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蜘蛛のキーホルダー

リクルートスーツのような、地味な黒スーツに白いシャツの若い女性が目の前を横切ったとき、彼女の持つ黒い鞄の端っこに揺れる、超リアルな蜘蛛の形のキーホルダーが目に入った。

それから目が離せなくなり、私の妄想が止まらなくなった。

彼女はパンクなバンドでギターかベースを弾いているに違いない(妄想が単純)。

面接だからやむなくこんな格好をせざるを得ず、面接官に向かってにっこり微笑みながら「そうです、そうです」とか言い、頷いたりしているが、心の中で「その質問、意味ある?」とちょっと悪態をついている。

勝負の時は、入り口の前であの蜘蛛を握りしめるに違いない。

本命の会社の面接で、このキーホルダーは鞄の中に隠すのだろうか。
隠さず、プラプラさせながら部屋に入り、むしろ面接官向きに蜘蛛を配置し、「気づいてくれるくらいの会社なら、入社しよう」と挑むのだろうか。

面白い。面白いなあ。

私たちが日常で見せている顔は一つではない。自分自身を思えば、当然のことだけれど、人のことは何故か想像ができない。

誰かに期待される「自分」を演じながら、それとは違う自分を隠さないのは自然で健全だなと思う。気付いてほしいのか気付いてほしくないのか、自分でもわからないのかもしれないけれど、それに気づいた人だけ、とても深く、仲良くなれる。

私たちの周りにも、きちんとお仕事顔をしながら、こっそり謎のキーホルダーをつけている人はたくさんいる。

「そのキーホルダー何?」と聞くと、多分、一気に近づける。

会社の経営者や同世代のビジネスパーソンと話をすると、若い社員がよく分からないとよく話題になるけれど(私自身も感じるときもあるけれど)、多分、私たちは探してみた方がよい。チラチラしているその若者のヒトクセあるキーホルダー。

好きなものはなに?
いつも週末何してるの?
学生時代、何に夢中だった?
お子さんいくつになった?
毎朝何時に起きてるの?

その核心に近づくためには、まずは知ること、聞くこと。

明らかに変なキーホルダーぶらさげている人はまだいいけれど、だいたい鞄の中に隠しているから。

多分、本当に面白くて、会社や私たちの人生に意味があるのは、鞄の中にあるキーホルダーの方。

見慣れた<仕事顔>の他に、どんな顔があるのか。
それを知ることが、真のコミュニケーションを育み、本当の「同志」になれる一歩かもしれない。

今日の質問:ねえ、週末何してた?


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