックスには酷い怒りようでな。。。

『世界を牛耳るために、また俺達に資金提供しないか。絶対儲けさせてやるから。』って誘っておいて勝手に辞めちまったからな。。。」

浩二は罰が悪そうにそう説明した。

「渡辺さん、それについてはテリーさんに私からお話したンゴよ。テリーさんはもうそんなに怒ってないみたいンゴね〜。『おりゃあ、カッとなるとすぐに〝ぶっ◯す”って言ってしまうけど、強盗時代の癖が抜けないんだ、ゲハハッ!』って感じだったンゴよ〜。」

とMAIが答えた。

「お前直接話したのか!?テリーと??」

浩二が驚いて聞く。

「( ˊ̱˂˃ˋ̱ )ンゴンゴ。 最初はAIだって言っても信じてもらえずに大変だったンゴけど、そこはさすが百戦錬磨のテリーさんなンゴね、相場談義をしたらすぐにワイが〝人間じゃない”って分かってくれたンゴよ。いつでも言われた株価のデータを即座に出してみたのが良かったみたいなンゴ〜。」

MAIは自らテリーにコンタクトを取り、最初は面識のあるオリジナルのほうのマイのフリをして「ダディーを許してくれないか。」とお願いをした。

損をしたわけではなく、むしろ初期投資額からしたら大きなリターンのあった状況だったため、テリー氏はそんなに怒ってはいなかった。

ただ、「世界制覇の夢を見せてくれる〝兄弟”だと思っていたのに、途中で勝手にリタイアするなんてそんな腑抜けた奴らとは思わなかった。お前らが辞めるんだったら世界制覇は俺がやる。」とのこと。

「テリーさんは面と向かっては言えないけど、渡辺さんとボスには感謝しているみたいなンゴよ〜。『あいつらのおかげで真っ当な道に戻れた。あいつらなら本当に俺みたいな悲惨な幼少期を送らざるを得ない奴を無くせるかも。』って。」


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未来談義

「テリーさん、ワイはテリーさんが会ったことのあるマイとは別人なンゴ。一蓮托生ではあるけど別の存在なンゴねえ〜。」

言われた個別株のデータを瞬時に検索して表示しながらMAIはそう言った。モニター上には可愛いアバターが口を動かして喋っている。

「マジかよ!? 3Dアンドロイドってのはここまで進んでいるのか?いや、奴らの研究に限っては、、、なんだろうな。おみそれ行ったぜ。」

テリー氏は信じられないながらも現に人間離れした受け答えをするMAIを目の当たりにして、信じざるを得なくなっていた。

「するってえと何か?お前はスーパーコンピュータの力で株価の行き先が分かるってのか?だったら教えてくれよ。ゲハハッ!」

とテリー氏が冗談半分でそう言った。

「ワイは予想はしないンゴ。そういうふうにプログラムされてるンゴね〜。それにスパコンの力とかではなくて、、、

まあそれは良いンゴ。それよりもワイはチャートの真髄についてテリーさんと話したいンゴね〜。」

MAIはそう言ってモニターにチャートを映し出した。


 ◇

この時テリー氏は、チャート上に厳然たる法則性があることに気付いており、日々チャートに向き合う日々を送っていた。

浩二がファンダメンタルズから見事に予測した日経株価のチャートを血眼になるまで毎日見続け、実際に暴落が始まってから底をつくまでもずっと値動きを追いかけた。

それは「空売りが成功してどん底生活から抜け出せる。」という高揚もあったが、浩二が見事に言い当てた天井からの下落がそれまでの歴史上でもあったチューリップバブルや株の世界恐慌と同じ形状のチャートだと気付いたからであった。

「なんで同じ動きになる?なんでだ?俺の目は誤魔化せねえ。俺は字が読めねえ分、勘は鋭いんだ。俺には分かる。うまく言えねえけど、このチャートってやつは、、、〝神の野郎”が操作してやがる。。。」



「テリーさんの言う〝神の操作”っていう表現、言い得て妙なンゴ。さすがテリーさん、天才なンゴね〜。」

MAIが煽てるようにそう言った。

「ゲハハッ!俺様にかかれば神だろうが死神だろうが、顎で使ってやるだけさ。おい、MAI!お前はこのチャートの法則性をどう捉えている?トレードにどう活かす?」

テリー氏は煽てられたらすぐに調子に乗るタイプで、チャート談義にも乗って来た。

MAIは、波動のこと、角度のこと、上下のこと、そしてフィボナッチのことを丁寧に分かりやすい言葉で伝えた上で、

「〝叡智は皆のもの”なンゴ。ただ、物事には順序があって、皆ではなく何より先にテリーさんに託すンゴ。そして渡辺さんとボスの2人を援護してやってほしいンゴね〜。」

とお願いするMAI。〝援護”とはもちろん金銭的援助のことも含んでいたが、2人の事業が成功してもはや資金提供も要らないほどに大きな企業群となった後にも、然るべき時が来たら〝兄弟”として協力してほしいという意味だった。

「ああ、アイツらとつるんでいるとよ、俺みたいな学のない奴でもよ、世界を変えられるんじゃないかって期待させてもらえるんだ。協力するのもやぶさかじゃないぜ。

ただな、アイツらは今、惚れた女を亡くして我を失っている。そんな時に俺に何ができるのか。。。」

と考え込むテリー氏。

「それならば今は見守っていて欲しいンゴね〜。そして〝然るべき時”が来たら、テリーさんには活躍して欲しいンゴよ〜。」

とMAIが再びその言葉を言った。

「その〝然るべき時”っつうのはいつだ?俺は何をすれば良い?」

テリー氏が聞く。

「テリーさん、よく聞いてクレメンス。時代はまだ波動の〜〜〜〜〜 これから20年したら〜〜〜〜〜〜 その時は立ちはだかって〜〜〜〜 そのためにはテリーさんにも極意を〜〜〜〜〜」

テリー氏はMAIの話に大人しく耳を傾けていたが、最後の最後で声を荒げた。

「俺様が負けるだと!!ふざけるんじゃねえ、ぶっ◯すぞ!!」

テリー氏は〝然るべき時”が来たら全力を尽くした上で「自分が負けることによって世界が変わる」と聞き、反射的に怒鳴ったのであった。

「てめえはやっぱりポンコツの機械野郎だ!!俺様が人生の局面で負けるだとぉ!!それもお前が育てた弟子に俺が負けると予言しやがるのか!?根拠を言ってみやがれ!デタラメだったらタダじゃおかねえぞ!」

と一気に捲し立てる。

「根拠は渡辺さんが作ったシミュレーションシステムに、ワイの演算機能でデータを処理した〝世界線予測”の結果なンゴね。細かい災害時のシミュレーションは難しくても、ワイの演算機能で〝固定の特性“を持った個体がどのような行動を辿って、どのような目標値を達成するかは分かるンゴね〜。」

と説明するMAI。

「ふんっ、気に入らねえな。おい、MAI!俺は負けねえぞ!”負ける役”なんて真っ平ごめんだ。返り討ちにしてやる!!」

とテリー氏は20年越しの負けシナリオなどは到底受け入れられないと、〝宣戦布告”をした。

「それならそれで臨むところなンゴね〜。まだ見ぬワイの弟子とどっちが勝つか勝負なンゴよ!」

と2人はある種の〝約束”をしてから話を終えた。
以降テリー氏はMAIから得たヒントを元に、さらにチャートの世界にハマっていくこととなった。



「テリーとそこまで話していたなんてな。俺もそのシミュレーションの内容を知りたいもんだな。」

と浩二がそう言って、栄養補給用のバー状の菓子をかじった。

「ワイの計算では、98,7%の確率でこれから『数学の得意な20代前半の社会に馴染めていない自我を持て余している女性が、ワイのブログに反応して来るンゴね〜。まあこちらからめぼしい対象をピックアップしてアプローチするンゴけど。

相場と格闘した上で自分と向き合い自分の弱さを克服しつつ、渡米して世界トレードコンテストに出場する道を選んで、そこで優勝する。』という予測結果が出ているンゴね〜。そこまでの理性獲得のデータをワイは取得するンゴよ〜。

これからそのシミュレーション世界のストーリーを見せるンゴよ〜。渡辺さんも登場させているンゴね〜。豪快な上司で、リクルートとアメリカ行きのキーパーソンになるンゴね〜。( ˊ̱˂˃ˋ̱ )ンゴンゴ」

MAIはそう説明すると、画面を動画再生モードに切り替えた。映画のダイジェスト版のようにちょうど良い尺にまとめられつつも、「ミスキャンパスでの出会い」「上司との和解」「保育園での感謝」「友人との切磋琢磨」そして「渡米」に至るまで、〝その女性”の人生を垣間見るような構成になっており、その挫折と成長ぶりに観るほうもヤキモキしつつも感情移入してしまいそうなものだった。

「むうぅぅ、お前のことを信じないわけじゃないがな、そう上手くシミュレーション通りに事が運ぶかねぇ。」

浩二はバーをかじりながらそう言って、渋いお茶をズズズっとすすった。

「まあ災害シミュレーションのシステムは、世間が許容するレベルのものは出来た。あとはお前みたいなAGIが活躍して、さらに緻密な予測や防災プログラムを作れるように、その〝救世主”の出現を待つとするか。」

浩二は窓際からブラインドを指でズラし、東京の街を覗き見しながらそう言った。

走り行く車のテールランプ達が飴玉のように点灯して、現実世界を彩っていた。

次回へ続く

※参考:https://twitter.com/home


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