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2022年4月の記事一覧
ぴえん充電(毎週ショートショートnote)
これ見よがしに長い脚を組んで隣に座った女は、新作のブランドバッグを持っていた。充電を終えた私は、コードを抜き立ち上がる。
女の涙は武器と言うが、さめざめ泣いては重いし、わんわん泣いては色気がない。コツはぴえんと泣くことだ。勿論そんな泣き方は演技に決まっているので、エネルギーを使う。出勤前のぴえん充電は必須だった。
ドレスに着替えると早速ご指名。今日こそあのバッグを買わせてやるんだから。
ショートショート「骨を拾う」 (TO-BE小説工房選外佳作)
公募ガイドで募集されていた、「阿刀田高のTO-BE小説工房」最終回で選外佳作に引っかかったやつです。テーマは「骨」でした。
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「なあなあ、かばんって黒ければ何でもええんかな?」
どたどたと走ってきた妹はもう四十を超えているのに泣きそうな顔で、玄関で靴を履くおれにかばんを見せてきた。さすがにいつもよりは薄化粧にしていて、少しくすんだ唇の色を見ると、こいつも年を取ったなと思う。右下にワンポ
ショートショート「生まれ変わる」(ちくま800字文学賞応募作品)
「生まれ変わった私たちを、今後ともよろしくお願いいたします!」
鈴木さんは立ち上がるとそう言って頭を下げた。A社の鈴木さんが挨拶に来た目的は、このたびの社内改革を説明するためだった。部署統合と人員削減により、今後は大きく価格を抑えられると言う。
鈴木さんとは私が新卒で入社した頃からの付き合いだ。着なれないスーツを着て自分の名前を噛みながら名刺を渡した私に、そんな緊張しなくていいよ、と笑っ
読書石けん(毎週ショートショートnote)
子供の活字離れが叫ばれて久しい。
コンテンツに溢れたこの時代、本を読む子供など絶滅危惧種に近い。文章を読むことは思った以上に忍耐力を必要とする。
そんな中発売された「読書石鹸」は飛ぶように売れた。この石鹸で洗った服を着せると、子供が読書家になるという。
ぴかぴかの服を着て本に齧り付く我が子の姿に、親たちは手を取り合って喜んだ。
しかし、数ヶ月後、あちこちの家庭で悲鳴が上がった。
「何してるの!