猫耳戦記 シーズン2 第十七話 九尾の宣戦布告!

 
キャプテンフックは頭を抱えるしかなかった。
 四天王はマドンナと狼男が抜けて、メデューサとジキル博士が残るのみで、核兵器開発は遅々として進まない。
 それにピーターパンも恐らく魔法を解かれている。細かい命令を聞かないから多分裏切られている。連れてくる人々も命令を時々聞かないことがある。
 屈強な連中が時々命令魔法を聞かず、ピーターパンもそうだとすると、集まった人間の出どころは恐らく・・・考えられる最悪のパターンは阿修羅の国の民だと思われる。
 戦争はする前から終わっている。
 もうできることは外交で相手の要求をすべて飲むだけだ。
 恐らく要求されてくる内容は分かっている。
 麻薬など薬物の生産停止と、神聖ハデス帝国の南北統一、奴隷の解放といったところだろう。
 それらのことは、このネバーランドの民が言うことを聞かないんだよな・・・キャプテンフックはそう思いつつ、義手のフックを外し、魔力で動く義手と交換した。
 それで異世界へ遊びに行くことにした。
 
 〇〇〇
 
 キャプテンフックが異世界に来た頃、ちょうど九尾と鈴とアリスとマドンナが袋小路の家に集まっていた。
「え、なんか増えてる。」
「こちらは新しい仲間。マドンナじゃ。魔女じゃ。」
「へー。美人多いな。」
「ティンカーベルは置いてきたがのう。」
 九尾は今の戦況を袋小路に話した。段々疲れてきているからこっちに来たのだという。
「もう勝ちが確定している戦争なんだな。」
「いや、まだ外交交渉がある。これは中つ国とネバーランドの戦いではなく、あくまで神聖ハデス帝国をオルトロスが手中に治めるための戦争・・・内戦だ。」
「特に、麻薬などの快楽系薬物の製造規制と使用規制をすること、もう一つは奴隷解放、南北統一だ。」
「ふーん。昔のアメリカで起きた戦争みたいなことをするんだな。」
 袋小路はそんなことを思った。
「謀略や調略、暗殺で大分敵を苦しめているからもう十分っちゃ十分敵を混乱に陥れているがのぉ・・・。いつまで戦い続けなければならぬのか・・・。毎回部下から色々報告は受けるが疲れて来た。」
「快楽系薬物の規制って禁止にしないのは何故だ?」
「このお主がいる国では医療に麻酔と言う形で使われていると聞く。そういうものだから完全に禁止するのは好ましくないということだ。大事なのは規制や研究による製造のコントロールが必要だということだ。」
「それで? そっちの魔女マドンナってどういう人なんだ。なんていうか、今までにないタイプの美人だな。」
 袋小路は口説くつもりはなかったが、鈴と九尾に睨まれた。
「ああ。この人が九尾様と鈴様が取り合っている男ですか? パッとしないですね。何ができるんです?」
「ウルグアイスマッシュじゃ。」
「へー・・・えっ。あの体術万能最強スキルじゃないですか。レアだ。レアびとだ。」
「因みにこいつはその能力すら超越し始めている。なんとメテオストライクをキャッチできるのだ。」
「あの物理最強攻撃を止められる・・・この人一人で魔界の統一できるんじゃないですか?」
「人望がなければそれはできぬよ。わしとなり替わりたいならお主もそこは勉強した方が良い。」
 九尾の後釜をこのマドンナという魔女は狙っているということが分かった。
「でもさ。九尾の国って、犯罪者に公共工事させたり奴隷にした人々がいっぱいいたのにハデス帝国では許さないんだな。」
「ああ。その辺は正直どうでも良い。他国の事だから。ただ奴隷を使ってむやみやたらに快楽系の薬物を作ってこっちの国内で売られるのは禁止だ。そのために異世界人をさらってくるなど、許せることではないだろう・・・と阿修羅の国の民は思っている。」
「お前はどう思っているんだ。正直なところ。戦争するのためらっているようにも思うが・・・。」
「まぁ。強いて言えば新兵器を試したい気はするが・・・。」
「新兵器ってなんだ?」
「MSという兵器を試したい。」
「そうか。それは残念だったな。他に戦争で何がしたいんだ。」
「うーむ。この戦争で世の中が良くなればいいと思うが、正直なところ無駄な気がする。」
「何故?」
「今回の問題は根深いからな。」
 
 〇〇〇
 
 九尾はこの戦争の無駄さ加減を話し始めた。
 違法な薬物の流通を断ちたいという目的がまず第一にはあるが、今から相手にする敵はそれで生計を立てている連中で、上に立つものがケルベロスだった頃はこちらを攻撃して来たのでまだ倒す価値のある敵だったが、今回のキャプテンフックは周りが持ち上げたことで偉くなった敵だ。それに、ケルベロスほどこちらへ薬物を輸出したりしていない。
 薬物の流通は奴の国内だけだ。
 つまり、奴を殺したところで次の奴、その次の奴が代わりになっていくことが目に見えている。オルトロスの支配下に一旦置くことができれば、オルトロスを通じて産業の転換ができれば良いが、薬中の人々がいっぱいいるから、需要が無くなることも無いだろう。
 特に吸血鬼どもはみんな薬中だという。
 薬中を治療する施設も必要だろう・・・。いや薬中の民など死んでも良くはないか?
 薬漬けにされている連れ込まれた人間は可哀そうだ。
 そうだ、その者らはピーターパンに魔界からそれぞれの国へ返してやれば良い。
 人間の医療は今いる袋小路の世界の方が進んでいる。
 しかし、奴ら吸血鬼には血を分けてやる人間も必要ではあろうか・・・?
 あれ? 要らなくはないか? 滅ぼしちゃっても良いような気もする。
 なんていうかあいつらは増えすぎだ。そもそも魔界でそんなに多い種族だったか? いや、奴らは、昔は希少種で希少種だから貴族だった。
 そして、人間のパートナーを見つけて血を吸う生き物だったはず。
 今の魔界の吸血鬼はもしかして・・・人間から血を吸うという本当に生存に必要な快楽を薬で奪われてしまったんじゃないか?
でもまあ・・・供給拠点を叩けば、恐らく供給量がすごく減るから価格がすごく上がるんじゃないか?
 今は安いからものすごい量が流通している。
 そうか、利権を奪って供給量を操作しよう。薬中の奴らには高ーく売りつけるのだ。
 じゃあこの戦争には意味がある!
 キャプテンフックを打倒し、薬物畑を焼き払っても、代表者は他の奴が取って代わるだけだと考えるとキャプテンフックを倒すのは無駄な気がする。
 ならば・・・キャプテンフックを倒した後は・・・自分の支配地域にしよう。
 そうすれば麻薬の供給量を極端に少なくして、更に濃い麻薬を作り、薬中の奴から金品を巻き上げ、中毒者をガンガンぶっ殺せば・・・薬物の流通は無くなる!
 また、生産地域で何か野菜を育てさせればいいのではないだろうか。
 麻薬に代わる何か・・・それは考えなければならない。
 
 〇〇〇
 
 九尾の悪いところも出ているが、戦争の終着点が見えた。
「やっぱ悩みやなんかは人に話すべきだな。話すことで問題が整理される。利益も生まれる。」
「いや、九尾さんがどんな人かは分かったけれど、俺は何も言ってないんだが・・・。」
「うん。魔界は落ち着かん。平和なこっちの世界の方が落ち着く・・・。」
「この国だけが平和なんだけれどな。」
 袋小路はそう答えた。こちらの世界も戦争は終わりがない。
「でも、こちらの世界のアヘンは、鎮痛剤としても使われているらしいぞ。」
 袋小路はスマホを見ながらそう言った。
「だから、そうだな・・・ゼロアヘンというのも行き過ぎだろうな・・・。栽培をコントロールして適切な売り先には売る。そういうスタンスで良いんじゃないか?」
 袋小路はネットで調べてそんなことを思ってそう言った。
 
 〇〇〇
 
 魔界から来たキャプテンフックは、しばらくこちら側の世界に留まることにした。
 身なりを整えなければ。
 まず洋服屋に入ってスーツを買おうとした。身にまとっている人が多いからだ。
「あのお客様。金貨ではお売りすることはできません。その金貨が本物かどうかもこの店では分かりませんので・・・。」
「いいからこれ三枚で売れ。」
「分かりました。全部で五万円ですが、こちらの金貨で売らせて頂きます。」
 一応金を払わないとキャプテンフックは満足しなかったので命令魔法で売らせた。
 金貨はそこで三枚払って一応三十枚持っている。
『金品・貴重品買い取ります』
 そんなポスターを張っている店にキャプテンフックは入った。
「これは売れるか?」
「・・・!? これは中世ヨーロッパの〇〇金貨・・・それを三十枚も持っているのですか!? 全部で七百万円での買取となります・・・。盗品ではないですよね・・・。身分証はありますか? 運転免許証など」
「無いが良いだろう。」
「そうですね。要らないです。では七百万円で売って頂いてよろしいですか?」
「お前らはこれを転売して儲けを出すのだろう。売るときはいくらだ?」
「ざっと一千万円です。」
「じゃあ九百万円で売ってやろう。」
「ありがとうございます。」
 
 キャプテンフックは現金を受け取った。
 あ~損した~。この五万円のスーツを九十万円で買っちゃった~。あ~。
 キャプテンフックは髪型ももっさりしているから整えに行った。
 この世界では男は床屋、女は美容院に行くと道行く人に聞いた。
 床屋から出て来る人々を見て、自分の感覚は古いなと思いつつ入った。
「どのようにしますか?」
「普通にしてくれ。任せる。」
「では・・・こんなのどうですか?」
 店員は髪型の出ている雑誌を見せてどうするか聞いてきた。
 今までどこの床屋で切って来たんだろうと思いながらそう聞いた。
「ああ・・・じゃあこれで。」
 もじゃもじゃした髪を、短くしてツーブロックにすることになった。
「ツーブロックですね。サラリーマンですか? その服に合うように切りますね。」
 髪の毛を切り、顔を剃られてすっきりしたキャプテンフックは、完全に今風のサラリーマンになった。
「会計は三千円になります。」
 懐から一万円を取り出して渡すと七千円帰って来た。
 何だ・・・この国で掛かる資金は・・・賃金は・・・安すぎる。
 
 キャプテンフックは、一旦魔界へ戻って金銀財宝をここで売り払いながら生きて行こうと考え始めていた。
 
 〇〇〇
 
「あれ? どうしたんですかキャプテンフック様・・・。」
 ピーターパンは阿修羅の民を連れ込んでいる。
 キャプテンフックはもう逃げたくて逃げたくてたまらない。
「まるで、向こうの人みたいじゃないですか。」
「そうなの?」
「そうですよ。髪型も着ているものも・・・労働者っぽい格好ですが・・・。何故?」
「これは労働者の恰好なのか。いやこの前、異世界がどんなところか視察に行ったついでに服だとか髪型だとかを向こうの世界を自由に歩き回るために整えて来たんだ。向こうの国ではこの格好をした者達が背筋をピンとして堂々と歩いていたからな。ちょっとカッコいいと思ったから真似たのだ。」
 あ。こいつ異世界に逃げようとしている。
 ピーターパンはそう思った。ウェンディも生きていた・・・が、こいつは魔界の王だ。
 向こうの世界でどうやって生きていくつもりなのだろう。
「失礼なことを聞きますが・・・その服や髪型はどうやって整えたんですか?」
「あー。お金を払えばあの世界では何でも手に入るな・・・。」
 
 〇〇〇
 
 キャプテンフックはその昔、時は大航海時代、英国出身の海賊として財をなすという野望を持ってスペインの商船などを襲って金銀財宝をたくさん持っていた。
 なるべく船に積んで持ち歩いていた。
「海賊王に! 俺はなる!」
 リアルにそんなことを言っていた。
 カリブの海賊をしていた時、バミューダ海域に入って沈没船から金銀財宝を拾おうとしたところで、この世界にやって来た。
 船や宝はあったが、仲間はみんな死んでしまった。
 魔界での生活はゼロから始まった。
 流れ着いた土地には名前がなく、魔物に拾われて生き延びた。
 魔界には時折、こうして人間が流れ着くことがある。
 人間は魔法の力を得ることで魔物より強くなる。
 だから魔物たちは人間を特別視し、神からの贈り物というような扱いだった。
「おまえ。なにもの?」
 何故か言葉が分かった。
「俺は、海賊王になる男! キャプテンフックだ!」
「おまえ、王になるのか。偉大だな。」
 キャプテンフックは当時、尊大な男だった。
 当然魔界で食べ物を食べるとき、心の奥底で人々を従えたい、そういう意識があったため知らず知らずのうちに言葉で相手を操る魔法を手に入れた。
「おい! キャプテンフックよ。王になるつもりなら俺と相撲を取れ!」
 人間と魔物のハーフだという大きな良い体格のいかにも強い相手の王がいきなりそんな勝負を挑んできた。
 相撲? 何だそれはと思ったがどんな勝利条件か聞いて取ることになった。
 ・・・殺される・・・。キャプテンフックはそう思ったとき力に目覚めた。
「悪い。俺はお前と相撲を取ったら死んでしまいそうだ。負けてくれ・・・。」
「おう。分かった!」
 緑色の魔物は勝手に負けてくれた。
 そうか、これが魔法か・・・。
「おい! お前が何で負けた。そんなに強いのか? お前を倒すのは俺のはずだったのに。」
「強いわけじゃない。あいつは偉いんだ。」
「何だそれ? わざと負けたように見えたが。」
「わざと負けたさ。あいつに負けてくれと頼まれると断れない。」
 
「みんな! 俺の言うことを聞いてくれ。」
 
「分かった!」
 これだけで初期の魔界はキャプテンフックに優しくなった。
 そうして皆がキャプテンフックの言いなりになるようになると、周りが持ち上げて高い地位を得た。
 
 歴史が進むにつれ、キャプテンフックは偉くなっていった。
 しかし、怠惰な生活が好きだったキャプテンフックはあまり偉くなると忙しくなるので常に代役を立てて魔界を支配していた。
 特に、九尾から目の敵にされている快楽薬物の生産は皆が欲するのでほったらかしにしたら今のような生産体制になってしまった。異世界から来た人間を、繁殖用と労働用に分けて労働者は薬中にして働かせ、繁殖用は魔物との交配や人間を増やすことに使われた。
キャプテンフックは担ぎ上げられてトップに立ってしまった。
 代役のケルベロスが九尾に討たれ、オルトロスが懐柔され、今ではゲリラが主要人物をどんどん殺したり懐柔されたり、ピーターパンに至っては敵国から戦力を入れてきている。
 もはやもう・・・待っているのは死しかない・・・。
 そんな時、いよいよオルトロスが南下してここを攻略しに来るだろう。
 薬中生物とかしたこのネバーランド国民は・・・どうなってしまうのだろう。
 そんな折、無茶な要求を突きつけにこれから九尾の外交交渉があるのだ。
 
 一応向こうの世界のスーツを着た。これからはこれを正装としよう。
 まもなくこの世界を捨てるつもり。それがキャプテンフックが取る選択だ。
 
 〇〇〇
 
「私は九尾の外交官。鈴です。」
「私が九尾だ。」
 二人連れでネバーランド・シンデレラ城に現れた。
キャプテンフックのところで働いているメイドがシンデレラ城の客間に案内した。
「ああ、宣戦布告に来たのですか?」
 キャプテンフックは会談の席で開口一番そう言った。もう勘弁して欲しい。
「まぁ、一応こちらの要求を突きつけに来ました。」
「・・・なんでも聞きますよ。」
 キャプテンフックはやる気が無さそうにそう言った。
「我々の目的は、麻薬生産のやり方が、人間を奴隷に連れてきていることが倫理的に反しているので即座に辞めて頂きたいことがまず一点。生産設備ほか生産している領土を、神聖ハデス帝国北部と併合する。後はキャプテンフック殿が統べているこのネバーランド地域の中つ国による支配、キャプテンフック殿の死。これらがこちらの要求です。これが三十日以内に行われなければこちらはネバーランドへ侵攻を開始します。」
 鈴は言うことを覚えさせられてそう言った。
「・・・正直なところ、もうぶっちゃけ話して良いですか?」
「どうなされたキャプテンフック殿。」
「私はもう詰んでいる状況だと思っております。あなた方の策略により、重心だったドラキュラ伯は死亡、最強の魔女マドンナは離反。これまで戦力の調達作業を担っていたピーターパンも恐らく貴国の屈強な民を送り込んできている。核兵器開発も遅れているというかやる気がない。そうなってしまってはあなた方の侵攻を防ぐだけの戦力や抑止力はない。
 味方はメデゥーサとジキル博士くらいだが、ドラゴン並みの兵器を開発していると聞いている。戦争するだけ無駄という物と存じます。」
「・・・何のことか分かりませんが降伏するのですか?」
 鈴は今までの攻撃についてとぼけた。そうしないとテロをしているのを認めてしまうからだ。
「もう・・・もう魔界で暮らしていくのはうんざりなんです。私は死にたくない。追放と言う条件なら飲みます。と言うよりもう向こうの世界に一生食べて行けるだけの財宝だけ持ってこちらから魔界を去りたいのです。こちらの降伏の条件はそれだけです。もう無駄に戦争するのは止めませんか?」
 キャプテンフックは涙ながらにそう言った。
 九尾はこれ以上キャプテンフックを追い詰めるのは可哀そうな気がしてきた。
「人の上に立つというほどの器が貴殿にはなかったのかのぅ・・・。皆に押されてトップに立ったのに・・・。」
 九尾は残念そうにそう言った。戦争する気満々だった。
 
「海賊王に俺はなる! って言ってたじゃないですか! 何でそんなに意思が弱い!」
 
 近くにいた古くからいる魔物の部下にそう言われた。
「悪いな。本当に悪いんだが、うんざりだ。大体、俺だけがこの九尾に目をつけられているが、ほとんどのことは国民が勝手にやってきたことだろう。確かに、自分の私財を増やしたいとは思っていたが、俺なんて結局それだけの人間なんだ。
 この前異世界に行った時つくづく思った。
 ああ・・・向こうの世界は何て生きやすそうなんだろうと・・・。」
 九尾と鈴は呆れた。
 ピーターパンにもその他多くの人間も、この国のせいで酷い目に合って来た。
 そのトップがこんな小物だったとは・・・。まだケルベロスの方がちゃんとした王だったと九尾は思った。
「うーん・・・今の立場は捨てるつもりか?」
「はい。捨てます。」
 キャプテンフックはもう逃げに徹している。
「死刑!」
 鈴がそう言った。
「おい。もう追放して欲しいようじゃ。死刑とかじゃなく、出て行ってもらおう。こんな小物を討ったとしても・・・あまりこの地域を変えるのは厳しいであろう・・・。」
「そうなのですよ。国民が勝手に薬中になってしまっている国なのですから。というより、元々、ここに来る前から芥子畑は広がっていました。」
「それは何故じゃ? 初耳なんじゃが。」
 九尾はそこを疑問に思った。
「それは何故か知っているのか?」
 
〇〇〇
 
 キャプテンフックは何故、元々芥子畑が広がっていたか説明することにした。
 魔界の生物は寿命が長い。寿命は長いが必ず死は訪れる。
 寿命が長い分、死にいたるとき老衰で寝ている期間も長くて十年もかかることがある。
 その老衰で寝たきりになり、死を待つ期間が長いためその時の苦痛を和らげるため、アヘン(モルヒネ)が使われていた。
 だから元々相当な量の芥子が生産されていた。
 ここではそのモルヒネを経口摂取するか注射する治療がされている。
 快楽薬物として使って来たのは、むしろ中つ国。中つ国では注射か火をつけてタバコのように利用されていた。その方が効くからだ。
 
 そこにケルベロスは目を付けた。
 
 この薬物をどんどん中つ国へ輸出すれば、大金が手に入る。
 しかし、輸出するにはより大量生産しなければならない。
 そのための態勢づくりをしなければならない。
 だから、異世界から人間を連れてきて奴隷として働かせることを選んだ。
 九尾が中つ国の統一へ向けて動きだしたころにはその生産体制が出来てきた。
 魔界と異世界をつなぐ扉を作る技術が発展し、また、ピーターパンのような異世界とこの魔界を行き来する存在が現れたことで、多くの人間を奴隷として連れて来た。
 人間は環境を整えれば魔界の生物よりすぐに増える。
 だから繫殖用と労働用に振り分けられるなど、残酷な手法が取られた。
 キャプテンフックは、そこには絡まなかった。
 ケルベロスは強い。
 護衛にマドンナがいて、自分の命令魔法など効かないことは分かっていた。
 魔界の食べ物より先に芥子が使われると、人間は生きる力を奪われ魔法を習得しないことも分かった。
 ケルベロスはそこを徹底的に利用したのだ。
 しかも、ケルベロスはその芥子栽培で得られる快楽薬物をこの神聖ハデス帝国内でも売り始めた。その収益は徹底的に芥子栽培に用いられ、事業を矢継ぎ早に拡大した。
 だから、ケルベロスが中つ国侵攻に失敗して死んだことで、キャプテンフックが担ぎ上げられて魔界の南側がネバーランドという形で支配地域が広がったのだ。
 キャプテンフックはそれを引き継ぐことになった。元々北方にケルベロスから離反したオルトロス軍、そして中つ国の九尾軍。そんな敵だらけの土地をいきなり任されたのだ。
 慌てて、それらの軍と戦えるだけの戦力を整えるところから始めなければならなかった。
 吸血鬼は人間の血を飲むという行為を性行為から、ただの食事になったことで、以前なら噛みついた人間のパートナーを持つという習慣から、同族同士の結婚で増えるようになって数を増やした。
 数だけの軍勢としてドラキュラが現れたり、マッドサイエンティストのジキル博士は人間の死体からフランケンシュタインを増産したりしている。
 メデューサは古くからいる化け物だ。
 狼男ケルベロス一世は人狼族をまとめていて、その家系から皇帝のケルベロスやオルトロスを輩出した名門の家となった。
 そして慌てて国防のために核開発も始めた。
 
 
〇〇〇
 
「そうだのぅ・・・お主が作った国が混とんとしているのはちゃんと民を律し、教育しなかったのが良くなかった。わしの国も同じじゃ。正直なところ、わしの国で、輸入をほとんど断ったから消費しきれずにこのネバーランドでも違法な薬物が流行ってしまったのじゃろう・・・。」
「この世界に来た時、アヘンは不治の病の治療薬(モルヒネ)として使われていたというのもあります。この世界で重たい病気になるとずっと苦しい状態が続いて死ぬまでにすごく時間がかかるから使われてきたのです。それを乱用し始めたからこういう人間を奴隷のように使って作らせる方法が取られるようになり、それがまた乱用を招いてしまったと思います。」
 キャプテンフックはそう言った。
「そうか、まぁ確かにそれがメインだったはずなのに、乱用するのは人々に止めさせないと国が乱れるからな。キャプテンフック・・・もしかしたらわしより大分年寄りなのか?」
「多分そうだと思う。九尾の活躍は聞いていた。それを招いたのも自分だ。都合がいいがもう魔界から向こうへ行きたい。」
 
「分かった。だが戦争はする。そこまでしないとお主の国の民は変わらないだろう・・・。お主にも死んでもらう。こうなってしまったことの為政者としての責任を取ってもらわなければならない。」
 
「俺は悪くないはずだ。」
 
「違うな、お主も悪い。こんなことになることが目に見えているのにお主は無力だった。それが罪だ。この国は今、正しい統治が必要だ。統治を間違えたのだから。我々は戦端を開く。苦しいのは一瞬だ。攻撃目標はネバーランドのシンデレラ城、ここと、お前の別荘、核開発工場、フランケンシュタイン工場、その他我々の統治を妨げるものは全て攻撃する。
 批判するものも殺害する。
 わしの独裁国家をここに作り、アヘンだの麻薬だのは医療目的以外の使用を禁ずる。
 わしは正しい統治をする! そのためならば戦争も辞さない。」



次回予告 九尾は自分の死以外のことは受け入れると言ったキャプテンフックが統べるネバーランド攻略を宣言し、宣戦布告をした。ネバーランド侵攻はまもなく始まる。

次回 猫耳戦記 シーズン2 第十八話 ネバーランド侵攻作戦!
乞うご期待。



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