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調達・購買部門/バイヤーの「情報力」

バイヤーはそれぞれ担当される購入品目によって、モノであったり、サービスであったり、いろいろ違いがあります。しかしどんなバイヤーであっても共通して言えるのは、購入に際して「情報」の取り扱いが非常に重要である点です。私は、バイヤーの情報取扱い能力を「情報力」と称して、コンサルティングやセミナーの中で皆さんにお伝えしてきました。この「情報力」を今こそいかんなく発揮せざるを得ない、そう考えています。

情報の重要性について、改めて強く認識させられた出来事が3つあります。

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湾岸危機(1990年)


1つ目は、1991年8月2日、イラクがクウェートに侵攻した湾岸危機です。翌年の1991年1月17日、多国籍軍はイラクへの空爆を開始して湾岸戦争が始まったのです。

当時、多国籍軍がいつイラクに対して攻撃を加えるのかがさかんに報道されていました。そんな中で、空爆が始まる日をピタリと的中させたのが、かつての大本営参謀だった瀬島竜三さんです。当時を振り返ってこのように証言されています。

アメリカが湾岸に第何部隊を置いているというようなことは、日本の新聞に全部載っています。それを細かく見ていくんです。当時、アメリカが湾岸に派遣した中に、部隊を船から上陸させる揚陸団が入っていた。そのことは、アメリカが発表していて、秘密でも何でもなかった。そのことから、アメリカは上陸作戦を考えておると、そう私は思った。
上陸作戦というのは、潮が高いときに、夜の月の明かりで乗り込んでいくものなんです。それが、上陸作戦の原則なんです。ですから、秘書に、東京気象台に電話をかけさせて、湾岸の満潮の時期と月とを調べさせた。日本の気象台は、しっかりしたもんです。ちゃんと資料があって、教えてくれました。その資料を検討すると、上陸作戦の時期は、一月一六日から一七日が適当であり、遅くとも一八日というように判断することができる。それで、海部(当時の総理大臣、筆者注)さんに、半ば自信を持って「一六日から一七日」って、こう言うたんです。

(瀬島龍三 日本の証言―新・平成日本のよふけスペシャル2003/2より引用)

湾岸戦争の開戦から10年以上が経過しこの本を読んだとき、セオリーに沿って公開情報を確認すれば、将来起こることがある程度予測可能だと学びました。企業経営は、戦争の遂行になぞらえ「戦略」を立案し遂行しなければなりません。企業経営のセオリーを学び、的確な情報を収集すれば、適切な意思決定が可能ではないかと考えるに至ったのです。

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リーマンショック(2008年)

続いて、2008年9月15日に当時アメリカ第4位の名門投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻しました。その背景には、アメリカの低所得者向け住宅ローンである「サブプライム・ローン」の普及がありました。住宅バブルで住宅価格が値上がりするのを前提にしたこのローンも、2006年ごろからの住宅バブルの崩壊で継続困難になり、仕組みが破綻したのです。

2007年を占う予測本には「この好景気がいつまで続くか」といった記事が目立っていました。景気は循環します。2019年の1月で日本経済も戦後最長の景気拡大期間を更新しようとしていました。まさにちょうど2007年の経済状況が酷似しているように思えてなりません。

そして2007年の秋ごろからは発売された2008年を占う予測本には、アメリカ経済の将来性を悲観視するキーワードとして「サブプライムローン問題」が、取り上げられていました。当時の報道はアメリカにおけるサブプライムローンの問題を連日報じていました。その後1年弱が経過し、2008年9月15日のリーマンショックへとつながります。

サブプライムローンの問題は、連日のように報道されていました。しかしアメリカでそういったことが起きていても、その後日本経済に影響まで考えは及んでいませんでした。この経験から、ただセオリーを学んで、情報収集を行うだけではダメだと考えるに至りました。セオリーと収集した情報が、自社、あるいは自分にとってどんな影響を及ぼすのか。マイナス影響の場合、どうやって回避すればいいのかまでが欠かせません。いくらセオリーを学び情報収集したしても、それは全く意味をなさないと気づいたのです。

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東日本大震災(2011年)

そして情報にまつわる最後のエピソードは、2011年3月11日に起こった東日本大震災でした。震災が発生して2週間後「東日本大震災と戦うバイヤーの集い」を開催しました。首都圏だけではなく、名古屋や大阪のバイヤーはスカイプで参加し、震災発生後に何が起こったのか、どのように対応したのかについて情報交換会を行いました。その際、もっとも印象的だったのは、本文中にもご紹介する震災発生直後のサプライヤー情報取り扱いです。極めて対照的な2社の対応でした。

対照的な2社によるサプライヤーへの具体的な対応に大きな差が生まれたのは言うまでもありません。震災のような平常を大きく乱す出来事の場合、その状況は日々刻々と変化します。震災発生直後は大きな被害がなかったとしても、その後に起こった停電によって、操業に大きな影響を発生させた企業もあります。こういった変化に追従する情報収集には、できるだけ情報収集から共有、分析、意思決定までのサイクルを短時間に回す必要があることを学びました。

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バイヤーに必要な「情報力」

ビジネスに必要な基本的なリソースには次の4点です。

1.人
2.モノ
3.金
4.情報

今回はこのうち「4.情報」について述べます。

東日本大震災で調達購買担当者がどんな困難に見舞われ、どのように乗り越えていったのかをまとめた「大震災のとき!企業の調達・購買部門はこう動いた」では、バイヤーたちが情報にどのように相対したかを描きました。そこには、ある一部分に注力しすぎているバイヤーの姿がありました。今回のシリーズでは、震災後にバイヤーへ行ったアンケートの結果を参照しつつ、バイヤーとして一人のビジネスパーソンとして必要な情報力を考えてみます。

「情報」といえば「収集」でしょうか。確かにその後に控える共有、分析、活用のプロセスを考えても、その対象である「情報」がないとなにもできないのは事実です。故に情報収集を一生懸命にやってしまうバイヤーの姿をみることができます。東日本大震災発生後のバイヤーのアンケート結果は次の通りでした。

◇震災後のバイヤーアンケート結果
  コメント総数       307
  情報に関するコメント   80 26.1%
  情報収集のコメント    60 19.5%
  (「情報」関する回答に占める割合は75%)

このアンケート結果は、情報に関するバイヤーの意識の高さ、情報収集を非常に重要視している意識を表しています。事実アンケートの結果の詳細を見ても、震災発生後の情報収集の動きは非常に迅速かつ的確でした。度重なって発生する地震に対して、「初動」が定着していることを証明する結果でした。そして多くのバイヤーが、震災の翌稼働日である3月14日には多くのサプライヤーから第一報を入手しています。迅速なのはバイヤーだけでなく、営業パーソンの対応にもあてはまります。バイヤーとしては、的確に回答を返してくれた営業パーソンに心から感謝の意を伝えるべきですね。(今からでも遅くないので、やっていらっしゃらない方はぜひお礼を!)

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情報力の4要素


「情報力」には次の4つの要素が必要です。

(1)情報収集力
(2)情報共有力
(3)情報分析力
(4)情報活用力

そして「4つの要素」をサイクル(回転)させることで「情報力」を確立されます。次が、この考え方の概念図です。

先に提示したアンケート結果は、各企業のバイヤーが的確にそして迅速に動いたと示していました。一方「情報収集」に偏った回答が寄せられた。バイヤーの皆さんが実際の業務対応の中での動きを回答したにもかかわらず、情報収集以降に何をしたか、どんな問題があったかがほとんど語られていないのです。情報を総合的に取り扱う力を情報力とするとき、情報収集以降の要素も同じように取り組みが必要です。

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情報収集と情報共有には時間をかけてはならない

現在、マスコミからの発信だけではなく、個人発信も含めると非常にたくさんの情報が存在しています。皆さまが必要とする情報の多くは、すでにこの世に存在するのです。さまざまなホームページ、企業や個人が運営するブログ、多すぎて処理できない皆さまのメールボックスに残っているメールも有用な情報はあるのです。情報にはアクセス方法さえ知っていれば瞬時にアクセスできます。

一方世の中に広く存在しない情報、バイヤーが個人的に欲するサプライヤーの情報です。普段はサプライヤーとのコミュニケーションのなかで情報収集をおこないます。震災後のような事態では、バイヤーの欲しい情報は決まっていますね。被害状況はどうか。バイヤー企業への納入は継続するのかどうか、停止するのであればどのくらいの期間停止するのか。欲しい情報が同じであれば、情報収集を個別に電話等で行うよりも、ツールを活用して一括して行います。バイヤーが情報収集に高い意識をもつのと同時に、サプライヤー側の営業パーソンも情報を提供する意識はあります。バイヤーにとっての効率的な情報収集は、営業パーソンの時間を占有しません。バイヤー企業とサプライヤーの双方に効率的=時間を費やすことのない情報収集活動への近道です。効率的に情報収集をおこなった結果、時間が生まれれば別の情報力の要素へ取り組みます。情報力とは、情報への取り組みを「収集」のみで終わらせない、次につながる発展性のあるアクションなのです。

●収集した情報は断片的である

すべてのバイヤーにとって情報への取り組みを「収集」で終わらせてはならない理由、それはこの世に存在する情報が断片的であることです。欲しい情報がそのまま存在することはほとんどありません。まずはできるだけ広範囲から多くの情報を収集します。個人で行う場合も、震災後のような事態で組織的に行う場合も同じです。組織的に情報収集を行う場合は、組織を構成する人それぞれの持つ情報レベルを同じくすることが重要です。自分の情報と同僚の持つ情報を合わせるだけで「なるほど~」となる場合もあるでしょう。さらなる情報収集する場合、より真相に踏み込むことができる質問を構築する力の源泉になります。そして既に組織として持っている情報へ再びアプローチの抑止にもつながります。

●シングルソースでなく、デュアル・トリプルソースを求める

収集した情報は、その時点では正確かどうかわかりません。震災後の混乱した状況ではなおさらです。情報を提供している側にすれば、情報を求めている側の正確性への確認には答えようがないですね。これも断片化した情報の一側面です。したがい、類似情報はできるだけ集めて情報を受けた側でも事実確認をおこなう、そのために情報はシングルソースではなく、複数のソースからの情報入手が必要なのです。

今日的情報共有

せっかく各個人レベルで入手された情報は共有されないのでしょうか。

企業内で仕事をしていると、事あるごとに「コミュニケーション」の話が登場します。そしてコミュニケーションの良化とは、さまざまな改善を思考する場で語られる枕ことばのようです。しかしなかなか実践されないのです。なぜでしょう。

ここで、先の震災後に行った情報に関するバイヤーのアンケート結果を見てみます。

◇震災対応のバイヤーアンケート
  コメント総数       307
  情報に関するコメント    80 26.1%
  情報収集のコメント     60 19.5%(75%)
  情報共有のコメント     3  1.0%(3.8%)

情報収集に関するコメントが多い一方、その他の情報力プロセスへの関心が少ないことがわかります。これは、他のプロセスがすでにできているからでしょうか。私は違うと思っています。ここで、実際に情報共有が進んでいた例、そして旧態依然とした例を対比して考えます。

【仕組みとして進んでいた例】

収集した情報を社内関係者のメールアドレスを登録したメーリングリストに流して送付。サプライヤーからの提供情報のメールの受信ボックスからの自動転送によって、サプライヤーから送った瞬間に関係者全員へと情報が届けられる。

【仕組みとして旧態依然としていた例】

昼間に電話/FAX/メールといったあらゆる手段を駆使して徹底的に情報収集。夜になって関係者を会議室に集め、収集した情報を関係者全員に発表させ、発表内容を聞くことで情報伝達を図る。

両社の違いはなんでしょうか。情報をバイヤーそれぞれのパソコンのメールボックスに届けるのは、IT技術のなせる技です。ネットの環境が整っていれば、ほぼ追加コストも無くこのような仕組みを構築できます。一方旧態依然の方は「伝達」の部分を「口コミ」に依存しています。

この2つの例。仕組みとしては、前者の方が優れていますね。しかし前者には大きな盲点が一つあります。前者におけるIT技術を駆使した仕組みは、パソコンの受信ボックスにまで情報は届きます。しかし受信ボックスにあるメールを読むかどうか、理解できるかどうかは担当者個人にゆだねられます。後者の場合は、少なくとも情報が理解できる場を設けているのです。受信ボックスに入ったメールはすべて読まれる、という性善説を前提にしている点を意識する必要があります。そして情報力を高める上では、この部分への意識が非常に重要です。

「旧態依然」と書いた関係者を一堂に会しての情報伝達。情報を関係者に確実に伝達し共有認識を醸成するとの観点では、いまだその有効性があります。理由は情報を読み解く能力の問題です。各個人バラバラなレベルの理解力を同じレベルに引き上げて、後の足並みそろえた対応へと発展させるには、いまだ意義が残っているのです

メールが一般化して20年以上、メールによって情報の共有化が著しく改善したでしょうか。メールが配備されたとき、私が便利だなと実感したのは飲み会や、ゴルフといったイベントの周知手段としての活用です。この手の皆が興味を持っている(はず)という前提がある際の情報伝達に、メールという手段は非常に有効です。

本来、業務上活用する情報であれば、仕事を進める上でまず情報得て、理解することが必須条件となります。ところが業務の繁忙、長時間の会議、出張といった事を理由に「メールが読めない」事態が起こります。情報はすぐそこまできている。しかし最終的に読むかどうかを個人にゆだねています。個人がメールを読まなかった場合、情報共有が行われません。このような事態を想定すると、先日の大震災後のような緊急時は、一堂に会した「旧態依然」とした情報共有の方法も利用する価値はあるわけです。

そしてそもそもの根源的な原因、それは個人の情報処理スピードです。職場にいらっしゃいませんか。メールの受信画面が真っ赤(未読)だらけの人。メール処理のスピードが遅い場合、自分自身が一番不幸ですね。逆に限られた時間の中で、一つでも多くのメールを読み、一つでも多くの情報に目を通すことができれば、それだけ的確な意思決定、行動へとつなぐことができるのです。一番割を食うのは、処理できない本人です。

この点は読者の皆さんも意識されている部分ではないでしょうか。限られた時間で膨大なメールといかにして格闘するか。日々メールを、読むだけで良いのであれば問題ありません。しかしわれわれは情報を元に行動しなければなりません。行動の元となる意思決定を行うためには、いくつもの断片的な情報の中から、とるべきアクションの方向性を見いださなくてはなりません。自らの進むべき道を指し示してくれる、そんな都合の良い情報は、この世にそのままの形では存在しません。行動する時間とともに、われわれには考える時間が必要です。そのためには、一つの情報入手に費やす時間をできるだけ短くする必要があります。

「情報は足で稼ぐ」ということもあるでしょう。一カ所にとどまって入手できる情報には限界があります。われわれが普段取引をおこなっているサプライヤーが実際にどのように製造しているかといった部分は、まさに百聞は一見にしかず、です。そのような動く時間を生み出すためにも、メールのような文字情報を少しでも短時間で処理=読み込むことは、バイヤーにとっても当然必要な能力なのです。メールによって情報共有が行われていない場合、その原因は個人のスキルに起因することもあることを忘れずにいてください。

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情報分析力~分析とはなにか

私も参加している購買ネットワーク会にメーリングリストがあります。たまに「教えてください!」といった投稿がおこなわれます。私は、経験のない調達をおこなう際に、メーリングリストでバイヤーの皆さんへ情報提供を求めています。

バイヤーがバイヤーに求める業界や製品、そしてサプライヤー情報。この場合は、欲しい情報を明示して、提供できる方に名乗り出ていただくので、欲しい情報と提供される情報のミスマッチは少なくなります。面談して情報を聴取すれば、事前に伝えきれなかった希望も補足して伝え、情報を得ることが可能です。私の経験を振り返れば、これまでとても有効な情報収集ができました。

情報ソースを「購買ネットワーク会のメーリングリストに参加しているバイヤー」でなく、ひろく「世間一般」とする場合を考えてみます。情報のソースは無限に広がります。しかし情報ソースの広がりに比例してほしい情報にたどり着く困難さも増大します。個人的な印象では、残念ながら欲しい情報はまず「世間一般」には存在しません。「無い」とは言い過ぎでしょうか。欲しい情報とイコールの形で、100%要望を満たす情報の入手は無理です。バイヤーとして日々おこなう情報収集において、欲しい情報がそのまま手に入ることはありません。しかしバイヤーは日常的に情報を入手しなければなりません。さてどうしましょうか。

日々おこなう情報収集の前提条件、それは「入手する情報とは断片的である」ということです。繰り返しますが、求める情報そのものは存在しません。しかし一部が有効な情報はたくさん存在します。その少しずつ重要な情報を集めて、自分の欲する情報として再構築する能力が必要となります。それが情報分析力です。

上記図は、複数のソースから入手した情報の共通点が欲しい情報である場合を表しています。情報ソースの興味は、そのソースごとに異なります。そんな情報の中から、情報の受け手としてほしい情報だけを抜き出して、さらに他のソースからの情報とのクロスチェックによって、信ぴょう性が高い(であろう)情報として再構築をおこなうわけです。

ここで「情報の信ぴょう性」の判断方法についてです。


上表は、

・類似した情報が3つある
・3つの情報源が、すべて同じことを伝えている部分を抜き出す

複数ソースからの同じ情報=信ぴょう性が高いと判断します。実際は、同一テーマで複数のソースから同じような情報を得ることは難しくなります。では、複数でサンプルの少ないケースや、単独ソースでの情報の信ぴょう性の確認は、どのようにおこなうべきでしょうか。ここは、TPPを例に考えてみます。

このリポートは、さまざまな分析を行った上で「推進」との立場をとっています。たくさんあるリポートの中でも読む価値のあるものです。しかし発行元を踏まえるとどうなるでしょうか。発行元は、推進することでメリットを享受できる可能性が高い製造業です。内容的には非常にバランスがとれていても、私は自分で少しバイアスをかけて読み込んでいます。これは、情報源そのもののTPPに対するポジショニング=TPP推進派であることを想定した上での判断です。しかしこれはリポートの内容を否定するものではありません。

私は、日々の業務の中でもたらされた情報の発信元を確認します。伝聞であれば、元々の話をしたのは誰なのかによって、その内容を判断します。これは、誤解を生まないようにあえて申し上げます。情報発信者によって、そのあつかいを軽んじるといった事ではありません。情報の内容の判断する際に、発信者が誰であるかとの点もふまえておこなうということです。企業内での情報は、その職位によっておのずと「情報格差」が生まれます。一世を風靡したアメリカのテレビドラマ「24-Twenty Four-」でも、劇中の登場人物の職位・責任によって機密アクセス権が設定されています。フォーマル・インフォーマルさまざまな情報の中で、テロリストと戦うことがなくとも、アクセスできる情報の格差、それによる情報の認識に差が生まれるのは、組織である以上やむを得ないのです。

これは「××がいったことだから、無条件に正しい」とも異なります。情報の信ぴょう性の検証は非常に難しい。だからこそ注意深く、そこにある情報からできるだけさまざまな事象を「本質」として読み解く必要があるのです。最終的には、情報を分析する人の意思が介在します。注意深すぎるあまり、行動に移せないのであれば、本末転倒となります。しかし情報の意味するところである本質を明らかにするプロセスでは、注意深さは必須なのです。

続く情報分析のプロセスは、どこに影響を及ぼすのかという「波及性」があげられます。入手して信ぴょう性を確認した情報が、自分にそして周囲にどのような影響を及ぼすのか。どのように展開していくかということも考えなければなりません。最終的には、一つの「仮説構築」にまで昇華させる必要があります。ここまで到達しないと、せっかく入手した情報が生きません。

ここまでのお話でご理解いただけるとおり、情報力のポイントは「情報収集」ではありません。情報収集より後に、いかに考え、具体的な行動に移してゆくかです。外部環境の大きな変化、例えば2011年3月に起こった震災のケースでは、情報力を構成するサイクルのすべておこなって、かつ早くサイクルを回す必要があります。日々刻々と明らかになる新たな情報に自らの対応をフィットさせてゆかねばなりません。情報とは、どのように活用するのかをもう一度考えてみます。震災発生前は、供給サプライヤーが集中していようとも、企業活動はおこなわれていました。バイヤーは多少の納期問題はあっても、供給を受けることができていた。ところが地震の発生、津波の襲来、原子力発電所での事故によって、要因はさまざまですがわれわれバイヤーにとっての生命線である供給が絶たれた、またそうなる可能性が高まりました。これは、外部環境の短時間での大きな変化と考えることができます。

その際、直接的な被害を受けなかったものの、供給ソースが受けた影響によって企業活動が継続できない可能性が出現したという変化に対応する必要があったわけです。いくら情報を収集する、変化の兆候を捉えたとしても、行動が伴わないと、情報収集そのものの意義が著しく失われるのです。

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情報力まとめ

これまで述べてきたことを、次の3つにまとめます。

1.情報収集、情報共有、情報分析、情報活用の4つを「情報力」の構成要素とする

2. 情報の取り扱いは、決して「情報収集」だけではないこと。情報収集の後に行うことが、むしろ情報の取り扱いにおいては重要であること

3. 4つの構成要素をサイクル化することが、状況変化への対処を容易にする

最後のプロセスとなる「情報活用力」についてです。非常に意識の高い方でも、意識して情報を活用するケースは少ないでしょう。理由は二つあります。

(1) 普段の業務の中では、あたりまえのように情報を活用しつつ意思決定を行って行動しているため、あえて意識していない。
(2) 収集した情報について、共有・分析を的確におこなわないが故に、意思決定・行動と集めた情報に連続性がない

上記(1)のケースは、意識せずとも今回定義の「情報力」が実践されているものとします。問題は、上記(2)のケースです。いろいろ情報収集はおこなったものの、実際におこなったことは情報収集によって導かれた見通しとはほど遠い。もしくはそもそも情報は集めたけれども「見通し」を見いだすまでにいたっていない。そんな状況が思い浮かびます。ここで重要な点は、先に提示した図のサイクルを回す「スピード」です。

いうまでもなく情報はその「鮮度」が重要です。情報は、情報源から放たれた瞬間から内容の陳腐化がはじまります。例えば2011年3月に発生した東日本大震災の様な大きな災害の発生を想定してみます。最初被災に関する情報はまったくありません。だんだんと具体的な被害の全貌が明らかになってゆきます。そして発生直後の情報は正確性も乏しい。あのような緊急事態では、腰を据えて情報を集めることは得策ではありません。次第に明らかになる事実は、明らかになる前の状況に対して「変化」と捉えることができます。大きな災害の後では、日々刻々の変化が大きいので、集めた情報が陳腐化するスピードも速いのです。確度の高い情報を集めるためには時間が必要だ、とのスタンスでは、肝心要の意思決定に際して陳腐化した/事実でない情報をもとにしてしまうかもしれません。

大きな災害を前提としない場合でも「スピード」は強く意識をするもう一つの理由、それは情報力を構成する4つの活動に明確な「終わり」がないためです。特別なことがなくても継続しなければならないというのは、自分で区切り・締め切りを持たないことには、漫然と続けてしまう悪循環に陥る可能性もあります。常にやらなければならないということは、明確な目的・ゴールをあえて設定しないことにもつながってしまいます。

一方当然時間の費やす度合いによって、情報内容の深さには差が生まれることも事実です。インターネットを活用することで、情報収集については、簡単にたくさんの情報にアクセスできるようになりました。しかし一方でそれは情報過多=自分の欲しい情報にたどり着けない状況を生んでいます。また時間をかけ深く情報収集や分析をおこなうためにはインターネットはあまり役立ちません。論文、文献といった読み応えのある資料と向き合う必要があります。次の4象限は、情報力を構成する4要素、時間と取り組みの深度の関係を表した図です。

①自分のテーマ・命題

これは、自分の人生であったり、一生を賭す仕事であったりといった、簡単には結論は出ないけど、でも考え続ける必要があるテーマに関する情報の取り扱いです。個人的には究極の情報力が試される分野と考えています。これは短期間でどうこうと性急な結論を求めることはできません。文字通り一生をかけて情報力の4要素を回す必要があるテーマです。

②一般常識

この分野で重要なことは、特に意識せずとも自分の手元に分析しやすい情報を簡単に得ることができるかどうかです。幸いにして、日本の大多数の地域では、新聞が配達される環境にありますね。テレビやラジオのスイッチを入れれば、さまざまな情報へのアクセスが可能ですね。しかし一方的な情報提供が連続的におこなわれますので、頭の中に残りにくいのも事実。またこの分野の情報で禁物なのがうのみにすることです。問題意識を持ち、一定の批判的な視点を持つことが、この手の情報の本質を見抜く上では、極めて重要です。

③外力を活用

非常に短期間に、深い洞察を要し、なおかつアウトプットが必要な場合。これはサラリーパーソンに強いられる場面がありますよね。重要なテーマであれば、私は迷わず「得意な人」を探します。それが友人や知人にいれば有り難い話。もし短期間でのアウトプットが必要であれば、自分だけで悩むのでなく周囲の力を借りることが重要です。①や②でさほど重要ではない「情報共有力」のよしあしが如実に表れる分野です。震災後のバイヤー対応などはこれに当たります。もし知人や友人が思いつかない、もしくは業務上必要であれば、信用会社やコンサルティング会社といったアウトソースの活用も視野に入れる必要があります。

④他人からの指示・依頼

ここは日々の業務の中で一番求められることですね。依頼や指示を受ける場合には、その道にある程度の知見があるという他からの評価の証です。そしてもっともスピードを意識する必要がある分野でもあります。まさに一週間後の100点よりも、当日の60点、翌日の80点が必要です。

他からの評価の証ということは、①や②で普段継続的におこなっている情報力の活動が試されるタイミングでもあります。例えばVOS(ボイスオブサプライヤー)や、サプライヤーリレーション、新規サプライヤーの開拓といったテーマは、私にとって①に該当します。その点の一部をニーズに合わせてアウトプットするだけで相手に満足してもらえることもあるわけです。私が普段深く考えていて、ある程度整理されている内容であれば、時間をかけないアウトプットも可能となるわけです。

これまで「情報力」なるものを述べてきました。基本的に情報力を構成する4つの要素とは、常日頃から意識せずに行っています。しかし残念ながら「大震災のとき!企業の調達・購買部門はこう動いた―これからのほんとうのリスクヘッジ」執筆の過程で、情報の共有・分析について、バイヤーの意識が非常に薄い事実を目の当たりにしました。これは情報収集と、結果どう動いたかの点に連続性を見いだせず、最終的には情報収集に費やした時間が無駄になるケースが多いということです。常にやっているからこそ、戦略性を持って、アウトプットを意識することが重要である、インターネットの普及・一般化による情報の活用は、結果=行動に反映することを強く意識しなければならないのです。

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情報の「定点観測」について

戦略を構築して、具体的な行動計画をたて、狙った姿にビジネスを近づけるのは、過去から変わらないビジネスパーソンの任務です。変化の激しい、先の見にくい現代であればなおさら、その重要性は増しています。

ただ「戦略」とは、何もない状況から生み出すのは至難の業です。これまで行ってきたビジネスをベースにして、活用可能なリソースを元に、どんなマーケットにどのようなモノやサービスを、どういった形で顧客に提供していくかを検討し具体化しなければなりません。その際には、社内のリソースの適切な掌握と、社外の市場を分析が大きな二本柱です。ここでは社外の市場を分析に有効な指標情報の定点観測について述べます。

ある未来学者は、もっとも簡単な未来予測は、予測すべき未来の期間と同じだけ過去にさかのぼって、過去から現在までまったく同じく対応することだ、と言いました。これはある意味では正しいでしょう。しかし過去と同じを繰り返す「前例踏襲」を繰り返した結果、失われた10年とか20年となってしまったのが今の日本の姿です。去年と今年であれば、大きな変化は必要としないかもしれません。

しかし、環境は変化しています。毎年のわずかな変化に対応していなかった結果、10年、20年と経過して、いつしか大きな変化となって、自分たちが取り残されてしまった、私は今の日本がそんな状況に置かれている現実に大きな危機感を抱いています。そして、少なくとも、The調達2019を読んでくださっている皆さまには、環境変化に対応できずに苦汁をなめるような事態には陥ってほしくないと、心から願っています。

未来を見通すためには、現状を正しく理解して、今の立ち位置を明確にしなければなりません。経験にとらわれずに的確に「今」を判断するには、何らかの基準が必要ですね。われわれが取り組んでいるビジネスは、経済活動の一部です。幸いにして経済活動にはさまざまな指標が存在します。そんな指標に示された数値を読み解くことで、これからの行動に、さまざまな示唆を得られます。今回から始める「指標はこれを見ろ」では、実際に広く社会に流通している指標を発表のタイミングで取り上げて、調達購買の実務に役立つ読み解き方をお伝えします。

このシリーズで取り上げられている指標は、新聞やテレビ、シンクタンクによって、さまざまな視点で読み解かれています。ここでは、そういったニュース報道やリポートでなく、発表元のデータを直接読み解きます。ニュース報道やリポートの作成者と同じ視点の情報ソースにアクセスして、情報を見る・読み解く力を養います。私も過去に何度か経験していますが、公的機関の発表資料は、発表の日に紙の資料をもらいに行かなければなりませんでした。しかしインターネットによって無料でも入手が可能です。実際に生のデータに接していると、新聞報道やリポートが、いかに当たり障りのない内容で伝えられているかがご理解頂けます。当たり障りのない情報など、ビジネスの現場では活用できません。皆さんの日々のビジネスに役立つ読み解き方法の公開です。
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日銀短観
(全国企業短期経済観測調査、以降「短観」と表記します)

正式名称:全国企業短期経済観測調査
調査概要:調査母集団は、総務省・経済産業省の「経済センサス」をベースとした、全国の資本金 2 千万円以上の民間企業(金融機関を除く)。実際の調査企業は9860社(2018年12月調査)
調査頻度:年4回(毎年 4 月初、7 月初、10 月初、12 月央に、それぞれ 3 月、6 月、9 月、12 月の調査結果を、2 日間に分けて公表)

最新の日銀短観は、このページに発表資料がダウンロード可能な状態になっています。この資料の特徴は、圧倒的な調査対象企業の数です。例えば、景気の先行きを判断するための指標として「景気ウォッチャー調査」があります。この調査は2050人に調査をした結果(家計動向、企業動向、雇用等、代表的な経済活動項目の動向を敏感に反映する現象を観察できる業種の適当な職種の中から選定した2,050人を調査客体)です。短観がより多くの対象を網羅しています。回答を得て、データ化するには、多くの労力が割かれています。労力の分だけデータにも信ぴょう性が高く、日本経済を読み解く格好なデータです。

3ヶ月に一回の発表では、次の6つの確認ポイントだけは内容を理解します。

(1)短観(概要) 2.需給・在庫・価格判断
(2)短観(概要) 6.雇用
(3)短観(概要) 参考 業況判断の推移
(4)短観(概要) 参考 需給・価格判断の推移
(5)短観(概要) 参考 雇用人員判断
(6)短観(「企業の価格見通し」の概要)

それでは個別に説明します。

(1)短観(概要) 2.需給・在庫・価格判断

各項目の色づけは、私が見るべきポイントとして追加しました。この内容から、次のように読み取っています。

ここでは、

●生産能力の見通し
●仕入れ価格の見通し

を確認します。

今回ご紹介している(1)短観(概要) 2.需給・在庫・価格判断の確認ポイントは、詳細データの積み上げによって算出された大枠でのデータです。全体感を捉えるためには有効なデータです。しかし読者の皆さんの業種によっては、違和感、もしくは明らかに違う!と感じる方もおられるはずです。そんなとき、以下赤く四角で囲んだ部分から「業種別計数」を参照します。

(2)短観(概要) 6.雇用

ここでは、赤の部分をチェックします。マイナスであれば人材の過剰感が強くなります。2019年度には、次の2つについて、明確な方針を持つべきでしょう。1つめは、バイヤー企業内における人員の長期的な視野に基づいた過不足感の確認です。調達・購買部門には従来になかった新たな課題、CSR調達や、企業ブランド逸失の防止といった課題が山積しています。したがって人員数的な過不足感に加えて、雇用者と社内に必要となる能力、スキルがあるかどうか、量と質の両面での過不足感の確認が必要です。

2つめは、サプライヤー側での人員の不足で発生する問題です。この問題はバイヤー企業に供給能力管理、納期管理で非常に大きな影響をおよぼします。この問題で悩ましいのは、サプライヤーの従業員の数には、バイヤー企業といえども直接的な対策を講じられないとの点です。できるだけ少ない人員で仕事をこなしてゆきたい、そんな希望は、どんな企業であっても同じように持っています。したがって直接的な問題が発生し、具体的な改善の必要性がないと、なかなか強く申し入れもできません。この場合の解決策としては、これまでに見た需給の見通しや、これからご説明する景況感の判断で、需要が拡大する、景況感が良くなる見通しが出た場合、バイヤー企業としての増産計画をサプライヤーへ提示します。その上で、まずシミュレーションをお願いして、アクションへとつなげます。

(3)短観(概要) 参考 業況判断の推移

短観で見るべきポイントの3つめです。業況判断とは、いわゆる「景気」といった言葉で表現される業績のよしあしを見極めるための指標です。これもDI~ Diffusion Index(ディフュージョン・インデックス)で表記されています。

一般に景気は良い方がいいですね。しかし、調達・購買部門にとっては景気が悪い=需要が少ない状態のほうが、より有利な購入条件の設定には好都合です。供給力過多は、サプライヤー側での競争が激しくなる環境ですので、調達・購買部門には有利です。逆に景気が良くなって需要過多となれば、調達・購買部門は苦戦を強いられますね。需要過多が進めば、限られた供給の奪い合いが発生するのです。

ここで、景況判断による調達・購買部門の対応について考えてみます。例えばバイヤーを悩ませる「値上げ」の要因には、需要過多(需要>供給)状態がありますね。需要が供給能力を上回った場合、需要供給曲線で示される原理からも、購入価格は上昇します。需要過多が顕在化した環境下で値上げの申し入れを受けた場合、調達購買部門としては具体的な対応の術を持ちません。したがって目指すべき調達購買部門では、サプライヤーの生産能力やリソースを他のバイヤー企業と奪い合う事態は避けなければなりません。避けるためには、長期的な購入契約を締結したり、買い取り保証の条件設定を拡大して見直したりといった取り組みが必要です。

また限られた供給の奪い合いを防止する取り組みにはタイミングが重要です。需要が拡大基調となった後では、長期契約を持ちかけても売り手のメリットが少ないために、締結できない、締結できても条件としてはかなり悪くなる可能性が高くなります。したがって業況判断に変化のきざしが現れたタイミングを見落とさずに行動につなげなければなりません。前々回号で少しご紹介した内容を含め、景況感を判断する指標を、次の通りご紹介します。

景気ウォッチャー調査
 ・毎月25日~月末調査 ⇒ 翌月8,9日公表
 ・全国を11の地域に分類し、経済活動の動向を敏感に反映する現象を観察できる業種
 ・「家計」「企業」「雇用」「合計」の4種類の現状判断DI
 ・マクロ統計の公表スピードの遅さ(特に地方)をカバーする目的で実施

法人企業景気予測調査
 ・四半期ごとの調査 BSI(Business Survey Index)を算出
 ・直前四半期と比べた現在、翌四半期、翌々四半期も回答
 ・「大企業」「中堅企業」「中小企業」の3つのデータを発表
 ・「回答企業の景況」「国内の景況」「雇用」「来年度の企業収益・設備投資見通し」「売上」  「経常利益」「設備投資」

商工会議所LOBO(早期景気観測)
 ・毎月中旬に調査して、月末に発表
 ・全国419の商工会議所が3147企業にヒアリング
 ・業種別の景況感「建設」「製造」「卸売」「小売」「全産業」

(4)短観(概要) 参考 需給・価格判断の推移

この指標は、景況感でなくズバリ需給、加えて仕入れ価格と販売価格の見通しをDIで表しています。

(5)短観(概要) 参考 雇用人員判断


リーマンショック以降、人員の過剰感が一気に高まりました。しかし近年では、建設業や介護、飲食に代表されるサービス業で人手不足が深刻化し、2019年の現在ではあらゆる産業に人手不足問題が波及し、日本経済成長の阻害要因とさえ言われています。今年の4月には、新たな入国管理法の下で外国人労働者の活用の幅が広がります。しかし将来的に300万人もの労働力不足が懸念される中、新たな入国管理法で想定される外国人労働者数は30万人から40万人です。今回の入国管理法改正は、実質的な移民解放といった主張もあります。しかし想定された外国人労働者数では、日本の労働力不足は抜本的に解消しません。調達購買部門だけではなく、日本企業全体が残業時間を減らすだけではなく、現在のアウトプットをより短い時間でおこなうための効率化推進を行わなければ、まさに人手不足で企業成長ができない事態へと追い込まれるでしょう。


(6)短観(「企業の価格見通し」の概要)

最後に価格見通しです。この指標から、長期的に仕入れ価格は上昇傾向で、販売価格も3年先、5年先と時間の経過と共に「上昇」との見通しが増えています。調達購買部門ではもちろん「仕入れ価格」に一番の興味を持ちます。合わせ見ることで、長期的な仕入れ価格のアップを、調達購買部門ではコスト削減への取り組みで上昇の抑制に努力し、営業部門に対しても販売価格の改善を要請する根拠にしましょう。

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ISM指数

ISMとは、Institute for Supply Managementの頭文字をつかった略称で、日本語では全米サプライマネジメント協会とか、全米供給者協会といった言い方をされます。毎年5月に開催される総会では、調達購買に関わるたくさんのセミナーが開催されています。そのISMが毎月営業日の初日に発表するのが「製造業景況感指数」で、第3営業日には「非製造業景況感指数」が発表されます(リンクは最新の発表ページです)。

この指標は、世界で最も古いPMI(Purchasing Manager's Index、購買担当者景気指数)で、その歴史は1931年にまでさかのぼります。日本のシンクタンクも、この指標の発表を受けてリポートを作成していますし、発表の翌日にはニュースで必ず報道されます。意識していなくても耳にしている、そんな指標です。

この指標は、アメリカのISMに加入しているメンバーへのアンケート調査によって算出されます。調査手法としては、前回ご紹介した企業短期経済観測調査(日銀短観) と同様の手法であり、表現もDI(Diffusion index)を採用しています。アメリカ経済と日本経済は密接な関係を持っており「アメリカがくしゃみをすると、日本が風邪をひく」とも言われています。であるならば今回ご紹介の指標も重要性に疑いはありません。しかし経済環境は大きく変化しており、この指標の位置づけも変化しています。そもそもアメリカの指標なので、活用法には注意が必要です。

(1)米国経済と関係の深い産業の先行指標としての位置づけ

日本のシンクタンクが発表するISM指数に関するリポートを参照すると、日本の景況感とのリンクを挙げています。ここでは、ある資料の記載内容を元に少し違う参照方法をお伝えします。

この資料は経済産業省が作成し、2013年に公開された「2005年日米国際産業連関表による分析」です。57ページにもおよぶ資料です。今回ご紹介のISM指数との関連したポイントは次の3点です。

①米国需要によって喚起される日本の需要は、2000年と比較すると減少傾向が見られる
②比率で見る限りは、日本の需要によって喚起される米国需要の割合が大きい(ただし絶対額は比較的少ない)
③米国需要によって喚起される日本需要は、特定の産業(機械、自動車)の割合が際立って高い

となります。従って、機械産業や自動車産業に従事していなければ、この指標の重要性はあまり高くありません。日本国内の生産活動は、2005年時点で日本国内の需要に84.8%依存しています。この指標と日本の景況感とリンクするとの指摘は多く見られますが、産業構造的に根拠に乏しいのです。

ただ上記③の部分で、特定の産業には、生産活動の先行指標として十分に参考にできます。代表的な産業としては、電子部品デバイスや輸送機械です。同じく経済産業省の発表する鉱工業生産指数と照らし合わせてみると、おおむねトレンドに同じ傾向が見られます。

一方同じ輸送機械でもトラックや、化学工業(需要として内需が強い傾向を持つ産業)とISM指数を同じグラフ上に表示してみました。先ほどの例とは少し異なるトレンドを示しているとご理解いただけますね。

ISMが発行している初級者向教育資料の中に、ISM指数の活用方法が明記されています。そこには、発注量の見通し決定の参考資料とか、価格見通し、不足が予想されるアイテムの抽出といった事例が明記されています。米国経済と関連の深い業種であれば、同じように活用できます。しかし他の多くの日本国内内需によって支えられている産業では、あくまでも参考としての指標として扱います。

日本企業の調達購買部門に勤務するバイヤーであれば、ISM指数よりも、前回ご紹介した「企業短期経済観測調査(日銀短観)」であり、今回も一部触れている「鉱工業生産指数」の重要度が上です。加えて自社の販売市場や、調達先にアメリカが関係しているのであれば、このISM指数も大いに活用すべき指標なのです。

(3)参照方法

このページでは、次のような内容が記載されています。すべての数値が、調達購買業務に関連している数値です。

今月 前月
PMI        54.9 53.7 +1.2 Growing Faster 11
New Orders      55.1 55.1 0.0 Growing Same 11
Production      55.7 55.9 -0.2 Growing Slower 2
Employment      54.7 51.1 +3.6 Growing Faster 10
Supplier Deliveries 55.9 54.0 +1.9 Slowing Faster 11
Inventories      53.0 52.5 +0.5 Growing Faster 3
Customers' Inventories 42.0 42.0 0.0 Too Low Same 29
Prices          56.5 59.0 -2.5 Increasing Slower 9
Backlog of Orders 55.5 57.5 -2.0 Growing Slower 3
Exports         57.0 55.5 +1.5 Growing Faster 17
Imports         58.0 54.5 +3.5 Growing Faster 15

OVERALL ECONOMY     Growing Faster 59
Manufacturing Sector Growing Faster 11

もう1つ、これは多くの読者の皆さんに有効な情報をお伝えします。同じページに記載されています

COMMODITIES REPORTED UP/DOWN IN PRICE AND IN SHORT SUPPLY

Commodities Up in Price
Chemicals; Electrical Components (2); Electronic Components (5); Freight; Labor — Construction; Metal-Based Products; Natural Gas; PET Resin; Printed Circuit Boards; Steel* (4); and Steel-Based Products (8).

Commodities Down in Price
Aluminum (3); Caustic Soda (3); Crude Oil; Gasoline; Steel* (4); and Steel — Hot Rolled (4).

Commodities in Short Supply
Capacitors (18); Electronic Components (8); Hardwood; Labor; Resistors (14); Steel; and Steel-Based Products (3).

これは、市況が上昇傾向にあるか、下落傾向にあるか、また需要過多となっているアイテムがあるかを非常にシンプルにまとめています。コモディティアイテムの傾向は、日本でも参考にできるのです。

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企業物価指数

この指標は2002年まで卸売物価指数といわれてきました。現在では、消費者物価指数と並んで、代表的な物価を推し量る指標です。消費者物価指数との違いは、企業間(BtoB)で取引される商品の価格がベースデータとなっており、われわれの日々の仕事の結果を表している指標とも言えます。

企業物価指数は、基本分類指数として3つの指数で構成されています。3つの指数の推移が読み取れるグラフと、代表的な構成要素の数値が表で明記されています。

1.国内企業物価指数(CGPl:Corporate Goods Price Index)

国内市場向の国内生産品の企業間における取引価格が調査対象

2.輸出物価指数

日本から積み出される段階の価格が調査対象

3.輸入物価指数

輸入品が日本に入着する段階の価格が調査対象

毎月発表されるリポートでは、上記以外にも「参考」として、

・需要段階別・用途別指数
・連鎖方式による国内企業物価指数
・各物価指数の時系列データ

ここまでのご説明でご理解いただけるとおり、調達購買部門における購入価格を根拠に決定される指標です。それではこの指標はどのように活用すべきでしょうか。

(1)価格トレンドの掌握

この指標は、価格の変動を表しています。したがってコスト削減に際しても、値上げ対応でも、世の中の一般的なトレンドはどうなっているかを知る上では、もっとも適した指標です。毎月発表されるリポートには掲載されていませんが、今号の「ほんとうの調達・購買・資材理論」で示した詳細データを参照すれば、自分が購入を担当する製品と同じ、もしくはかなり近い製品のトレンドを入手できます。そういったデータと、自社の購入価格のトレンドを比較します。ポイントは、同じトレンドに満足しない点です。上昇のトレンドでは、いかに抑制するのか、下落のトレンドでは、いかにしてトレンド以上の下落を購入価格に反映させるか。また為替レートや原材料価格の変動の影響も、この指標には現れますので、マイナス影響の反映を遅らせる、プラス影響は早く反映させるといった、アラート的な役割も可能です。

(2)サプライヤーや社内関連部門への調達購買部門の主張の根拠

昨年この有料マガジンでお伝えした「値上げ対応」でもお伝えした内容です。サプライヤーからの値上げ要求のサプライヤー社数換算で半分以上は「雰囲気」による便乗値上げの可能性があります。バイヤー企業がサプライヤーへ値上げ要求の明確な根拠の提示を求めて、サプライヤーからの反応がない、実質的に値上げ要求を取り下げるのは、影響が少なくて、サプライヤー側で吸収できるレベルである証です。ただそれでも急激な為替変動や、原材料市況の高騰など、マイナス面の影響も考慮しなければならないケースは存在します。

例えば、調達購買部門からサプライヤーからの値上げ要求を社内に報告する場合、こういった指標を活用することで、値上げ要求の根拠が明確化できます。そもそも為替や原材料費の購入価格に与える影響は、調達購買部門のみならず、全社で対応すべき課題です。具体的には、より影響の少ない材料への切り替えを技術的に検討したり、バイヤー企業のお客さまへの値上げを検討したりといった対処です。しかしサプライヤーからの値上げ要求だけでは、なかなか社内の関連部門を動かすのは難しいですね。そんな場合に、マーケットの傾向を示すには、この指標は格好の材料を提供してくれます。

(3)品目ごとの調達戦略の基礎資料

詳細データの検索では、1980年以降のデータが入手できます(品目による)。1980年以降といえば、1970年代後半のオイルショックから立ち直り、1985年のプラザ合意による円高進行、バブル景気、そしてバブル崩壊にともなう長期不況、ネットバブル、そしてリーマンショックと、いろいろな企業活動に影響をおよぼす出来事がありました。現在の状況では、1997年に消費税を3%から5%にアップさせたとき、何があったのかは参考になる場合もあります。重要な購入品であれば、自社にデータが存在する限りの過去にさかのぼって、その時々の価格への根拠を見いだす取り組みも、今の価格決定にとって重要な参考資料となります。

需要段階別の指数では、原材料費の変動をおよぼす影響が推測できます。また自社の購入品と自社製品の価格トレンドをクロスチェックして、営業部門へお客さまへの値上げ要求の検討要請の根拠にしたりしています。

調達購買部門は、購入する財やサービスの価格決定に責任があります。企業物価指数は、根拠としても活用できるし、価格の推移から仮説構築にも利用できるし、私がもっとも活用しているデータです。データを見て、ダウンロードして加工し、自社の購入データと同じグラフ上に表示していたら、あっという間に数時間は経過してしまいます。皆さまにはご理解いただけないかもしれませんが、私にはとってもおもしろいのです。

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