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カブトくん②

コクワガタがある朝天へと召された。
その隣の虫かごの中にはカブトムシがいて、いつも土の中に身を隠し、姿を見せることがレアだった。

けれど、なぜだかコクワガタの虫かごが隣に無くなってから、カブトムシがいきいきとしだしたのだ。

土に潜り込むことはほとんどなく、人間の私が虫かごを覗いても動じることなくリンゴを抱き抱えて貪り食べる姿が見られるようになった。

ひと月前に玄関の外で弱々しくもがいていたコクワガタのメスを保護してから二週間後に、カブトムシのオスを飼うことになった。

二匹はルームシェアすることなく、別々の虫かごで大切に飼育していた。
先輩のコクワガタはとても元気に動き回りエサをよく食べた。
一方後輩のカブトムシは引きこもりがちで、土の中にいつも身を隠していた。カブトムシは食欲旺盛なはずなのに、エサの減り方もコクワガタの三分の一ほどと少なくて心配の種だった。

しかし不思議とコクワガタがいなくなってから、カブトムシは伸び伸びとしだしたのだ。
先輩のコクワガタを立てていたのか警戒していたのか……。
そう思えるほどの極端な変わりようだった。

コクワガタが居なくなったのは悲しいけれど、カブトムシが元気になったのは喜ばしいことだ。
それとも、カブトムシは先輩のように逞しく元気に生きていこうと、先輩コクワガタの意思を受け継いだのかも知れない。

そんな妄想をしながら、カブトムシがリンゴを抱き抱えて貪り食べる姿を微笑ましく観察した。


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