猫耳戦記 シーズン2 第十五話 ウェンディの消息

袋小路と中島は、最終決戦の時に呼び出される約束で出席日数を気にしているからあまり使えなかった。
 
ピーターパンはキャプテンフックの言うままに人を集めることになった。取り敢えず生きる気力の無さそうで異世界ファンタジーを好む人をこちらへ連れ込んできた。
なぜ、そんな人々をこちらに連れて来ることにしたのか、それは、九尾と相談して決めたことだ。この世界でより強力な魔法に目覚める人物はこの世界に絶望する必要がある。
そのきっかけは皮肉にもキャプテンフックの行いによってそうなるだろう。
そうなれば味方にもなり得る。しかし、そうは言っても先に魔界の食物を食べさせることが必要だったので魔界かまぼこは薬より前に食べさせた。
そうすれば、薬を注射される時には力を得られるものがいるかも知れない。
また、最初から自殺しようとしている人は生きる気力がないから戦力にはならない。
そう言う人もメインに集めることとした。
薬で働けなくなるまで働かさせるだけだろう。
 
鈴と副官のアリスが率いる暗殺部隊がウェンディの捜索をしつつ、主要な幹部を殺して回る任務を引き受けた。
開戦前に、有能な指揮官をつぶさなければならない。
まず標的としたのは吸血鬼のドラキュラだ。
「WRYYYYYYYY」
 襲い掛かってくる吸血鬼ドラキュラは、吸血コウモリが集まってできた生物だ。
 大軍を処理するため、鈴はどこからか(米軍基地)盗んできたショットガンをバンバン撃って一匹残さず殺した。アリスも修羅の国で作られた手榴弾などを使ってバンバン殺していく。
「くそ・・・九尾軍か・・・ここまで侵入を許してしまっているというのか・・・。」
 最後の一匹になるまで屋敷を攻撃し続けた。
「おい。貴様。ウェンディという少女を知っているか。お前らに囚われているらしいが。」
「いや。知らない。人間か? そんなものに興味はない・・・。」
「そうか。知らないか。」
 アリスは最後の一匹を踏みつぶして殺した。
 
 〇〇〇
 
 次の敵はジキル博士だ。
 フランケンシュタインを製造している。魔界でも異色の兵器を作りをしているハーフ悪魔だ。ジキル博士自身もハイドに変身することで自身も強力な兵となる。
「行け! 量産型フランケンシュタイン! 試作型フランケンシュタインRX108号!」
 量産型フランケンシュタインは五十機、試作型は一機でワンオフ機と思われる。
「どうするアリス。」
「ふぇええ逃げましょう。」
「そうだな。逃げよう。」
 
 鈴とアリスは無茶をしない。
 大量の兵器を前にして少数精鋭の暗殺部隊の正面突破は厳しい。
 アリスは取り敢えず手榴弾を投げつけてしんがりをした。あまり効いていない。
 奴らはむしろ人間より強いかもしれない。
「いずれぶっ殺すからな!」
 鈴とアリスは一旦撤退した。
 
 〇〇〇
 
「ドラキュラ伯爵は死亡。ジキル博士はフランケンシュタインを使って暗殺部隊を撃退したとの報告がありました。」
「そうか・・・。ジキル博士には金を惜しまず渡してフランケンシュタイン部隊の増強を図って頂こう。フランケンシュタイン工場を今すぐ作るのだ。」
「そのようにします。」
 部下がそう言って来た。
 暗殺部隊に効果があったということは、これからの戦争にはそういった兵器を揃えることが大事だとキャプテンフックは考えた。
 それにしても、肝心の人間の方はまともな奴を連れてこない。
 特に主力だったピーターパンがいまいちな奴しか連れてこない。
 そこでピーターパンを呼び出した。
「おい! ピーターパン。もっとまともな奴を連れて来い。格闘家だとか兵隊だとかそういうより強さを求めるような者を異世界から連れて来るのだ。ウェンディがどうなっても知らんぞ。」
「はい! 了解しました!」
 ピーターパンはキャプテンフックの言うことなど聞くはずもなかった。
 しかし、口答えをしないことで言葉の魔法が通じているフリをしなければならない。
 より強い人間を連れて来なければならないとは、なかなか厳しいことを言う・・・とピーターパンは思った。
「でないと、ウェンディを殺してやるからな。」
「・・・了解しました。尽力いたしますのでそれだけはご容赦願いたく思います。」
 ピーターパンの弱みはそれだけだ。
 しかし、九尾暗殺部隊の暗躍は進んでいる。
 そのうちウェンディも見つかると信じている。
 強い人間・・・やはり阿修羅の国の民をトロイの木馬のように連れて来る方が良いのかも知れない・・・ピーターパンはそう思ったが・・・それには九尾と相談しなければならない。
 
 〇〇〇
 
 キャプテンフックはネバーランド四天王を招集することにした。
 フランケンシュタイン(新兵器開発者)ジキル博士、目を見た物を石にしてしまうメデゥーサ。そしてドラキュラの空いた枠に入った万能な能力を持った限りなく人間に近いハーフの魔女マドンナ。そして、オルトロスやケルベロスの代わりに入った最後の四天王は狼男だ。この狼男はケルベロス並みの筋力と、氷の魔法の使い手で、暗闇からの奇襲で魔力を持った人間すら殺す強力なハーフだ。
 これらの四天王以外の魔物はさほど強くない。
 そしてまだ裏切っていないと思われているピーターパンが呼び出された。
「これから九尾と、裏切り者のオルトロスの軍勢がこちらを攻めて来る準備をしている。お前たちは狙われているが、最後まで温存したい戦力だ。ではあるが、神出鬼没の九尾暗殺部隊がすでにこの国でテロ活動を始めた。お前たちの部下となる将校らは自分たちの手で守るのだ。」
「御意!」
 全員が一様にそう言った。
「そして、敵は少数だが、主力部隊は強大な戦力を持っている人間の千人部隊だ。これまでにない危機がこのネバーランドに迫っている。まずは暗殺部隊を壊滅させるのだ。」
「御意!」
「全員。戦に備えるのだ! それと、マドンナはここに残って私を警護しろ。」
「御意でございまーす。」
 こいつ、暗殺部隊が怖いんだ。マドンナはそう思ったが口にはしなかった。
 
 〇〇〇
 
「それで? 核兵器の開発は進んでいるのか?」
 キャプテンフックは攫って来た人間の科学者にそれの開発をさせている。
 もちろん魔界に人質として家族も連れて来られているから彼らは逆らえない。
「しかし・・・物理法則が向こうの世界とずれているので核兵器を爆発させようとすると向こうで言う反物質が発生して核分裂反応を阻害してしまうのです。我々には作ることは、我々にはできそうもありません。」
 科学者は良く分からない理由をつけて開発をなかなか続けようという意識に欠けていた。
「本当の事を言え。」
「はい、そんな反物質はありません。」
「じゃあ開発を続けろ。急げ!」
 
 そう言ってキャプテンフックは去って行った。
 しかし、魔界の食べ物を食べた科学者らはキャプテンフックのパワハラに耐えたいという感情で、キャプテンフックの言うことは話半分にしか聞かなかった。
 核開発は進めているが、牛歩戦術でゆっくり進めていた。
 こんなものが戦争で二度と使われてはならない。そういう感情が科学者たちのサボタージュに繋がっていた。
 
 〇〇〇
 
「九尾様。一旦活動報告をさせて頂きます。」
 鈴とピーターパンは第二修羅城にいる九尾に報告に戻った。
「どうした鈴。トラブルでもあったか。」
「はい。我々暗殺部隊の戦果ですが、ドラキュラについては殺すことに成功しましたが、ジキル博士の作っている新兵器、フランケンシュタインは新たな脅威になる可能性があります。我々暗殺部隊は撤退を余儀なくされました。恐らく今、急ピッチで量産が進められていると思われます。こちらも新兵器で対抗すべきと考えます。」
 九尾は少し頭をかいた。
「う~む。そういう人材はうちにはいないな・・・例えばガンダ○でも作りたい奴を異世界から攫って来て作ってもらうかの? ピーターパン。お願いできるか?」
「そうですね。向こうの世界で大学の工学部に通っている人々は大体そういうものを作りたがりますね。核兵器を開発できる人々を集めたこともありますし・・・。それともう一点あるのですが、キャプテンフックから言われていることがあって、もっと強い人間を連れて来いと言われています。」
「核兵器といったか? それはやばいんじゃ。」
 中岡が会議室に入って来てそう言った。
「核兵器。阿修羅の変で大量の人間が送られてきたあの恐ろしい兵器か・・・。」
 九尾は頭を抱えた。
「いや、連れて来た人々は作れても作る気がないので時間は稼げるでしょう。」
 ピーターパンはそう答えた。
「わしら阿修羅兵を少しずつ相手の中枢に送り込む手を取るべきではないですか?」
「うーん。それも考えていたが、どうしたもんじゃろう。お前らが危険にさらされてしまう。」
「異世界に核兵器なんちゅう兵器は作らせちゃならん。死んでも許せん。」
 中岡は強くそう言った。
「良かろう。阿修羅兵を全員ピーターパンが連れてきたことにして潜り込ませよう。トロイの木馬作戦じゃ! あとで阿修羅兵皆を集めろ。キャプテンフックに負けぬ言霊を皆に送ろう。キャプテンフックをぶっ殺すのじゃ!」
 こうして九尾の元にピーターパンからガンダ○を作れる人材を異世界から得る代わりに阿修羅兵が少しずつ潜入していくことが決まった。
 
 そして阿修羅兵全てが第二修羅場の周辺に集められた。
「皆の者よく聞け! これから皆は全員ネバーランドへこのピーターパンによって連れ込まれることになる。キャプテンフックはわしと同じ人心を操る能力を持っておる。だからこれからわしが言うことに集中せよ! 『キャプテンフックの言うことなど適当に聞き流せ! 命令などは一切聞くな!』 分かったか!」
「おおおおおおおおおおおおおお!」
 これで、大丈夫だろうか。九尾には不安もあったが、阿修羅兵を信じることにした。
 
 〇〇〇
 
 魔界に連れてこられた工学部の学生らは協力してモビルスー○を開発していった。
 彼らはガンダ○ではなく、ザ○を開発し、工場のラインも作って帰っていった。
 戦争が技術を前に進めるとはこういうことだと九尾は思った。
 ザ○の動力源は魔法を使える者が乗ると、その魔法を増幅する魔力トランジスタを学生らが開発したことで、簡易な操作性や搭乗者の使える魔法を増幅して使える魔力増強装置などが搭載されている。
 八幡が乗れば、この機体は空すら飛べる。通常の機体の三倍の速さで飛べる。
 空を飛ぶ力はスラスターで増強できるという。
 搭載される武器まで学生たちは開発した。
 艦船用のガトリング砲、手斧、バズーカ砲、グレネードなどが搭載された。
 そして、五十機が先行量産された。主な搭乗者たちは修羅の国の八幡らが選ばれた。
 
 〇〇〇
 
 着々と戦争の準備が進んでいく。
 九尾はオルトロスとの会談にその居城で待ち合わせて軍議や戦況を伝えることにした。
「や~オルトロス。元気にしていたか?」
「はい。元気で過ごさせて頂いております。新兵器が開発されたと聞いておりますが。どんな感じの兵器なんですか?」
「巨大ろぼっとというらしい。全高18mの巨人じゃ。」
「ろぼっと?」
「ろぼっとだ。恐らくドラゴンに匹敵する強さだ。フランケンシュタインが量産されており、鈴たち暗殺部隊が手も足も出なかったから開発させた新兵器だ。」
「あと気がかりなことがあってな。ピーターパンが探しているウェンディという人間の女だが何か知らないか?」
「え? それ俺の母さんの名前と同じだ。」
「そうなの? お前のお母さんがウェンディなのか! 会わせてくれ。」
「承知しました。少々お待ちください。」
 
「あの私がウェンディです。九尾様。」
 少女だと聞いていたが彼女は大人だ。見た目は二十代で美しい人であった。
「わしは九尾じゃ。ウェンディ・・・ピーターパンは知っているか?」
「ピーターパン・・・クソ野郎ですね。私と遊びたいという理由でこんな世界に連れて来られ・・・最初はただ一緒に子供らしく遊ぶだけでしたが、キャプテンフックに私は捕まってしまい。何人もの魔族の大人に輪姦される目に合いました。ピーターパンは助けてはくれないし、まだ異世界に人をさらってくると聞いています。」
「母さん・・・そんな目に合っていたの・・・知らなかった。犯されてできた子供なのに、俺のことを何で大切にしてくれたんですか・・・。」
「生まれたてのあなたの姿を見て、あの人の子供だとすぐに分かったから・・・。魔力の話は聞いたことがありました。こんな目に合って、私の願いはこんな世界でも強くて優しい子供を産みたい。そう思っていた時にあなたが産まれた。」
「そう・・・だったのですか・・・。因みにあの人と言うのは?」
「狼男だった。あの人は私を傷つけないようにと最初は抱こうともしなかった。私の方から抱いて欲しいとお願いした。他でもなく私が心を開いたのは彼だけだったんだと、私はあなたを見てそう思ったの。」
 ウェンディは涙を浮かべてその人のことを思い出している。
「彼は別の女の人も抱いたのでしょう、それであの暴君ケルベロスが産まれた。」
「ウェンディさん。そんな過去があったのですね・・・。この世界で人間が歳を取るというのはそういうことがあったからだと思います。」
 九尾は丁寧にそういった。
「狼男・・・彼は暗殺対象。ネバーランドの四天王の一人です。彼は味方に出来るでしょうか・・・。」
「分かりません。彼もまた、私を人質として利用されてピーターパンのように悪行に手を染めてしまっているのかもしれません。」
「あなたはどうやってキャプテンフックから逃げたんですか?」
「彼は神聖ハデス帝国の時も立場のある人でした。私を妻として迎えてくれたのでそこから出してくれました。」
 九尾はそれで納得した。


次回予告
ウェンディを発見した九尾、一方で九尾暗殺部隊は闇夜に乗じて動き出す。 
次回 強襲! 九尾暗殺部隊  乞うご期待


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