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「シンガポール」をイカします! #100日間連続投稿マラソン


 今日はアセアンそよかぜさんからいただいたお題をイカします!アセアンさんありがとうございます(*'ω'*)


「シンガポール」

くコ:彡 くコ:彡 くコ:彡💦ピューン

 夜になっても、空気は少し熱かった。

 暗闇に白く光る橋がずっと続いていて、人々はその上をゆったり歩く。様々な言語がごちゃ混ぜになって聞こえてくる。弾んだ声、疲れているけど楽しそうな音、うきうきしたアクセント、色とりどりの荷物、マリーナ湾から吹く風みたいに穏やかな会話。髪が揺れて頬をかすめる。体が解放されて、自然と頬が緩み、異国の空気を思い切り吸い込んで、微笑んでいる、つもりだった。

 私はうつむきながら、流されるように橋を歩いた。視界に、白や青や黄の電光に照らされる灰色のタイルと、しまむらで買ったサンダルにマニキュアもつけていない素肌の足指が、ゆっくり現れては消える。ここには世界があって、否応なくそこに放り込まれているはずなのに、私はまったくのひとりぼっちだった。硬い殻が私と世界の輪郭を埋めてしまっていた。蹴っ飛ばしても、金槌で殴っても割れない殻。

 日本にいるときと一緒だ。二年前のあの日から、ずっとそうだった。私は殻の中でどんどん色を薄めて、消えてしまいそうだ。それならそれでいい。なのに友達は「元気を出して」と言うし、上司は「過去にとらわれてはいけない」と言う。姉はよりによってこの国の二人旅行を手配してくれて、屋台村に行きたいと言うので私は断ってしまった。今ごろ彼女は世界と溶け合って、どろどろに酔っているだろう。私はそのうち外側だけを残してきれいな空っぽになってしまう。

 周囲から大きな歓声が上がった。カラフルなサンダルや靴たちが立ち止まるのが視界に入る。小指の爪だけ赤く塗った足、少しずつ色のちがう肌、石の散りばめられたサンダル。拍手。やわらかな笑い声。スマホのシャッター音。私も思わず顔を上げる。

 

 

 息ができなくなるほど、巨大な建物だった。



 これを正しく描写することなんか私にはできない。

 人々の華やかな歓声と、拍手と、きらきらした目があった。建物は夜空に輪郭を溶かして、オレンジ色の小さな小さな四角の窓を機械的に整列させて、こちらに倒れてきそうな恐怖を感じるほどに、高かった。ビル肌に光が当てられた。やわらかな青や、赤や、水色、ピンク、光線みたいな緑。紫の噴水がほとばしった。そうだ、あの一番上に、世界一高い天空のプールがあるんだって、彼がそう言っていた。世界一美しいホテルなんだって。

 これをふたりで見ようと、翔太は言ったんだ。

 彼は何回もその話をして楽しそうにお酒を飲んで、おつまみはポテトチップスが好きで、うさぎを飼いたがって、いびきがうるさくて、笑うと皺だらけになって、転職して、突然病気になって、いなくなった。

 私は目尻を手の甲できつく拭った。唇を噛んで声を押し込めた。あれからの二年間、私はぽっかり浮かんでしまって、あの、温度のなくなった手を握ったあの場所から、一歩も、どこにも動いていない。視界がにじんで、光が幾何学模様に広がる。何度まばたきしても消えなくて、目を開けるたびに糸を引いて輝いた。私は深呼吸をくり返して、やっと落ち着けようとした。

「君なら、きっと大丈夫」

 後ろから、懐かしい声がした。

 私は振り返った。髪が唇に触れる。

 しかし、どの景色も人混みが行ったり来たりしているだけだった。みんな、瞳をうっとりさせて、唇をきらきらさせて、光に合わせて色を変えながら思い思いの方向へ歩いていく。写真を撮ろうと肩を組む。手を叩いて笑う。半魚のライオン像だけが、湾のふちに立ってじっと動かなかった。








 #100日間連続投稿マラソン 23日目でした!お付き合いいただきありがとうございました(*'ω'*)

 国名を題材にするということで、すごく難しくて、でも新しいことを知りながらですごく楽しかったです!シンガポールに行ったことがなので、ツイッターの画像などを漁りましたが、実物をみたことがある方にはかなわないだろうな…と思いながら(*´▽`*)シンガポールに行ってみたくなりました✨

 

#イカ変態同好会 、ついに終わってしまいました。さみしい朝でした…笑

 お題ごとにいただいたイカ作品を集めて、読んでも楽しいイカ記事をつくりたいなあと、やっているところです(≧▽≦)少々お待ちください🦑

 では、また明日お会いしましょう(*´▽`*)/


サポートをお考えいただき本当にありがとうございます。