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うらやま妬ましい

 真っ当に生きなければならないという強迫観念と、しょせん真っ当には生きて行かれぬおれという人間の狭間に生じた些細な乖離に、擦り潰されそうな人生を送っている。
 どだいまともな人間じゃねえのだから、真っ当に結婚して子供を授かり、人並みの幸せを得るなんて期待しちゃあいねえ。
 もともと、こころのぶっ壊れた人間なのだ。
 「あなたは愛情と依存の区別がないひとね」
 と面と向かって、冷たく言い放たれたこともある。が、さもありなん。何しろ事実なだけに「こいつぁ上手いことを言うなあ」と思った程度で、何も堪えなかった。
 だが、一方でまともな人間をねたましく思うのも事実だ。特に望んで欲して来たわけではないが、おれの持たないものを抱えている彼らが、ただ羨ましいだけなのである。
 対戦ゲームに負けて「ずるいや、ずるいや」と駄々をこねる子供に近い心境だろう。
 だから今日も、おれは指を咥えながら幸せそうな人々を見て「ずるいや、ずるいや」と思って羨望の眼差しを向ける。
 一方で、真っ当じゃないおれが冷めた目つきで幸せな人々をぼんやりと小馬鹿にして見ている。
 その乖離がこころに僅かな隙間を作り、その隙間でおれの人間性がゴリゴリと擦り潰されるのだ。
 砕かれた人間性は砂のように指の隙間を滑り落ちて行き、おれの手元には何も残らない。
 だから、その隙間を埋めるように酒を呑むのだ。おれはさ。

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