台湾屋台グルメを愛する(オアチェン編)

台湾と縁の深い人生です。

台湾人と6年付き合って結婚し、2年半で離婚しましたが、元配偶者への愛は消えても、台湾への愛はしっかりと残りました。人も街も自然も文化も、台湾のおおよそ全てを愛していますが、食べ物への思い入れが特に強いです。

今日のように蒸し暑い日の、夕方の空気が漂い始めるころ。私はいつも台湾を思います。

ああ、今すぐふらりと、夜市に出かけたい。オアチェンが食べたい。イェンスージーが食べたい。タタヒービーフンゲーが食べたい。

台湾屋台グルメのことばかりが思い浮かびます。

日が落ちてもモッチャリと重熱い空気の中を、ゆっくり歩いて夜市に向かう時間から丸ごと好きです。

暑いところだから、彼の地の人々は昼間にセーブしていたエネルギーを、夕方ごろから発散し始めます。その活気と熱気とスクーターの排ガスでどっしり質量を持った夜の空気の中を、あんまり頑張らず、金魚のようにゆらゆらと進んでいくのが心地いいのです。(ちなみに私は排ガスのにおいも愛する、少しだけ変わった人間です)

何を食べようか、あれもこれもと目移りしながら、夜市を端から端まで何往復も行ったり来たりするのも楽しみです。ひとしきり物色したあと、今日の私の胃はどのくらい頑張ってくれるだろうか、と腹に手を当てます。

何せ熱烈に台湾屋台グルメを愛する私は、食べたいものがありすぎて。

でもその中で、毎回これだけは絶対に外さないというものがオアチェンです。

最後の晩餐を選ぶとしたら何がいい?と聞かれたら、私の中で常にパッタイとギリギリのところを競るこの料理は、漢字で 蚵仔煎 と書きます。

最初は見たことのない虫偏の漢字に、何が入っているのかと大変ビビったものでしたが、オアとは台湾語で、小粒の牡蠣のことです。オアチェンは直訳すれば牡蠣焼き。日本語では牡蠣オムレツと表記されているのを見たことがあります。

記憶に頼って書くため、手順に前後はあるかもしれませんが、屋台の方がさっと鮮やかに仕上げてくれるオアチェンの作り方は、大体以下の通りです。

鉄板で、まずは主役の牡蠣を軽く炒めます。オアは小粒ですが、ぷりぷりしていて、牡蠣の風味もしっかりしています。調べて見たら、マガキという種類のようです。

そこに青菜を散らします。具材は以上。至ってシンプル。

これはA菜という、台湾ではよく食べられる葉物野菜であることが多いような気がします。ロメインレタスと白菜を足して二で割ったような見た目と味わい(私的な見解です)で、クセがなく、炒めても割としゃきっとしていて、私は好きな野菜です。

その上から卵と、おそらくタピオカ粉を水で溶いたものを広げます。焼き上がると、卵卵しいパートと、プルプルしたタピオカパートが層をなし、牡蠣のぷりぷり、A菜のしゃきしゃきとの四重奏と相成ります。

「オムレツ」感はあまりないと私は思います。タピオカ粉のシンプルな粉もん、卵入り、という感じ。

仕上げには、たっぷりとソースがかけられます。甘塩っぱい、とろみのあるものが主流で、台湾らしく甘さは強めですが、日本人は馴染みを感じやすい味ではないかと思います。

オアチェンのソース、近年はお店によって結構個性があり、しょっぱいパートを担う部分の調味料に案外バラエティがあって、美味しいな〜と思うお店も増えましたが、私がこの食べ物に出会ったころは、美味と断言するのは難しい、不思議なピンク色のソースがかけられていることが多かったです。

その色を例えて言うならば、ポケモンのラッキーの色を少し濁らせて、そこにとろみ要員として入っているスターチが、ミステリアスな透明感を加えている感じ…と申しましょうか。

人生初のオアチェン、初見の感想は失礼ながら「おおっ、これは食べても大丈夫な色か?」でした。

食べてみると、ソースの味は甘辛ではあるけれど、甘味も塩味も主張が弱めで、あまり引っかかりのない「ぬるーん」とした味…と言って感じが伝わるでしょうか。

食してますますピンク色の源がわからず、

「着色料の大胆使用」

という言葉が頭をよぎったのを覚えています。

じゃあなんで私、こんなにオアチェンを好きになったのか?

と我ながら疑問が湧いて思い返せば、オアチェンは、私が台湾で初めて食べた屋台グルメなのでした。

オアチェン本体が、自分の好みに合っていたこともありますが、

初訪台の興奮、初めて触れる夜市の熱気

好きな人(当時の元配偶者)の国を、自分の目で見て体験していることの喜び

見慣れない正体不明のピンクソースが醸し出す強烈な異国情緒

それらと一体となった味が、心に刻まれたのかもしれません。

騒がしい音と眩しい光の中、露天のゲームに興じる人々を背景に、屋台の灯りに照らされた謎のピンクソースが、奇妙に輝いて幻想的にオアチェンを包んでいた、ファーストエンカウンターの記憶。

それ丸ごとで愛しているんだろうなと気づいた、オアチェンの話でした。

実は今でも微妙な味のオールドスクールピンクソースに出会うと、台湾でオアチェンを食べている!という実感がより強く、工夫が凝らされたソースより美味しいと思ってしまいます。何ごとも最初の刷り込みって大事ですね。

コロナ直前を最後に、まだ再訪できていませんが、早くまた台湾に遊びに行って

「給我一份蚵仔煎!謝謝!」

(オアチェンひとつ下さい!ありがとう!)

とコールしたいものです。

個人的には熱烈に、普くお薦めしたい台湾屋台グルメのひとつですが、自他ともに認める台湾舌の私が言うことですので、お好みに合わせて適宜話をさっ引いてお読み頂き、その上で機会がありましたら是非是非お試しください。

牡蠣が苦手な向きには、具を海老に変えた蝦仁煎もありますよ。

ご縁あって読んでくださった方へ。ありがとうございます。

愛をこめて
まきゅう

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