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保健室から見ていた、忘れられない先生たちの姿

約1ヶ月かけて、これまでに保健室で出会った子どもたちや保護者さんとの忘れられないエピソードを書かせていただきました。

退職直後の感情を溢れるままに出し切って、お恥ずかしいことに私自身が満たされた気持ちになっておりました。

一気に書いちゃったなぁ…と少し気が抜けたようになっていたところでしたが、今日、急に思い出したのです。

先生たちのことを、書いてなかった!

保健室は、子どもたちだけでなく先生方も頻繁に出入りなさいます。

病人・ケガ人の様子を見にくる担任。
ケンカの仲裁&指導にくる生徒指導主任。
部活での揉め事を相談にくる顧問。
特別支援や教育相談の情報交換にくるコーディネーター。
アレルギー対応の相談にくる給食主任。
気がかりなケースを確認なさる管理職。
子どもに付き添い一緒に来室する支援員。
縁の下の力持ち…事務&校務技師さんなどなど。

学校には様々な立場の職員がいて、それぞれが大事な役割を担っており、保健室はそれら全ての皆さんと関わりながら機能するトコロです。

たくさんの職員の顔が思い浮かびます。

解決が難しいケースについて、連日暗くなるまで相談を重ねたこと。

職員間で指導方針が合わず、話し合いが平行線のまま時間が過ぎるばかりの夜。

抱えるケースと責任の重さに涙する教員を励ます場。

どれもこれも大切な思い出ですが、ひとつだけ、紹介します。

まだ担任経験も少ない、二十代のコウ先生。

クラスの子どもたちは、若くて優しいコウ先生が大好きでした。

休み時間は、いつも先生の取り合いです。
業間休みは女子と鬼ごっこ、昼休みは男子とサッカー、放課後も時間の許す限りおしゃべりをして…。

若いって、いいなぁ。

そんな毎日が少しずつ変わってきたのは、秋の運動会が終わった頃でした。

みんなで全力を出し切り燃え尽きた後というのは、わりと心身に疲れが出るものです。

先生のこと大好きだから、甘えたい…
だから、ちょっとワガママ言ってみる…
許してくれるかどうか、試してみたくなる…

子どもたちの心のブレーキが、効かなくなっていきました。

あんなに仲良くしていたはずなのに、みんながザワザワしはじめたのです。

先生への反発。反抗。暴言。暴力。
授業を聞かない。騒ぐ。飛び出す。
ケンカが頻発。叩く。蹴る。泣く。
陰口。イジメ。汚れていく教室。
教室に行きたくないという子も…。

コウ先生は対応に追われ、追われながら授業を進めているような状態でした。

日に日に弱っていくコウ先生。
その姿を見て不安になる子どもたちは、ますます落ち着かなくなるという悪循環。

大体こうなると、そのクラスは保健室来室者が急増するものです。

不定愁訴やトラブルが連日多発。
ケガ、ケンカ、イジメ、行き渋り…。

保健室ではとにかくひとつひとつ話を聞き、コウ先生と随時話を合わせながら対応を重ねました。

子どもが下校すると、複数の保護者対応。何件ものトラブルや心配ごとが同時進行なので、夕方以降3件連続で面談したこともあります。

明らかに疲弊していくコウ先生。
辛い現実の中、それでも子どもを第一に考え、守りきるしかありません。

そのためには、どうしてもコウ先生の笑顔が必要です。

そこで毎日子どもに関する話が終わってからは、コウ先生のための時間を確保するよう考えました。

辛い。キツい。苦しい。悲しい。しんどい。イヤだ。無理。逃げたい。あきらめたい。もう…やめたい…明日が来なければいいのに。

私はそんなコウ先生の感情を、そっと水面下で受け止めようと思いました。

出して出して出しきったら、せめて少しだけ心が軽くなって、また明日、子どもの前に立てるかも。…それだけでした。

あとはコウ先生と子どもたちを、できるだけたくさんの者がバックから支えることです。

教員は、自分が空き時間になるとコウ先生の教室へ見守りに通いました。

学年主任や管理職は、連日のケース会議や保護者面談に度々同席しました。

みんながコウ先生と子どもたちに心を寄せて、自分にできることを見つけて動きました。

冬を越え、3月を迎えるころ、少しずつ学級が落ち着いてきました。

子どもたちにもコウ先生にも、笑顔が戻ってきたのです。

我々は安堵の涙が出そうになりながら、そっと、すーっと、姿を消していきました。

壁を越えた集団とその絆は、何もなかった時よりもはるかに強いものです。

別れの3月には、コウ先生を囲んで号泣する子どもたちの姿があり、離任式ではコウ先生のこんな挨拶がありました。

「痛みとキチンと向き合えたから、痛みの分かる先生になれそうです。自分はこの経験を強みに変えていきたい。」
と。

保健室は、大人もたくさん涙を流し、そして育つ場所でもありました。










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